庭にいるスタッフを捉まえてソヨンの足取りを訊ねたテギョンは、漸く温室の前に辿り着いていた。
然して距離も無く温室の屋根も見えているのに無駄に遠く感じるのが、自分のせいだという自覚の無い頭を横に倒し長い息を吐いてそこへ入ろうとしたが、温室の脇の木立から顔を出したミニョに驚いて体を跳ねあげていた。
『あっヒョン・・・』
ミニョもきょとんとしていた。
頭に木切れを乗せてハイソックスに葉っぱをくっつけてどこをどう歩いて来たのかと後方を見遣ったテギョンに膝下程の生け垣を跨ごうとしている手を取られていた。
『どこへ行かれたのかと思いましたけど。何をされているのですか!?』
『お前こそ何をしているんだ!?俺は、あの女に用が・・・』
『私もオンニに用事が・・・』
見合ったふたりの顔が、温室に向いていた。
互いの疑問を顔に浮かべて扉を開けたテギョンは、話声を耳にして顔を顰め、引き寄せたミニョの口を塞いでいた。
『ヒョ・・・』
『ちょっと黙ってろ』
温室は、円系のそれと長方形のものが連なった作りになっている。
入り口の円系部分に立ち並ぶ背の高い植物がふたりを隠し、奥まった場所にいるシヌとソヨンは、背を向けている事もあり、まだ気づいてはいなかった。
『・・・諦めるのが、辛いのね』
『そうですよ・・・色々な事を偶然だとも片付けたくないんです』
『あちらもそう思ってるんじゃないかしらね・・・』
『テギョンですか!?まぁ、そうです・・・かね』
『黙っていたことは!?謝ったの!?』
『さぁ、謝ったといえば謝りましたけど・・・隠したかったのは事実ですから・・・今も、まだ・・・』
『男としては最低だと解ってる!?』
『っ知っていますよ・・・でも・・・そう簡単には、止められない』
『私が口出しするのも可笑しな話なんだけどね・・・私にとっても大事な娘(こ)よ』
『それも知っています・・・俺にとっても大事ですよ・・・何よりその気持ちが・・・一番ね・・・』
『自然にと言わないところが貴方の困ったところね・・・偶然なら美しくなくても良いのにね』
『必然でしょう。願ったんだから仕方が無いと思いますよ。貴方の前の自然だって美しく保つ為に
は、どうしたって手入れは、大事ですよね!?』
『やっぱり・・・嫌味・・・・・・な男、ね』
忍び笑いを零したソヨンの手元の如雨露から水が無くなっていた。
水滴だけが零れるそれを傾けてシヌを振り返ったソヨンは、植物の動きに目を細めテギョンとミニョを視界の端に捉えた。
『・・・・・・・・・私の言いたいことはひとつだけね。恋をするなとは言えないから勝手にすれば良いけど、仕事は仕事と割り切って欲しいだけよ』
『・・・そんなにあからさまですかね俺!?』
『ファインダーを覗いているとね、時々見えなくても良い物が見えるの・・・真実を切り取ってるなんて素敵なことを言う人もいるけど、君には必要ないわ・・・今回私が依頼されているのは、どちらかといえば偶然だけどそれが邪魔になるみたい』
『つまり、俺には、自然を求めるって事ですか!?』
『そういうこと』
ウィンクをしたソヨンの前でシヌがクスリと笑っていた。
それを目にしたテギョンは、自分への合図だと受け取り、ミニョを温室から連れ出していた。
庭へ戻されたミニョは、きょとんとしながら手を繋いできょろきょろしたテギョンを裏口へ通じる道へ誘導し、思案顔で黙り込んだ顔を見つめながら横を歩き始めた。
『・・・・・・ヒョ、ーン・・・今のって・・・何のお話ですか!?』
中途半端な会話を聞き、ミニョに通じないのは致し方ないとしてもテギョンにとってはそうではなかったその内容は、今また、もうひとつの胸にも暗雲を呼び込もうとしていたのだった。
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