青を横に割いた線が、薄紫、茜、橙、白とグラデーションを魅せ、照り返しに映えた建物は、まだ黒く、近づいて行くに連れ目に鮮やかだ。
パッパッと消えていく電灯を横目に眺め、時間を推し量り、息を切らしながら公園を抜け、宿舎へ僅かな距離を残して立ち止まったミナムは、近くの柵に脚を乗せてストレッチを始めた。
『ふわぁあー、良い汗かいたぜ』
スッキリした体とは裏腹の眠そうな大きな欠伸をしたミナムは、伸びをしてタオルを首から抜いて歩き始めたが、角を曲がる手前でまた足を止めた。
『辞める様に忠告したわよね』
ユ・ヘイの声だ。
『君には関係ないだろう』
相手は、シヌ。
しかし、その声は、ヘイもシヌも不愉快という怒気を孕んでいる。
『ちょっと!待ちなさいよ』
ヘイがシヌを呼び止めたが、振り返る事の無いシヌは、宿舎に入って行き、悔しそうに振り返ったヘイが、ミナムを見つけていた。
『コ・ミ・・・ナム・・・』
きょとんとした顔を笑顔に変え、駆け寄って来たヘイは、ミナムの腕を掴んで顔を寄せ、驚いたミナ
ムは、自重からヘイを押した。
『ちょ、辞めろっ、今、俺、汗っ・・・』
『んーん、平気っ!ミナムはいつでもミナムよっ』
『ぁん!?どういう意味だよ・・・俺がいつでも臭いってことか!?』
ヘイを押しながら、腕をあげたミナムは、自分の匂いを嗅いだ。
『違うわ、あんただから何でも平気ってことでしょ!わたしがあんたを好きってことよっ!』
『あ!?俺を好き!?はっはーん嘘つき妖精が復活したんだな・・・そうやって俺を煽(おだ)て・・・』
『ちょっとー!そっちこそどういう意味よっ!折角わたしがこんな早朝から来てやったのに』
『あ!?そんなこと頼んでないだろうっ!大体なぁ!ミニョの買い物に付き合ってお前との約束キャ
ンセルしたくらいで何で俺が怒られなきゃいけないんだよっ!あいつは俺の家族なのっ!お前と比べられるもんじゃないんだっ』
『見送りをキャンセルするからでしょう』
『出発直前に連絡してくる方がおかしいだろう!いっくら今、休みだからって俺にも都合ってもっ』
押し合っていたミナムから離れたヘイが、ヒクリとひとつしゃくりあげた。
ぎょっとするミナムは、大きな目を見開いて、俯き顔を隠すヘイを見つめて黙り込んでいたが、やがて、その目を細めて舌打ちをした。
『ったく、嘘つき妖精ってヒョンに言われても仕方がねぇよな・・・俺が空港に行ってたらそれを利用するつもりだったんだろう・・・』
『チッ・・・ミナムってやっぱり、やりづらいわ・・・』
髪を掻き揚げ、真顔をあげたヘイの一文字の口が緩く曲がっていった。
それに溜息で答えたミナムは、両手をあげて呆れたジェスチャーを見せ、歩き出した。
『あ、待ってよミナムっ!お土産っ!お土産買ってきたのよっ!持って行ってよ』
慌てて車のドアを開けたヘイは、助手席の足元に置かれた紙袋を引っ張り出して、ミナムの腕を引っ張った。
『はいっ!これ!あんたが欲しがってたチョコレートとワイン!大事に堪能しなさいよねっ』
『えっ!?マジで買って来てくれたの!?』
胸に押し付けられた袋を受け取ったミナムは、中を覗いて驚いている。
『ええ、うちのスタッフに買いに行って貰ったんだけどね』
『うっそ・・・限定品だから難しいって・・・』
『ああ、なーんか、朝早くないと買えないんでしょう・・・正直、2日並んだって言ってたから・・・』
他人任せも自分の手柄と顎をあげて笑ったがヘイも呆れ顔だ。
そんなにまでして欲しいものかと見つめられたミナムが困り顔で笑い返している。
『俺じゃなくてミニョ・・・な・・・』
『はぁ!?コ・ミニョは、お酒なんて飲めないでしょう!?』
『ああ、ワインは俺んだけど・・・チョコは・・・な・・・』
『・・・何それっ・・・折角苦労して買って来てあげたのにっ・・・』
スタッフだろうというミナムの無言の凝視は、完全に無視された。
『はは、悪かったよ・・・でも、これ渡したらミニョも元気になってくれるかも・・・』
ちょっとだけ背伸びの必要なキスをされ、手を握られたヘイは、ドア
にほんブログ村を閉めたミナムに引っ張られ、ふたりで宿舎に入って行ったのだった。