『ヌッナ・・・なにするんだよー・・・止めなくちゃー、止めてくれよー・・・』
羽交い絞めにされてジタバタするミナムは、身長と女性の割に力のあるソヨンの腕の中で爪先立っていた。
『止めてどうなるのよ・・・放っておいたってそういう時は、必ず来るのよ。人の恋路を邪魔して楽しまないの!ミニョだって、いつまでも箱には入れておけないのよー』
テギョンの姿がすっかり見えなくなって漸く解放されたミナムは、息を吐いていた。
『別にー大事にしてる訳じゃないけどさー、俺のミニョが、あいつに染まったら、俺が遊べなくなっちゃうじゃん!それに、あいつあの女の息子なんだぞー』
『誰の息子でもミニョが好きなんだから良いのよ。貴方のじゃないし、彼のでも無いからミニョが決めるわ。大体、自分は好き勝手にやって来たんだから言えた義理じゃなしっ』
向かい合ったミナムの眉間に人差し指を突きつけて押し込んだソヨンは、フッと笑って腕を組みながら背中を見せ、奥へ向かった。
『メネットが言ってたわよ・・・ミナムは、ミニョを守るのに必死だけど、全部自分の為だって!ミニョに告白しようとした子達を脅かして稼いでいたんだってね・・・』
『うっへ・・・なっんでそれ・・・』
ミナムも後を追っていく。
『ソ・ジュノを知っているでしょう!?Sデパートの御曹司。あいつ、貴方の悪友だったのよね!?』
辺りを見回して如雨露を手にしたソヨンは、きょとんとするミナムに渡して、水道を指差した。
『ジュノも一緒になって脅していたそうね・・・それがバレてあいついなくなったんでしょう!?』
『なっ、なーんでヌナがっジュノの事を知ってるんだー!?あいつと接点何てないだろう!俺達、高校で知り合ったし、あいつ留学しちまったし、俺ともそれきりの奴だぞー』
ホースを伸ばしているソヨンに水を汲んだミナムが、如雨露を渡してそれぞれを交換した。
『・・・・・・・・・あいつの留学先ってね・・・何故か、ここ・・・だったのよ』
話しながら植木に水を与え始めたソヨンは、ミナムに反対側に水を遣る様に指示を出し、クリスマス用の飾りが付いたポインセチアの葉を捲った。
『え、えー、留学って普通アメリカとかフランスじゃねーの、行先は聞かなかったけど俺てっきり・・・』
適当な水遣りを睨みつけられてホースも奪われたミナムは、剥れてベンチに座り込み、ソヨンの背中を見つめた。
『・・・あの家、ちょっと変わってるのよねぇ・・・手を焼いた息子だからって料理の勉強をさせてさ、家は兄が継ぐんだけど、デパートの中に店を持たせてお兄さんに監視させるつもりだったみたいね』
『てかさ、それって確か・・・あいつの夢だったじゃねーの・・・高校だって、ホントは、職業訓練高に行きたかったのに財閥の息子にそんな所行かせられないとか言われたとか何とかで・・・親と妥協して普通高なんかに通っててさ、ホントは、山の手のお坊ちゃん学校に行く筈だったらしいけど・・・それにそんなに悪いことはしてなかったぜ・・・脅したっつってもミニョとは釣り合わないような奴ばっかりだったし、俺より腕っぷしも勉強も出来ない奴にやれるかよ・・・それにーだ!ソ・ジュノって奴はさ、とんでもなく勉強が出来る奴だったんだぞー、俺とつるんでたのだって、予習復習の為だとか言いやがって、俺に無理やり勉強教えるしっ!期末テスト先取りさせて、赤点出す為の材料にして出席日数もギリギリにしてさっ!留学だって確信犯だったんだぞー、俺のせいじゃない!』
昔を思い出しながら興奮してきたミナムは、ソヨンに切々と訴えかけ、やがて怒りの形相と荒い息で立ち上がっていた。
『ミナムのせいだとは言ってないわよ・・・それにジュノは今、ソウルで、お店を持ってるわ』
振り返ったソヨンは、暫くそんなミナムを眺めやがてふっと表情を崩して近づき、肩を叩いて、隣に座り込んだ。
『そ、うな、のか・・・・・・・・・知らなかった・・・』
『まぁ、ジュノは今、どうでも良いんだけど・・・メネットがね・・・心配してたのよ。ほら、ミニョが聖堂にいる間、何かとお世話してくれてたから・・・ミナムも顔だけ出してすぐに帰っちゃったでしょう・・・その後どうなのか・・・って・・・もし、もう一度ミニョにその気があるなら院長様を説得しても良いってさ』
『え、それって・・・』
『シスターとして生きる気があるかって事よ・・・院長様はさ、ミニョに狭い世界にいる必要なんて無
いって言ったみたいだけど、芸能界だって広いようだけど狭い世界でしょう・・・ミナムみたいにあちこち無茶してるならともかく、ミニョはさ、駆け引きとかそういうのは出来ないじゃない。だから、ファン・テギョンも心配しているんだろうけど・・・彼も今、引くに引けない事情があるのよね・・・』
『それって、あの爺さんの事か!?』
ひとり分の間があった席を詰めたミナムは、ソヨンの腕に縋り付いた。
『あの人がどういう人かミナムも知らないでしょう!?』
『Fグループの会長だって事は知ってるぜ・・・超高級飯食わせてくれたし』
『そのグループのスケールをどう考えてる訳!?』
顔を傾けたソヨンのキスでも出来そうな程間近な顔にミナムが、唇を突き出し、額を小突かれた。
『痛っケチだな!ヌナと同じくらいだろ・・・』
『残念。私の方が力があるの』
ウィンクをしたソヨンは、ミナムの頬を引っ張り、そこを撫でるミナムは、不満そうだ。
『そうなのか!?だったら、ヌナがちょっと脅してくれれば良いんじゃん』
『物騒な事を言わないの!今回、私は、手助けをしないわ。私の為にね』
『なんだよそれー、だったら、何で撮影引き受けたんだよー、人物なんて滅多に撮らねぇじゃん』
『ユジンの撮影と貴方達のジャケ写引き受けたからかな・・・・・・面白いモノが見れたのよねー』
『えー、なんだよそれ―、面白そう!教えてくれよー』
増々ソヨンに近づいてじゃれついたミナムは、人影に気付いて、真顔になっていたのだった。
にほんブログ村