ウキウキキョロキョロ先を行くミニョにテギョンは、唇を突き出して不満そうに歩いていた。
既に心がここに無いミニョは、道端の土産物屋に並ぶキーホルダーを手にしてそれに見入り、店主に声を掛けられた。
『可愛いです。えっと、でも、何て言っているのか・・・』
『お前なら、そっちのネックレスの方が良いんじゃないかと言っているんだ』
追いついて横に並んだ肩越しに尊敬の眼差しを向けたミニョを余所に店主と話し始めたテギョンは、花のモチーフがついたネックレスをミニョの胸に充てた。
『ふーん・・・流石、本場だな・・・マドンナリリーか・・・』
『マリア様ですね!』
純白の百合のモチーフを見下ろしたミニョは、嬉しそうにテギョンを見上げた。
『ああ、知ってるか、マドンナリリーってのは、19世紀にイルボン(日本)のユリと区別する為に名付け
られたんだ。16世紀ルネサンスの象徴だな・・・・・・あの教会にもそんな絵があるらしいぞ・・・』
『え、あの教会そんなに古いのですか!?』
『そうらしい・・・行くぞ』
店主と二言三言言葉を交わしたテギョンは、今度はしっかりミニョの手を握っていた。
引き摺られる様に歩き出し慌てて振り返ったミニョは、綻んだ表情の店主に頭を下げた。
『買って・・・くれないのですか・・・』
『買って欲しかったのか!?』
『・・・そういう訳じゃないですけど・・・』
真剣な顔で物色していたテギョンの胸の内を期待したミニョは、少しだけがっかり顔で、けれど次の言葉に現金に表情を変えた。
『楽しみは後にしておけ!まずは、あそこを見てからだ』
通りの正面には、大きな扉が口を開けていた。
買い物帰りの女性や、子供達、杖をついたお年寄り等、数人が、そこへ入って行き、観光地ではなくとも町の中心を担っているらしいそこは賑やかだ。
中へ足を踏み入れたふたりは、丁度始まった聖歌隊の合唱に目を奪われた。
『わっ、凄い』
『本格的だな・・・』
少人数の小さな合唱隊だが、子供から大人まで、指揮者も正面上段で指導をしていて、先程の子
供達も白い装束を纏ってその輪の中に加わり、住民らしき人々が、思い思いの場所で聞き入っていた。
『素敵ですねー』
『ああ、思わぬ収穫だ・・・』
近くの長椅子に腰を落ち着けようとしたテギョンは、ミニョの視線に気づき手を離していた。
祭壇へ向かうミニョは、その手にキャンドルを握り、聖歌隊を見守っていた神父に頭を下げた。
『献灯か・・・俺には、縁の無い事だな・・・』
神父に指示されながら蝋燭を置いたミニョの背中を見つめ、祈りの為に用意された台座に肘を置いて教会の内部を見回していたテギョンだった。
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