絢爛豪華に瀟洒な数世紀は前の宮廷の名残を残したまま内装だけを現代的に造り変えられたホテルの最上階では、揃いのスーツを着込み、視線を追われない為のサングラスを一様に着用し、無線用のイヤホンを耳に充てた男たちが廊下の両端にズラリと並んでいた。
物々しいが、静寂に包まれていたその廊下が、慌ただしくなったのは、エレベーター前に立っていた年若い警備員が押し問答に負けたからだ。
平伏した侍従をふたり従えて廊下の真ん中を闊歩する少年は、真っ直ぐ突き当りの扉が開かれるのを待って、怒鳴りこんでいた。
『叔父上!何っなんですかっこの服はっ!!!』
一際背が高く厳めしい顔をした男達が守る扉が開かれて、少年は、その部屋へ入るなり頭に乗せていた布を投げ捨てた。
『・・・外遊には、それなりの服装で出向くのが礼儀だと教え込まれているだろう・・・』
窓に向けられた一人掛け用のソファから若い男が返事をし、ティーカップをテーブルに置いて立ち上がるとこちらを向きながらたった今少年が投げ捨てた布と同じ物を首に下ろし、一括りにされた長い髪を肩から前に垂らしていた。
『母様と遊ぶだけなのにこんな物、必要無いのですっ!民族衣装なんて欠片もいりませんっ!郷に入っては、郷に従えと父様が仰ってましたっ!普通の服で良いんですっ!普通でっ』
体に巻き付けていた布も取り去る少年は、下に着込んでいたシャツに中途半端に巻かれていたネクタイを最後まで結び、鏡の前に駆け寄った。
『お前が王子である以上、致し方無い事だ』
『今日は、王子ではないという約束ですっ!それにっそんな格好をしていたら母様に遊んで貰えないでしょうっ!』
『そんな事で怒る様では、チェ・ソヨンの器が小さいという事だな』
少年付きの侍従が拾った布の上に最初に投げ捨てられた布を乗せた男は、部屋に入ってきたスハに目配せをして控える様に指示を出し、スハも心得たもので黙って壁際を歩いて待機した。
『器が小さいんじゃなくて叔父上がっ母様に怒鳴りこんで欲しいんでしょう!!!約束すっぽかされたからって僕をダシにしないでくださいっ!母様に会いたかったら直接言えば良いんですっ!父様に言いつけますからねっ!』
『まぁ、そう可愛い顔で怒るな・・・ソヨンの奴、お前には、喜々として会う癖に俺との約束は、甚だ約束と思っていないようなので、ちょっとムカついているんだ』
『息子なんだから当たり前ですっ!叔父上だって奥を一杯連れて来てるんだから、叔母様方に遊んで貰えば良いじゃないですか・・・母様の事なんか早く忘れれば良いんですよ・・・』
『奥達は買い物に夢中なんだ。それとお前の母程の女は、中々いないのだから致し方ない・・・』
『不毛な恋だって父様が仰ってましたよ・・・母様は、まだ、父様がだいっ好きなのに・・・』
『子供が大人の色恋に口出しをするんじゃないよ。恋しがるのは勝手なんだぞ』
『理解できませんっ!母様は、ずっと綺麗だけど父様だって叔父上より格好良いもの!別れてたって恋人同士なんだし、入る隙なんか無いんだから早く諦めてくださいっ!』
振り返った少年は、スハに気付き、男が受け取って開いた資料に目を細めた。
『・・・・・・高い山程攻略したくなるんだ・・・・・・低い土地ほど、深く掘り下げたくなる様に・・・な』
『・・・地脈の調査・・・決まったのではないのですか!?』
少年と男がヨーロッパに滞在している理由。
それは、国に無い技術力を買う為であって、ソヨンもまた通訳として、これに関わっていた。
『金はあっても技術力が無いのが我々の欠点だからな・・・もう少し交渉を続けなくては・・・』
『また、母様に頼むのですか!?』
『お前の母は、その為に外にいるんだ・・・やがて、お前が継ぐ国の為に夫も祖国も捨てたんだぞ』
『母様が出て行かれた頃は、僕の国になる予定じゃ無かったでしょう・・・叔父上が長と話し合って決めたんじゃないですか・・・勝手な事を言わないでください』
『はは、そう言うな、お前ほど優秀な子が出来ないのだから致し方ない』
『母様にもうひとり産ませようとしてる癖に・・・』
『ソヨンの産む子ならお前でなくても可能性があるからな。お前の補佐なら尚更ソヨンの子が良い』
『父様と作るなら賛成しますが叔父上との間の兄弟なんて絶対に御免ですっ!』
『おっ前、本当にソヨンによく似てるな!兄上と似てるのは顔だけかっ!』
『知能は、お爺様譲りです!叔父上もそうでしょう!だから長だって認めたんです』
口をへの字に曲げて忌々しそうに舌打ちをした少年は、侍従から時計とバッグを受け取った。
『とにかく!今日、僕は、普通の子供として過ごしますからねっ!ボディガードが付くのは仕方無い
ですけど、母様もいるんだから遠巻きにしてくださいよっ・・・自分の身くらい自分で守りますっ』
『ガキの癖に威勢の良い事だ』
『そうでなければ叔父上の補佐なんて勤まらないって、スハも言ってましたよーーだ』
憎まれ口を叩いて部屋を出て行った少年を見送った男は、スハに向き直った。
『母がいなくとも逞しく育つものだな・・・』
『頻繁に連絡を取っていらっしゃいますからね。週に一度は、必ずメールを送られています』
『ソヨンに連絡は!?』
『済んでいます。夕方には、合流出来ます』
『もうひと働きして貰わなくては、ならないか・・・・・・兄上に殺されそうだな・・・』
窓の外を見つめ、テギョンによく似た面立ちを撫でた男は、スハに笑われて剥れていたのだった。

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平伏した侍従をふたり従えて廊下の真ん中を闊歩する少年は、真っ直ぐ突き当りの扉が開かれるのを待って、怒鳴りこんでいた。
『叔父上!何っなんですかっこの服はっ!!!』
一際背が高く厳めしい顔をした男達が守る扉が開かれて、少年は、その部屋へ入るなり頭に乗せていた布を投げ捨てた。
『・・・外遊には、それなりの服装で出向くのが礼儀だと教え込まれているだろう・・・』
窓に向けられた一人掛け用のソファから若い男が返事をし、ティーカップをテーブルに置いて立ち上がるとこちらを向きながらたった今少年が投げ捨てた布と同じ物を首に下ろし、一括りにされた長い髪を肩から前に垂らしていた。
『母様と遊ぶだけなのにこんな物、必要無いのですっ!民族衣装なんて欠片もいりませんっ!郷に入っては、郷に従えと父様が仰ってましたっ!普通の服で良いんですっ!普通でっ』
体に巻き付けていた布も取り去る少年は、下に着込んでいたシャツに中途半端に巻かれていたネクタイを最後まで結び、鏡の前に駆け寄った。
『お前が王子である以上、致し方無い事だ』
『今日は、王子ではないという約束ですっ!それにっそんな格好をしていたら母様に遊んで貰えないでしょうっ!』
『そんな事で怒る様では、チェ・ソヨンの器が小さいという事だな』
少年付きの侍従が拾った布の上に最初に投げ捨てられた布を乗せた男は、部屋に入ってきたスハに目配せをして控える様に指示を出し、スハも心得たもので黙って壁際を歩いて待機した。
『器が小さいんじゃなくて叔父上がっ母様に怒鳴りこんで欲しいんでしょう!!!約束すっぽかされたからって僕をダシにしないでくださいっ!母様に会いたかったら直接言えば良いんですっ!父様に言いつけますからねっ!』
『まぁ、そう可愛い顔で怒るな・・・ソヨンの奴、お前には、喜々として会う癖に俺との約束は、甚だ約束と思っていないようなので、ちょっとムカついているんだ』
『息子なんだから当たり前ですっ!叔父上だって奥を一杯連れて来てるんだから、叔母様方に遊んで貰えば良いじゃないですか・・・母様の事なんか早く忘れれば良いんですよ・・・』
『奥達は買い物に夢中なんだ。それとお前の母程の女は、中々いないのだから致し方ない・・・』
『不毛な恋だって父様が仰ってましたよ・・・母様は、まだ、父様がだいっ好きなのに・・・』
『子供が大人の色恋に口出しをするんじゃないよ。恋しがるのは勝手なんだぞ』
『理解できませんっ!母様は、ずっと綺麗だけど父様だって叔父上より格好良いもの!別れてたって恋人同士なんだし、入る隙なんか無いんだから早く諦めてくださいっ!』
振り返った少年は、スハに気付き、男が受け取って開いた資料に目を細めた。
『・・・・・・高い山程攻略したくなるんだ・・・・・・低い土地ほど、深く掘り下げたくなる様に・・・な』
『・・・地脈の調査・・・決まったのではないのですか!?』
少年と男がヨーロッパに滞在している理由。
それは、国に無い技術力を買う為であって、ソヨンもまた通訳として、これに関わっていた。
『金はあっても技術力が無いのが我々の欠点だからな・・・もう少し交渉を続けなくては・・・』
『また、母様に頼むのですか!?』
『お前の母は、その為に外にいるんだ・・・やがて、お前が継ぐ国の為に夫も祖国も捨てたんだぞ』
『母様が出て行かれた頃は、僕の国になる予定じゃ無かったでしょう・・・叔父上が長と話し合って決めたんじゃないですか・・・勝手な事を言わないでください』
『はは、そう言うな、お前ほど優秀な子が出来ないのだから致し方ない』
『母様にもうひとり産ませようとしてる癖に・・・』
『ソヨンの産む子ならお前でなくても可能性があるからな。お前の補佐なら尚更ソヨンの子が良い』
『父様と作るなら賛成しますが叔父上との間の兄弟なんて絶対に御免ですっ!』
『おっ前、本当にソヨンによく似てるな!兄上と似てるのは顔だけかっ!』
『知能は、お爺様譲りです!叔父上もそうでしょう!だから長だって認めたんです』
口をへの字に曲げて忌々しそうに舌打ちをした少年は、侍従から時計とバッグを受け取った。
『とにかく!今日、僕は、普通の子供として過ごしますからねっ!ボディガードが付くのは仕方無い
ですけど、母様もいるんだから遠巻きにしてくださいよっ・・・自分の身くらい自分で守りますっ』
『ガキの癖に威勢の良い事だ』
『そうでなければ叔父上の補佐なんて勤まらないって、スハも言ってましたよーーだ』
憎まれ口を叩いて部屋を出て行った少年を見送った男は、スハに向き直った。
『母がいなくとも逞しく育つものだな・・・』
『頻繁に連絡を取っていらっしゃいますからね。週に一度は、必ずメールを送られています』
『ソヨンに連絡は!?』
『済んでいます。夕方には、合流出来ます』
『もうひと働きして貰わなくては、ならないか・・・・・・兄上に殺されそうだな・・・』
窓の外を見つめ、テギョンによく似た面立ちを撫でた男は、スハに笑われて剥れていたのだった。
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