ポロポロ零れる涙は、ミニョの隅に追いやった揺らいだ感覚と感情を呼び起こしていた。
歌ってくれと言ったテギョンは、マイク代わりの携帯を向け、俺だけが聞くから良いだろうと妙に沢山の譜面を捲っていた。
それは、どうという事の無い普通のやりとりで、冗談めかした要求と拒否が繰り返された。
ただ、ふざけあっていた、ただ、それだけの筈だった。
「ヒョ・・・」
「ミ、ニョ・・・」
近づいて来た顔と髪を撫でる手といつものキスとどこか違って感じたのは、その状況で、押し倒され、際どい場所まで捲れてしまったスカートを慌てて直したミニョの態度もどこかいつもと違っていたからかもしれない。
いつもなら見て見ぬ振りをするか、悪態を吐いて直してくれる筈の手がミニョの素肌に触れていた。
何が、起ころうとしているのか。
そんなの一目瞭然だった。
静寂に包まれた部屋の中で、どちらも固まっていた。
張り詰めた緊張は、心臓の音を大きくし、そこだけ別の生き物みたいに口に昇ってくるような錯覚を与えられ、息苦しいのに呼吸も出来ず、ただ、見つめ合っていた。
動こうとしたのは、ほぼ同時だ。
しかし、ミニョの目には涙が溜まっていた。
「あ・・・あれっ・・・な・・・」
それに我に返ったのもふたり同時で、動揺したテギョンは、ミニョから離れ、伸ばそうとしていた手を握り、涙を拭いたミニョも慌てて立ち上がっていた。
『なっ、なんで泣いてるんだよー!やっぱり何かあったのか!?ヒョンに何かされたのかぁ!?』
『ちっ・・・違っ・・・ッく・・・』
慌てたミナムに腕を引っ張られたミニョは、抱き締められていた。
『わー、もうっオッパが悪かった!オッパがミアネー・・・泣くなよぁミニョー・・・』
泣いてる訳では無いが、泣きそうにしゃがれるミナムの大袈裟な声とぎゅっと締め付ける腕の力にしゃくりあげていたミニョは、間もなくきょとんとした。
慰める言葉も過去の悪戯を詫びたり、これからやろうとしている事の告白だったり、今、ミニョが泣
いてる事とはまるで関係の無い話が次々と飛び出していた。
『なぁー、だーかーらー、オッパは、オンマに会いたかっただけじゃなくてだなー』
『ちょ、オッパっ!痛っ・・・』
『オンマをお前に会わせてやりたかったんだよー』
『オッパ!痛いですってば!離してくださいっよっ』
両肘を張り上げたミニョは、漸くミナムの腕から抜け出し、すっかり収まった涙の最後の滴を眦から落として代わりとばかりに泣いているミナムの目尻を袖で擦っていた。
『なんでっオッパが泣くのですかぁ・・・』
『知るかっ!俺って昔からそうじゃん・・・お前が泣くと俺も泣けるんだっ』
『いつもという訳じゃないじゃないですかぁ』
ポロポロ零れるミナムの涙を拭いながらミニョは、剥れていた。
『チッ・・・お前が、感情を抑え込むからだろう・・・オンマに会いたいとかさ・・・』
『だって・・・・・・会いたかったのです、もの・・・』
手を握ったミナムとシンクを背にして座ったミニョは、互いに倒れ込んだ。
『だからだなー、そういう時に限って俺、お前と共鳴するんだよっ・・・・・・双子だからかな!?』
『私には、無いですよー』
『俺の方が、オッパだからだろう・・・・・・きっとオンマが教えてくれてるんだぞ・・・』
ミニョの肩を抱いたミナムは、そのままずるずる倒れていくミニョを黙って見ていて、コテンと横になった頭を撫でながら思い出話を始めたのだった。