誰が、何を知っていた。
これは、俺とミニョのただ一縷(いちる)の一抹の約束事。
花が落ちた様に。
命を散らした。
散った花は、土の養分となり、再び芽を出した。
ならば、水を与えたのは誰だ。
水は、天から与えられた。
では、天は、何かを知っているのか。
知っているだろう。
運命の輪など人知で操(く)ること叶わぬ。
ならば、お前がここに縛られている理由もそれだろう。
知らぬ。
知る必要の無いことだ。
吾の肉体は既に無く、主が記憶と肉体を持っている。
ミニョの記憶は。
呼び覚ました。
それが、吾が役目。
『いい加減にしろっ!』
対峙した髪の長いテギョンに怒りを露わにしたテギョンが、剣を突きつけていた。
『今生も運命だと・・・そう言うのか・・・』
『知らぬと言っている・・・』
『知らない筈は無い!お前と俺は、こうして何度も会った・・・ミニョを見つけられない時代も・・・』
『ミニョがここに来るのは、お前と一緒にいる時代だけだ・・・』
『最初に俺と会った時、お前は俺に言ったな・・・ミニョを見つけて子を為せ・・・と・・・俺の記憶を呼び覚ましたのもお前だ!』
『・・・・・・・・・それが、ミニョの愛だった』
突きつけられた切っ先を心臓に押し当てて進むテギョンは、自ら背中を貫いて笑った。
『業の深い女よ・・・吾を追いかけて戦場まで来たのだぞ・・・子も捨てて・・・』
命も投げた。
『お前の愛が深いの間違いだろう・・・』
『ふ、つまり、主の愛が深いという事か!?』
『チッ!自分に説教をされる謂れは無いっ!不愉快だっ!』
『ふっ、運命とは、そう易々と変えられるものでは無い』
『お前がそこに縛られている様に・・・・・・か・・・』
『さぁ、だが、逆らおうとしているのだろう・・・』
『扉を開けたのは、ミナムなのか!?』
『そうだ・・・もっとも最初に開けたのはシヌだが・・・』
『や、っぱり・・・シ、ヌか・・・』
『驚かぬのか!?』
『チッ・・・予感があった・・・俺を殺しに来るのだろう・・・』
『さぁな・・・吾に予知能力はないのでな・・・』
『ミニョをふたつに分けたのがシヌだろうがっ!』
『そうなのか!?』
同じ思考の目の前の男に堂々巡りだと思い始めたテギョンが一歩引いていた。
けれど、少なくとも自分の記憶より、はっきりした歴史と時代を知っている男。
導きたい答えも知っているだろうにと唇を噛んだテギョンは、剣を鞘に収めた。
『ったく・・・これまで・・・一度としてミニョの片割れ等見たことが無いんだぞ・・・シヌと出会ったこともだ・・・』
『吾は何度かあるぞ』
自分の絵姿を見上げる男の背中に忌々しそうな舌打ちが届けられテギョンは、壁際に座り込んだ。
『お前とミニョ・・・いや、吾とミニョが出会わぬ時代、幾度かカン・シヌは、ここへやって来た・・・何かを探している様であった・・・が、吾は、主がおらぬと不思議とこの絵からは出られぬのでな・・・見かけたという方が正しいか・・・』
『ったく・・・お前・・・一体何者なんだよ・・・』
『さぁ。吾が何者かそれは、主が一番よく知っているのではないか!?まぁ、しかし、吾は、知りたいとは思わぬな・・・吾はミニョに会いたい・・・それだけだ・・・』
『悲しくならないか!?』
『悲しいか!?』
『好きな女を抱けないのは、哀しくないか・・・』
項垂れたテギョンの前で男は、楽しそうに笑った。
『ふはははは、全く抱けぬ訳では無いのでな・・・数ならばお前よりも遥かに勝るぞ』
それだけ告げた男は、テギョンの前から音も無く消え、肖像画を見上げたテギョンは、その絵が僅かに笑っているのを見て、何度目かの溜息と舌打ちをして奥の間を出ると通路の前で壁に手を押し当てていたのだった。
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