『ミニョ様・・・ミナム様からです』
伝書を取り除いたジェルミが空へ離した鳥は、一声あげてその姿を消していた。
手紙を受けとったミニョは、それに目を通し、ジェルミに渡して踵も返した。
『ミニョ様!?』
『いつも通りよ!早く来いってそれだけ』
『ご心配をされているのですよ』
『知ってる!でも、シヌオッパと会ってからね!目が覚めたら教えて』
会話をしながら離れていくミニョを見送るジェルミは溜息を吐きながら平伏し家に戻って行った。
『聞いたところで答えてくれるかなぁ・・・』
考えながら駆けてきた道を戻るミニョは、手を振るセロムを見つけて駆け出した。
『起きたの!?』
『ええ、いつもの様にむっつりされてますよ』
『ぅうーん困った子よねぇ・・・泣きもしないんだもの・・・普通子供って泣くのが仕事でしょう!?』
『そう思いますけどね・・・やっぱりミニョ様のお子様ですから・・・』
セロムの腕から赤子を受け取ったミニョは、そのぷっくりした頬を突いていた。
口元を開けた赤子は、けれど愚図るでも無くミニョを見つめた。
『むぅっそれって普通じゃないって言ってるー!?』
『愛らしいでしょう・・・テギョン様にそっくりですし』
『あっ!そう!それなら何となく解るっ!』
ミニョが産み落とした赤子は、黒髪で目元は特にテギョンに似ている。
あの時の子供も似ていただろうか。
碌に顔も見ずに捨てた子供。
願いを託して捨てた子供は、それを叶えてくれたが、その成長を見守ってはやれなかった。
この子も多分大人になるのは見守れないだろう。
何度か子供を抱いた記憶はあるのにその子の成長を見た記憶がミニョには無い。
抱えた赤子をあやしながら向きを変えたミニョは、空に伸びた腕に促されて立ち止まった。
『・・・セロム・・・先に戻っていて』
『え、ミニョ様!?』
『うぅん・・・大丈夫、ちょっとこの子と散歩してくる』
歩き出したミニョの腕の中で相変わらず赤子は空へ腕を伸ばしていた。
そして、その視線もまっすぐに何かを捉えて一点を見つめている。
『オンニ!?』
伸ばされた腕同士が互いを抱きしめた。
赤子を渡すと頬を寄せた女の顔から涙が流れていた。
『久しいな・・・』
『ええ、でも、ずっと、いらしたでしょう!?』
『ああ、だが、見えていなかったでしょう!?』
『ええ、でも・・・時折、ここに下りて来られたでしょう!?』
ミニョが見せた胸の痣は最初に浮かんだ頃よりうっすらぼやけていた。
花托を見せる部分だけが朱く濃い色を残している。
そこを摩るミニョに女もまた自分の胸に手を当てていた。
『花は盛りの月は隈・・・』
『オンニ!?』
『主様が我に言った言葉です・・・別れの夜に・・・花はここで盛っていれば良いと・・・そこで生きろと・・・月は隠されてもまた顔を出し形を変えて・・・・・・あの時、主様はまた戻ると仰った・・・けれど、それが叶わぬことを我は知っていた・・・だから、追いかけた・・・死すなら一緒でなくてはならぬと・・・何故あんな事をしたのかそれをもう思い出せませぬが・・・』
赤子の手が女の涙を拭っていた。
それを見つめるミニョの肩に鳥が、羽を休めた。
『我の願いはここまでです・・・後は、シヌが、身を起ててくれる・・・』
『シヌオッパは・・・』
『それは、本人からお聞きなさい・・・あの方が全ての始まりであり終わりです』
ミニョに赤子を返した女はそれだけ言って消えた。
子を抱いて空を見上げたミニョの肩から鳥も羽ばたき、頭上を数度旋回して消えて行った。
『結局何も教えてはくれないのですね・・・・・・また、泣き続けるのでしょうか・・・』
今を生きるミニョにとってのテギョンは、束の間の愛を育んで去った。
それが運命だと受け入れた現実に会いたいテギョンに会えないミニョの現実はどこに存在するのか。
終わりだと言った女の消えた宙を暫く見つめ背中を向けたミニョだった。
にほんブログ村