『ヒョ・・・』
薬缶を持つ手を震わせたミニョは、背中に生じた体温と前から立ち昇る湯気を避ける様に体を細くし、身の置きどころを探しながら、後ろから握り締める薬缶を持ち上げたシヌの手が蓋が閉まったままのポットへ動かされるのを目だけで追いかけていた。
『あ、ああ、そっか・・・コ・ミニョ、蓋を開けてくれる!?』
今更に蓋に気が付いたと戸惑ったシヌの声が響いた。
しかし、身を固くするミニョを見下ろす瞳は、明らかに故意である事をありありと伝え、当然見えずにいるミニョは、その声へ鈍い反応を示しながらゆっくり振り返っていた。
『え・・・』
ミニョが振り返りきる前にシヌの頭が、肩に落ちた。
『え・・・あっ・・・の』
『っ・・・と、ごめん・・・やっぱり気分悪っ・・・』
苦しそうな声を出したシヌに薬缶を持つ手を握り直したミニョは、咄嗟に空いた手を伸ばしていた。
『え、え、シ、ひょんっだっ大丈夫ですかっ』
崩れる様に肩に顔を埋めたシヌは、無言で息だけを吐き出している。
『ヒョ・・・』
困惑した顔でシヌを支え、薬缶をどうしようと考えたミニョは、そちらに目を向け、けれどしっかり握られた手に小さく息を飲んでシヌを見あげた。
『ごっめんミニョ・・・ちょっ暫く・・・』
『わっ、私は大丈夫ですけどっ、やっ、薬缶っ危ないのでっ・・・』
シンクを擦りながら辛うじて薬缶を置いたミニョは、それでも握り続けるシヌの手の下から自らの手を抜いていた。
回した右手はシヌのシャツを引っ張り、肩口で目を閉じる顔を見たミニョは、今度は体全体で振り返った。
僅かに離れたシヌの頭はそれでもミニョの肩にある。
心配顔でシヌを抱き止める様に両腕を伸ばしたミニョは、暫くそのまま背中を撫でながら突っ立っていた。
『ひょ・・・大丈・・・』
『ぅん・・・ああ、ごめんなミ、ニョ・・・』
苦しさから僅かでも開放された様な顔でシヌが頭をあげた。
見上げるミニョは、厳粛に心配顔でシヌの頬に手を伸ばし、その辛そうな顔を見つめていた。
『はっ早く休まれた方が良いです・・・お顔の色が・・・』
頬を一撫でしたミニョは、また向きを変えると性急に薬缶のお湯をポットに移し替えてシヌの腕を取っていた。
『お薬と何か胃に優しいものをお持ちしますから!早く、早く休んでくださいっ』
シヌの腕を取ったまま階段を下り始めたミニョに髪を掻き揚げたシヌは黙って付いて来た。
早く横にしてあげなくてはというミニョの気遣いを目の当たりにしながらシヌは、部屋の戸を開けるミニョの後ろをただついて歩いていたのだった。
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