ガラガラと音を出すスーツケースに未だ文句を言っては、ぶつくさぶぅたれて玄関に消えたテギョンを屋上でお茶を楽しんでいたシヌがじっと見下ろしていた。
そもそも駐車の仕方からして、シヌの気を引いていた。
ここにいれば、帰って来たというのは、音で大抵知れるが、いつもならもう少し慎重に滑り込んでくる車から降りた後のテギョンの行動。
何だと見下ろせば、丁度、派手にトランクを開け、腕を組んで睨みつけ、暫く立ち尽くしていた。
『ミニョも乗ってるのか!?』
咄嗟にそう思ったのは、テギョンの睨み方と振る舞いだ。
まるで、怒っていないからさっさと降りて来いとでも言わんばかりに腕を組んでじっと見つめて睨みつけていた。
『いや、怒ってなくても機嫌は悪く見えるんだけどな・・・』
いや、そもそも、そんなところに乗るミニョってなんだよ人形かと自分に突っ込みをいれたシヌは、スーツケースを重そうに下ろしたテギョンに更に想像を膨らませていた。
『まさか、あの中にミニョが・・・』
恐い想像をしつつもそれを否定してテギョンの顔に何かが面白そうだと直感を刺激されたシヌは、ニヤリと笑って、踵を返した。
『ったく・・・どういうつもりなんだっあいつっ!俺の女だって自覚があるのかあれでっ!!!』
階段を降りようとして聞こえなくて良い声を聞いてしまったシヌは、出そうとした足を引っ込めた。
まだ、痛い。
その言葉は、まだ。
解っていてもまだ、痛いなと締め付けられた心臓を抑えたシヌは、小さな溜息を吐くと顔をあげ、取り直した気持ちを抱えてテギョンに聞こえる様に階段を降り始めた。
トントンと小気味よい音をさせて、スリッパを鳴らして降りて来るシヌにそちらを見たテギョンは、僅かに固まっていた。
居たのか。
と顔を凝視しているテギョンにシヌがふっと笑うとお帰りと微笑んだ。
『・・・仕事は・・・』
間抜けな質問だと思ったテギョンだが、口をついた言葉を今更訂正も出来ない。
A.N.Jellのリーダーとして君臨するテギョンも自分に何かあれば、事務所はバックアップはしてくれても殊更グループに関しては、結局シヌが頼りなのだと今では実感している。
マンネふたりにプロ意識が無いとは言わないが、シヌのそれとはまた違う。
涼しい顔をしながらグループで一番音楽を演りたいのはきっとシヌで、A.N.Jellの解散を誰より望まないのもシヌだ。
シヌの動線を見つめながら水を飲んでいたテギョンは、返って来ない返事には、特に何の感情も持たなかったが、見つめられている先のスーツケースにしまったという顔をしていたのだった。
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