数回のノックに返事もしないテギョンは、推し量る様にゆっくり開くドアを見つめていた。
ちょこんと頭を出したミニョは、様子を窺う様に腰の引けた体制で左右を見ようとして一瞬震えたがすぐさま背筋を伸ばして笑顔を作り片手のお盆を両手で持ち直して部屋へ入っていた。
『チッ・・・ノックをするなら声も掛けろ』
『うー、だってヒョンニム寝てるかもしれないじゃないですかー』
『こっそり部屋に入ってまた何かしようというのか』
『何って、別に何もしませんけどー・・・お茶を持ってきました・・・』
テギョンの専用カップをお盆ごと机に置いたミニョは、目を泳がせながら床に座りこんだ。
『何か用か!?』
お茶を飲みながら素っ気ない素振りでテギョンが聞いた。
足元に几帳面に揃えて置かれた雑誌を引っ張り出していたミニョは、首を振って黙り込みページを捲っている。
ふたりともに沈黙の中で、テギョンが叩くキーボードの音と紙を滑る鉛筆の音、ミニョが紙を捲る音だけが響いていた。
どのくらいそうしていたのか、机に鉛筆を置いたテギョンは、そうっと下を眺め、うつらうつらと首を揺らしているミニョの腰を軽く蹴った。
ビクンと体を震わせたミニョは、膝の雑誌を取りこぼし、慌てて正座をすると眠そうな目でテギョンを見上げた。
『ふぁんですかー』
『眠いならベッドに横になれ・・・許可してやるから』
『ふぇっ!?』
ミニョにとって最強であろう言葉を選んだと得意顔でベッドを指差したテギョンは、けれど瞬く間にそれを後悔した。
示されるままテギョンとベッドを見比べたミニョが、掃除ですねと納得顔で立ち上がっていた。
『はぁ!?何で掃除!?』
回転させた椅子で振り返ったテギョンは、ぐちゃぐちゃの掛布団を見ると途端に頭を抱え、いそいそと布団を捲り始めたミニョを慌てて追いかけた。
しかし、ミニョが床に落とした掛布団に足をとられたテギョンは、あっと声を出す間につんのめり、何かを掴もうとしてミニョを引き摺り込んだ。
『えっ、わ、きゃぁー』
ボスンと顔面からベッドに転がったミニョは、額を抑えて顔をあげようとして固まり、ミニョの右手を掴んだテギョンは、仰向けに転がっていた顔を素早く横に向けのんびりした動きの腕を引っ張って
天地をひっくり返す様に横抱きにすると首元に顔を埋めた。
『チッ・・・事故多発地帯めっ』
低くくぐもった声で腰に回した腕を引いたテギョンが、増々密着する様にミニョを抱いていた。
ピキンと大木の様に転がっているミニョは、身動きもせずに押し黙り、ごそごそ動くテギョンに大きく
息を呑み、何度かそれを繰り返してから漸く口を開けた。
『あっ・・・あのっヒョ』
『うるさいっ黙ってろ』
一喝されるミニョは、身の置き所が無いと困った顔をしていたが、やがてすぅっと力を抜いて、肩を落とし、それを感じ取ったテギョンも頬を緩め腕も緩めた。
『勘違いするのはお前の特技だからな・・・そこが可愛くもあるんだが・・・他の男の前でするなよな』
『うっ、別に勘違いじゃ』
『口答えするなっ』
ピシャリと二度目の一喝と締めつける腕にまた身を竦めていたミニョだった。
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