カメラを構えて部屋に入って来たソヨンは、睨むテギョンをものともせずファインダーを覗いていた。
『オンニ、お帰りになったのですね』
立ち上がったミニョを片手で抱き寄せ、頬を寄せたソヨンに不自然に首を傾けたテギョンは、尖らせた唇を動かし、テーブルにカップを置いて腕を組み、髪を撫でつけたジェルミにミナムとシヌは、無意識でポーズを作りながらあらぬ方向に視線を向けていた。
『ああ、悪いわね、この一か月、貴方達のプライベートはほぼ無いと思っていて頂戴・・・四六時中じゃ疲れるでしょうけど、休日は作ってあげるから』
カメラを向けられる職業病を笑うソヨンにテギョンがメンバーを見回して舌打ちをした。
『明日からの予定じゃなかったのか!?』
『撮影はね、ファンへの特典用の写真も欲しいと依頼されてるから適当にカメラ向けさせて貰うわ』
液晶を覗いたソヨンは、同じように覗いていたミニョと微笑みあって、手を握った。
『仕事熱心だな』
『まぁね・・・ちょっと、ミニョを借りるわよ』
テギョンの嫌味なぞどこ吹く風のソヨンは鼻で笑ってミニョを廊下に連れ出し、着替えを済ませていないイブニングの裾を捌きながらふたつ隣の部屋のドアを開けた。
『オンニー何かお仕事ですかぁ!?』
『そうよ、明日からミニョは私のアシスタントなんだから、機材の名前とか覚えて貰わないと困る』
『あ、はいっ、頑張りますよっ』
命令調でおどけたソヨンに一瞬ビクついたミニョは、恐縮して、自分の部屋に入った。
ミニョに宛がわれた部屋は、ジェルミ達が話していた通りの白とピンクを基調に揃えられた家具が配置され、天蓋付きのベッドの脇を抜けたソヨンは、テギョンの部屋の方角にあるドアを開けた。
『そういえばオンニ、テギョンヒョンの部屋にあった写真はどうしたのですかぁ!?』
『片付けたわ。あんなもの飾っておけないからね』
ソヨンが天井に手を翳すと明かりが自動的に点いて後ろを付いて来たミニョは、そこかしこに置かれているパネルの前で足を止めては見入り、ソヨンはひとり奥へ向かっていた。
『皆さんのお部屋の家具とかも入れ替わってましたよ』
『スポンサーの要望よ。費用は向こうで持つと言ったから好きにすれば良いと言ったんだけどさ・・・あまりにイメージ通り過ぎて逆に嫌になるわね』
ソヨンも企画に加わっていたコンセプトの一部は、何事も無く承認されていたが、他はスポンサーの圧力が強く交渉が長引きそうだと途中で事務所側が折れていた。
それを思い出したのか舌打ちをしながら荒々しく歩くソヨンは、勢いそのままに壁際で縦長のドレープを乱暴に横に引いてミニョを手招きした。
『さて、ミニョ貴女の仕事だけど』
『あ、はいっ、何をしま・・・わぁ・・・』
優に縦横3メートルはあるカーテンを全て開いたそこは、大きなクローゼットで女性用の洋服が所狭しとハンガーに吊るされ、ハンドバッグや靴、高級そうなドレスからカジュアルな装いまで、さしずめ小さなブティックだ。
『ここから、ここまでね、一ヶ月分の衣装があるのよ』
『は、ぁ・・・』
片側に寄せたカジュアルな服に触れたソヨンは、ぽかんとしているミニョを可笑しそうに見ていた。
『ここから好きなものを選んで着て頂戴。でもね、一度袖を通したものは、二度と着ないで』
『へ!?』
『ミニョも被写体になるんでしょう!?でも、特別な事はしなくて良いのよー。服を着るだけ』話を聞きながらきょとんとするミニョは、首を傾げ、箪笥から束になった書類を取り出したソヨンは、ミニョに一枚渡して指を差した。
『ここサインしたでしょう!?』
『え、あー、社長の書類・・・』
『これね、スポンサーの会社のデザインチームの要望書なのよ』
ソヨンの説明を聞きながら、アン社長にも同じ内容を説明された事を思い出したミニョは、ポンと拳を打って納得顔をした。
『ミニョは、撮影の助手もして貰うけど、モッタ夫人のお手伝いもしてもらうし、買い出しとかで街に
出る事もあるだろうから広告塔みたいなものよね。ヨーロッパではあまり見かけないデザインばかりなのよ。若い女性の目ならそれなりに引きつけられると思うわ。それとさ・・・・・・』
ミニョに近づいたソヨンは、顎を持ちあげた。
『今、すっぴんでしょう!?・・・化粧をしたらもっと綺麗になるだろうけど・・・そこまで求めないし』
ミニョの頬を潰して笑ったソヨンは、きょろきょろしながら部屋に入って来たテギョンを目にした。
『何か用事!?』
『ああ、少し、話せるか!?』
自分の部屋との中間になるその部屋を物色する様に見回したテギョンは、ソヨンを呼び、頷いたソヨンはミニョに明日着るものを選ぶ様に指示を出し、テギョンを伴って最上階へ昇って行ったのだった。