『ったく、冗談じゃないっての!何で急に迎えを寄越せなんて言うかなぁ』
ワゴンの後ろに着けられたスポーティな2枚ドアの運転席から降りて来たソヨンは、サングラスを掛け、揺れるスカートの裾をハンドバッグで抑えつけながら悠然と歩いて来た。
その女王の様な一流モデル張りの容姿と装いに似つかわしくない口調にあんぐり口を開けたジェルミは、ミナムのスーツケースを蹴飛ばして転びそうになり、立ち上がったシヌはソヨンに手を差し出していた。
『エスコートが必須な恰好ですね・・・』
細身の身体にぴったりフィットしたイブニングドレスを身に纏い、髪をアップにして長い首を大振な宝石で飾ったソヨンは、シヌの手の平を軽く叩き、腕を引っ張った。
『ありがとう・・・ちょっと、用事が出来てね』
並び立つシヌとソヨンを未だしゃがみ込んだままのミニョが見上げ、テギョンは、目だけ出した顔で眉間を寄せた。
『なっ、なぁ、ミ、ナム・・・あっれ・・・誰っ・・・』
ミナムに負ぶさる様に倒れ込み、体制を立て直す気も無いジェルミは、瞬きを繰り返し、幻でも見ている様な顔で何度も目元を擦っていた。
『誰って、前にも会っただろう・・・俺達の写真集撮ってくれる人じゃん』
『うっそ、あっあんな美っ人だったっけ・・・スーパーモデルだろう・・・』
濃い目の化粧を施し、以前出会った時と雰囲気が、ガラリと違うソヨンにジェルミは興味深々だ。
『んぁあ、そっか、お前初めてだっけ・・・でも、見てくれだけで・・・中身は、超絶不良ヌナだぞ』
唯でさえ切れ長の目尻に赤のシャドウを施した瞳で睨みつけるソヨンは、壮絶で、ジェルミを負ぶったミナムは、愛想笑いを浮かべながら腰を引いたが、武者震いを抑えて立ち直していた。
『コ・ミナム、褒めるなら面と向かってなさい』
『チッ、怖いんだよヌナ・・・っていうかさぁ、なんだよその恰好!仮装パーティかぁ!?』
『ええ、そんなものよ・・・急遽オペラ座に行かなくちゃならなくなったのよ・・・同伴者が必要だからって行き成り訊ねて来て1週間も居座られちゃってね・・・根負けしたわ』
ソヨンの視線は、ミニョに近づくテギョンに向かっていた。
立ち上がったミニョの手を握ったテギョンは、もうひとりの運転手に荷物を渡し、車に納めていた。
『はっはーん通訳だろっ・・・ヌナなら秘密も守れるからだ・・・』
『まぁ、そうね、奥方達も同行してるけど誰かを選んで国際問題が生じても困るのよ』
指先で呼び込まれたジェルミが、足元の荷物を引き寄せ、せっせっと積み入れている横で何気ない会話の不穏さに目を瞠ったテギョンとシヌは、真顔でミナムとソヨンを見比べた。
『やっぱりなぁ、大変なとこに嫁に行ったもんだなぁ』
『そうよ、ミナムのお蔭で苦労してるのよ』
『別れても尽くしてんだなぁ』
『そんな慈善してないわよ・・・私に必要だから手伝っているだけね』
シヌの腕を離したソヨンは、最後のスーツケースを押しやってミニョに渡し、車の鍵を目の前に翳して見せた。
『さ、じゃぁ悪いけど、私の車も転がしていってほしいの・・・どっちが運転して行く!?』
ソヨンの指先を見た5人は、運転免許は、その種別はあるにしても全員が所持をしていると考え、自然、3人の視線はテギョンに集中した。
国際ライセンスを所持しているのは、テギョンだが、ソヨンの言葉からもう一人所持している人物がいる事を知ったテギョンの視線は、ソヨンと見つめ合っているシヌを捉え、それを追いかけたミナムもまたシヌを見ていた。
『ど、っちっ・・・え、どういうこと!?』
『ミニョ!誰に運転して欲しい!?』
『えっ・・・わ、たし・・・ですか・・・』
希望を聞かれてミニョの視線が、繋がれた手に落ちた。
『彼、方向音痴なんでしょう!?先導されてても心配かしら!?』
『あっ、だっ、大丈夫だと思いますっ』
キュッと僅かに指先に力を入れたミニョの顔をテギョンは手と交互に見比べた。
『そう、じゃぁ、そっちの車に彼と乗って行くと良いわ』
鍵を渡されたテギョンは、サングラスを掛け直すソヨンの顔を見つめ、何か言いたそうに口を開けたが、クスリと笑われて不満そうに唇を突き出した。
『事故を起こさないでね』
『俺は・・・ミニョみたいなドジじゃぁない』
『貴方達、しっかり見ててあげてね!見知らぬ土地だからって迷子で呼び出しとか勘弁してよ!今夜のディナーはモッタ夫人にお願いしてあるから、楽しんでね』
去っていくソヨンは、反対車線に止まっていた高級車に乗り込み、ワゴン車に乗り込んだジェルミ、ミナム、シヌと別れて、スポーティな車に乗り込んでいたテギョンとミニョであった。