『ファン・テギョンというのか・・・』
『ええ、とても良く似ているので私としても幽霊でも見ている様です』
クスリと忍び笑いを噛み殺したスハの前で男は、写真に見入っていた。
『私か、それとも・・・こいつ、か・・・』
投げ出された写真と数枚の資料を纏めたスハは、指を鳴らし、その音に扉に控えていた男性が居室を出て行った。
『私より年下らしいな、幽霊だとしたらそっちだろう』
『大して変わらないでしょう。ほんの数か月じゃないですか』
『母の血だろうな・・・先祖返りとでもいうべきか・・・』
『貴方のお顔立ちは確かに西方では珍しいですからね。でも兄上ともよく似ておいでだ』
『お前だって似ているぞ。顔も環境によって作られるんだ・・・・・・好い顔をする様になったな・・・』
男の言葉を信じられない物でも見る様な目付きで見下ろしたスハは、やがて瞼を落して笑った。
『・・・貴方のお蔭です』
『祖父には連絡しているのか!?最も、俺の傍にいれば、嫌でも近況は見えるだろうが』
『一度だけ手紙が来ました。母の事は忘れろと・・・俺にこんな名前を付けたのは、娘に期待を掛け過ぎた祖父と母のエゴだからと・・・』
『忘れられてたんじゃなくて、忘れられる様に仕向けられてたんだからな・・・大事な血筋を隠していたなどと女というものは怖い・・・』
『でも、見つけて頂きましたから・・・』
『お前も良くあんな状況下で賢く育ったものだ。その点は、祖父に感謝するぞ』
『私は、引き上げて頂いた貴方に感謝してますよ。お役に立ちたいと思っています』
開かれた扉の向こうに朝陽を背にしてその人は立っていた。
泣き叫ぶ母を引き止める男達を従えて、伸ばされた手に腕を掴まれた時、外に出られることに戸惑ったが、逆光で見えなかったその端正な顔立ちとでも何よりも無邪気な笑顔を向けてくれたこの人の元で活きたいとそう思っていた。
そんな事を考えながらスハは笑っていた。
『それなら・・・もっとソヨンとの仲を蜜に取り持ってくれても良いのではないか!?何の為にお前をアシスタントに残してきたのか・・・』
『それとこれとは、兄上に叱られるのは避けたいですからね』
『チッ・・・真の権力者は、怖れを無心で語るのか・・・』
男が立ち上がると同時に扉が開き、腰の後ろで手を組んだ老人が、ギラリと鋭い眼光でふたりを見据えて立っていた。
『はて、さて、爺(じい)の出番ですかの・・・』
『ああ、少々交渉に手間取っている・・・爺も同席してくれ』
『御意、幾らでも睨みを利かせましょうぞ』
堅苦しい言葉と目元とは裏腹にニンマリ口元を緩めた老人を見つめていたスハ達だった。
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