テギョンの内心等、知る由も無い。
元より知るつもりも無いシヌは、ミニョはと聞いていた。
視察旅行に行っていると聞いてはいたが、具体的にどこにいつまでとは聞かなかった。
帰って来てるのかとスーツケースを見たままテギョンに聞いた。
『ああ、ミナム達と食事に出かけた・・・』
置いて行かれたとは、口が裂けても言わない。
シヌのことだから隠れて面白がるに決まっている。
しかし、荷物だけ引き取ってくる俺ってどうなんだ。
通りすがりの親切な同居人。
いや、そもそもあいつにとって俺は、大事にするべき対象じゃぁないのか。
ミニョが悪い訳ではない。
テギョンが何かした訳でも。
ただ、ミナムに連れて行かれただけだ。
ただ、黙って見送った。
黙って。
空港で見送った時のやりとり等既にテギョンの頭からはすっとんでいた。
連絡をすると言ったミニョから実際にメールが来たのが三度。
それもおはようとおやすみのただの挨拶文だけだった。
今日帰って来ることも知らなかった。
出掛ける前、ミニョに話があると告げた直後あたりから様子はおかしかったが、ミニョに話を切り出せなかったのは、テギョン自身がどうするかと悩んでいたからだ。
決意をした途端、雲の向こうへ消えて行った。
空になったペットボトルから落ちる最後の一滴を飲み干して見つめたテギョンは、ゴミ箱に放りなげスーツケースに腕を伸ばした。
『出掛けるのか!?』
シヌを見たテギョンが、聞いた。
カジュアルだが、部屋着とは違う洒落た服装のシヌは、庭をぼんやり眺めている。
首に巻かれたストールが、中庭から舞い込んだ風に揺れシヌの口元を隠していた。
『ああ、今夜は遅くなる・・・』
今夜だけじゃないだろうと思ってもテギョンは、黙っていた。
シヌの夜遊びが始まったのは、ミニョがここに帰って来て暫くした頃からだ。
いても居なくても10代の頃の様に煩わしい程の制約を事務所から受けている訳ではない。
特段返事をするでも無くスーツケースを持ち上げたテギョンは、自室に向かい、シヌもまた何の感慨も無く外を眺め続けていたのだった。
にほんブログ村