それからほどなくしてミニョの持ち帰った資料を基にスケジュールを決められたA.N.Jell達は、二度目のローマの地に立っていた。
撮影期間は一か月。
滞在に心躍る者もいれば、そうでない者も当然いる。
長いか、短いか、それぞれの口にのぼる感想は様々で、前回の様に強行スケジュールではない観光地を前にどこへ行くかと興奮しながら相談しているミナムとジェルミの横で、シヌはサングラス越しに涼しい笑顔を浮かべて目聡いファンに手を振るサービスをしていて、先導する形で前を歩くテギョンは、離れて行こうとするミニョの肩を引き寄せては、通行者にぶつかりそうなスーツケースを舌打ちと共に奪っていた。
『ったく、なんでこんな目立つ場所で待ち合わせなんだっ!空港で良いじゃないかっ!空港でっ!
金持ちなんだから迎えを寄越すくらい訳ないだろうっ!』
A.N.Jellの滞在先は、撮影場所への移動や諸事情を鑑みて同行するスタッフも一緒で構わないというソヨンの好意で決められたが、一部のスタッフは現地で調達しなくてはならないものがあり、空港から中心街まで手配した車で移動して来たもののA.N.Jellだけが、その車を降りていた。
ソヨンの住まいは、ローマの東側に位置している為、空港とは真逆だ。
『ヒョンが、早く休みたいって仰ったからじゃないですかー』
『当り前だろうっ!おっ前っ、散々飛行機に乗せられて!あんな窮屈な車の中に置き去りにされて買い物まで付き合わされるなんて冗談じゃないっ』
『飛行機はファーストクラスでしたし、快適でしたよー・・・エコノミーでも良かったのにぃ・・・』
テギョンの腕から逃れる様にしゃがみ込んだミニョは、道路を見つめていきり立つ顔を見上げてい
た。
その横へやって来たシヌもしゃがみ込み、ミニョの手に飴を渡して綻んだ頬をスッと撫でた。
『ミニョは、行った事があるんだろう!?どんなところ!?』
ソヨンのヴィラについてのレクチャーを喜々として始めたミニョにテギョンの唇が前に出た。
素知らぬ顔を決め込むミニョは元より、シヌもミナムもジェルミもそれぞれに時間を潰していて、行き交う車から飛び散る見えない埃を気にし始めたテギョンは、服を叩き、スカーフを顔にぐるぐる巻き付けていた。
『おっ、あれじゃね』
ターンシグナル(方向指示器・ウィンカー←和製英語ですドイツ語のヴィンカーを元にしたと思われるが最近はドイツも使わないらしい)を点灯した二台の車を指差したミナムがパンフレットを閉じて手を振った。
一台は、目立たない雰囲気のワゴン車だが、もう一台は、明らかに迎えに相応しいのか疑問が浮かぶような車種で、一行は、そこから降りて来たソヨンに更に疑念と驚きを浮かべた顔で首を傾げていたのだった。