『ったく、まず俺に聞けといつも言ってるだろう・・・俺は、もう、あんな想いをしたくないんだぞ・・・』
ベッドに下ろしたミニョの傍らで、座り込んだテギョンは、横に滑り込む様にうつ伏せ、スースーと寝息を立て笑っている顔を覗き込んで髪を撫でていた。
『ふ・・・ん・・・幸せそうな顔しやがって・・・よっぽど美味いもんでも食わせて貰ったのか』
うっとおしそうに払われる手を掴んで唇を寄せると笑みがいっそう深くなったかに見えた頬を撫でてそうっと立ち上がった。
『ふ、まぁ、良いさ、今夜はゆっくり寝ろっ!帰って来たばかりだからな・・・』
そう言いながらシャツに手を掛けたテギョンは、バスルームへ向かい、パタンと閉じられた音に首を曲げたミニョは、うっすらと目を開けていた。
『ヒョン・・・ニム・・・』
うつ伏せてテギョンの枕に顔を埋めるミニョは、シャワーの流れる水音を聞いている。
ミナムに言われた事。
鬱々とそれを考えていた。
「お前さぁ・・・俺達と仕事する気ってあるのかぁ!?」
「ふぇ!?」
「仕事だよ仕事っ!いつまでも無職って訳にゃいかないだろう」
「へ・・・え、ああ・・・まぁ・・・」
「えー、今のままでも良いじゃーん。ミニョってば、ご飯作るの上手いしー!家の事色々やってくれ
て助かってるしー、俺、お弁当も作って欲しい位なんだけどなー」
ミナムの言いたいことを阻むジェルミに邪魔をされ、ミニョもまたその意図は汲めなかった。
「ちっがぅんだっそういうことじゃなくてだなぁ・・・あっ、ちょ、ジェルミ!それ俺のっ!」
「なんだよー、ミナムってば食べ過ぎだろうっ!ヒョンに太ったって言われてたじゃん!遠慮しろっ」
「うるさいっ、明日走るから良いんだっ!カロリー分はすぐに消費してやるっ!」
家を借りて一緒に住むというミナムにそれは、社長の意図に反するだろうとジェルミが難しい顔をしていた。
「んー、そうは言われてもなぁ・・・教会にいるのとは、訳が違うし・・・俺ってば心配・・・」
「いやーん、ミナムってば、過保護ー、シスコンだったの!?」
「うるさいなぁ、お前は、ミニョの突飛な性格を知らないからさぁ」
「そんな事無ーい、俺だってミニョの事は良く知ってる!お前より何倍も頑張り屋さんだー」
「チッ!俺だって頑張ってるってのっ!」
レストランの個室で三人でご飯を食べながらそんな会話をしていた。
「あー、でもさっ!ヒョン!ヒョンは、許さないと思うんだけどー」
ジェルミの一言にミナムもミニョもグッと喉を詰まらせ、それきり会話は少なくなっていった。
持て余した間につい伸ばしたグラスがミナムのものだった事に気が付いたのは、暫く経ってからだったが、ミナムも承知で何も言わなかった。
『うー、頭痛いですぅ・・・オッパてば、教えてくれれば好いのにぃ・・・』
頭を抱えたミニョは、枕に顔を埋めながら横を向き、ハッと目を見開いた。
顔に落ちた翳。
遮られた明るさに、ゆっくり目をあげたミニョは、腕組して立っているテギョンを見た。
『ヒョ・・・』
『お前、目が覚めていたのか!?』
『え・・・あー、あ、さっき、覚めました・・・』
『ふん・・・そうか・・・なら』
首に掛けたタオルを引っ張ったテギョンは、起き上ったミニョの前に突き出した。
『何ですか!?』
『風呂に入って来いっ!まさか、そのまま寝ようとか思ってないよな』
『へっ!?』
ミニョが寝ているのは、掛布団の上だ。
テギョンの顔を見たミニョは、ゴクンと喉を鳴らして枕を袖で撫でつけ立ち上がっていたのだった。
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