大声で、ミナムを呼びながら廊下を走っていたジェルミは、練習室の前を一度は通り過ぎたものの踵を返して中を覗き込んでいた。
キーボード前に座ったテギョンが、ヘッドホンを装着して譜面を見つめ、真剣な表情だ。
暫く、考え込みながらそれを眺め、気が付く様子も無いテギョンにトンとガラスをノックしたジェルミは、丁度顔をあげたテギョンと目が合ってドアを開けた。
『ヒョン!ミニョ帰ってるんでしょう!?どこ!?』
知っていると決めつけたジェルミの態度に半分ヘッドホンを外したテギョンの眉が寄った。
『あぁ・・・ん!?ミニョが帰ってる!?』
寄り目で睨まれたジェルミが、ビクンと肩を震わせて頷いた。
『いつ!?』
『えっ!?いつって・・・それは、知らないけど、今、事務所にいるって・・・』
廊下を指差し、聞いて来たと戸惑ったジェルミは、知らないなら良いと出て行った。
腕時計を見たテギョンは、時刻を確認しキーボードの電源を落として考え込んだ。
『一週間・・・って言ったよな・・・一週間・・・は、明日じゃないのか!?』
きっちりしたいテギョンとそうでもないミニョの頭の中は当然違う。
時計のGMT(※グリニッジ標準時。但し時計に搭載された機能の呼び名にも使用)を廻していたテギョンは、ハッと気が付いて頭を抱えて舌打ちをするとヘッドホンを外して廊下に出た。
『チッ!あの女が一緒だから気にしてなかった・・・ミナムの奴ー、知ってて俺に教えなかったな!』
経った一日。
経った数時間。
ミニョがアフリカに居る間、散々テギョンを苦しめたのは時差だ。
あんな想いは、二度とご御免を蒙りたい。
たった一本の電話で引き裂かれ、遠い空だが同じものを見ていると想い、早く帰れと願い、やっとの事で迎えに行って、その手に触れて、抱き締めて、どこにも行かないと約束したのにまたあっさり覆されて、それでもたった一週間。
今、これが我慢できなければ、ミニョに仕事なんてさせられない。
『クソッ!!狸爺っ!とんでもない交換条件寄越しやがって!誰のお蔭でユジンが立ち直ったと思ってやがるっ!』
悪態を吐きながら、レコーディングスタジオに向かっていったテギョンであった。
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