洗い物をするミニョを残して部屋に戻ったテギョンは、机の前で腕組みをして暫く考え込んでいた。
『チッ・・・俺の戦略を変えよう・・・』
取り出したペンとノートに細かくスケジュールを書き出し、パソコンと睨みあった。
『クッソッ!あの爺に頼み込んだのが間違いの元だっ!・・・・・・どっうすっ・・・ミナムの奴も何を考えているか解らないし・・・社長も不気味・・・あっのチェ・ソヨンって女もだっ!』
部屋での独り言は、いつもの事なのに響いた声に眉間を寄せ、椅子を回転させた。
『ッ・・・あいつの息遣いひとつが俺を苦しめてるってのに・・・』
ベッドに転がるテジトッキのぬいぐるみを見つめたテギョンは、奇妙な角度でこちらに目が向いてい
る人形に布団を被せた。
その人形にどれだけ悪態を吐き続けたか解らない。
この人形がここにある限り、あいつもここに戻るんだとどれだけ自分に言い聞かせたか解らない。
それもこれもあのスキャンダルが無ければ拗れなかった。
コンサート後の会見は、もう遠い過去の出来事で、あれこれ考えた計画は、悉く実行出来ず、ミニョ
を連れ戻してからただの一度もふたりだけでデートらしいデートを出来ていない。
ヘイとミナムが羨ましいのはテギョンだ。
『ったく、居場所が解っててもあいつは見てないところで我慢ばっかりするからな・・・修道院なんかに戻したらそれこそまたチェ・ソヨンに攫われかねないじゃないかっ!』
聞こえが悪い悪態を吐きながらソヨンの名前が書かれたスケジュール帳を叩きつけた。
『あー、もうっ!あの女と仕事をする羽目になるとはっ・・・』
その正体も解らない女について老人に突きつけられた釘である程度の推察がテギョンの中にあり、危険信号はずっと点滅したままだ。
自分よりも金も権力も名声も遥かに持ち合わせている老人と恐らく対等かそれ以上。
そんなものがあったところで人の心まで支配は出来ないと解ってはいても一度の失敗が大きなモノを動かしたのは事実で、ソヨンと一緒に出掛けるミニョを見る度気分が悪い。
『チッ・・・いつまでも俺をただの星だと思うなよっ!隕石になってやるっ!』
燃え尽きるつもりは無いともう一度呟いて机に向かい直したテギョンは、熱心に書き物を続けた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
キッチンで肩を竦ませたミニョは、地下からの足音にそちらを見つめ顔を出したシヌの手のポットを見つけてすぐさまお湯を沸かしていた。
寝なかったのかと小一時間程前に部屋に戻ったシヌに声を掛けていた。
『いや、少し寝た・・・けどまだ酒がね・・・』
残っているとテーブルに突っ伏すシヌの姿は、メンバーでもそうそう見ることは無いが、酔って帰る
ことは、最近は珍しい事でも無く、ミニョとはそうした会話をもう何度も交わしていた。
『大丈夫ですか・・・お薬を・・・』
キッチンの引き出しを開け探し出した薬と水をシヌの前に差し出したミニョは、隣に腰を下ろした。
ミニョにとって酒は、嗜めるものではないが、ここへ戻って数日は眠れない日々だった。
テギョンの傍に居る事が信じられない。
戻って来るとは言ったが、聞きたい事も言いたいこともあったのにそれら全て何も言うなと言われて
口を噤んだままだった。
発つ前と何も変わっていないぞ。
そう言ったミナムに寝酒を勧められ舐める程度の薬代わりにはしているが、明らかに以前とは違い眠れない程酒を残すシヌの飲み方には疑問が浮かんでいた。
『ヒョン・・・あまり飲み過ぎは良くないですよ・・・』
押し出した薬を握らせたミニョは、顔をあげたシヌに水も渡した。
『大丈、夫・・・ミニョと違って呑まれないから』
薬を流し込むシヌを横目に困り顔のミニョは、薬缶の沸騰音に立ち上がった。
『何か悩み事でも・・・』
高まる沸騰音に慌てて火を消したミニョは、薬缶を持つ手を震わせていたのだった。
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