二階へ戻る途中、モッタ氏から車とモッタ夫人からバッグを借り受けたテギョンは、荷造りを終えてタイを締め直していた。
鏡に写る自分を角度を変えて暫く眺め、気合を入れると真っ直ぐ隣の部屋へ向かったが、鍵を掛けて在る筈の部屋のドアは、あっさり開き、胸ポケットに突っ込んでいた手の中身を溜息と共に落としていた。
『ったく、どれだけ無防備なんだよ・・・襲われても絶対文句は言えないだろう・・・俺とミナムだけじゃ
ないって事を少しは、自覚しろよな・・・』
それは、宿舎で散々そうなのだから今更な気もしたが、頭を振ったテギョンは、ミニョの眠るベッドに近づいた。
天蓋が揺れる豪華なベッドは、貴公が近づけば、瀟洒(しょうしゃ)な陽が射し、スヤスヤ眠る美しい姫を見つけて息を呑みそうだが、これは、御伽噺ではない。
ミニョを見た途端、ガックリ項垂れたテギョンは、目を細めながらベッドに這い上がっていった。
『チッ!ったく、良ーい顔して寝やがって・・・このまま襲っちまうかな・・・』
『ん・・・オッパ・・・らーめー・・・』
馬乗りで、頬に触れた途端寝返りを打ったミニョが、ニンマリ笑って枕を投げつけた。
『なっ・・・』
退避した体で顔を庇ったテギョンは、それ以上何もしてこないミニョを見つめて枕を抱きしめる手首を握り、頬を叩き始めた。
『おいっ、コ・ミニョ!起きろっ!』
『んぅ・・・オッパ・・・痛い・・・』
半開きの目を閉じたミニョは、動かない体に首を傾げ、やがてパチンと目を開けた。
『ヒョヨヒョンニー』
『うるさいから口は閉じておけ!説明は後だ!さっさと起きるんだよ』
枕を引っぺがし、顔に押し付けたテギョンは、腕を引いてミニョを起こし、クローゼットに向かった。
『さっさと着替えろ!着替えも用意しろよ!出掛けるぞ』
『はぇ!?』
『必要なものを詰めろ。ああ、一泊だけだから、大して必要は無い』
クローゼットから適当なボストンバッグをミニョに向かって投げつけ、カーテンを引いた。
『・・・一日一着・・・だったな・・・今日と・・・明日と・・・』
ブルーグレイのワンピースを引っ張り出したテギョンは、もう一着を物色した。
『ヒョ・・・ン・・・どこか行くのですか!?』
『どこでも良いだろう・・・俺と一緒ならどこでも楽しい筈だ』
『そ・・・』
『それとも何か!?俺とはデートをしたくないとでも!?』
『そ、そんな事っ、言ってませんっ』
激しく首を振ったミニョに満足そうに笑うテギョンは、ピンクの上着とグレーのスカートのアンサンブルを取り出し、頷いた。
『これを着ろ!10分以内に下に降りて来い』
近づいたミニョの胸元にハンガーごと押し付けて時計を見たテギョンは、部屋を出て行き、言いかけた口を噤んだミニョは、きょとんとしながら慌てて着替えを始めていたのだった。
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