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一週間後。
視察を終えてひとり帰国したミニョは、ソヨンに渡された分厚い資料を持って、A.N.entertainmentの前に立っていた。
ミナムの代わりをしていた一か月、毎日の様に訪れ、生活をしていた場所。
戻って来て、足を運ぶことも少なからずあるが、特別な用事もない為、頻繁に訪れる事は無くなっている。
正面には、A.N.Jellのプロモーション様の幕が垂れ下がり、テギョンを中心にシヌ、ジェルミ、ミナムと見慣れた顔が、アーティストとしての顔を映し、応援しているペンも変わらずそこにいる。
『ふふ、ヒョンニムが一番格好良いです・・・でも、可愛いのはやっぱりジェルミ!?』
首を傾げて疑問符浮かぶ独り言を呟き、裏口に向かったミニョは、ずらした眼鏡で警備員に顔を見せ、苦笑を返されてドアを開けて貰った。
『社長がお待ちだそうですよ』
『ありがとうございます』
胸ポケットに電話を仕舞いながらドアを抑えた警備員に笑顔を返して、階段をあがって行く。
途中、顔見知りのスタッッフと会釈を交わし、スタスタ歩いていたミニョは、メインホールの吹き抜けが見える場所で足を止め、ピアノを見下ろした。
『ふふ、懐かしい・・・』
テギョンに初めてキスをされた場所。
それ以外の思い出も勿論沢山ある。
あれから、幾度となくテギョンは、ミニョにキスをしてくれるが、あの衝撃は、未だに忘れられない。
『シヌひょんに申し訳ないことをした場所です・・・』
それだけではない。
浮かれた気分をユ・ヘイによって崩された場所。
泣いたジェルミを茫然と見送った場所。
『ヒョンニムの秘密を知ってしまった場所です・・・』
玄関から奥のウッドデッキまで、暫く見下ろしていたミニョは、スーツケースを握り直して歩き出そうとして呼び止められた。
『ミーニョーじゃーん!なーにしてるんだー』
『オッパ!』
被った帽子を持ち上げたミナムが、デッキとの境の回転扉を潜って、ミニョに手を振っている。
『オッパこそ、仕事は!?』
『仕事中だぞー、レコーディングの途中ー、ってか、今、帰って来たのかー』
駆け足の一段飛ばしで階段を上がったミナムは、ミニョのスーツケースと抱えたファイルに目を止め、それを奪うと、隣を歩き始めた。
『向こうは、どうだったー!?』
『あ、はい、オンニが宿泊先も全部用意をされていて、ヒョンの滞在も問題無さそうでした』
『ヌナの家だっただろう!?』
『ええ、ポッタ夫妻という方が管理をされているそうですが、オンニの持家みたいです』
『ホテル並みの施設だろう!?』
『ええ、とっても豪華で、普通の家とは、ちょっと違いました・・・』
『元々、金持ちの別荘だったそうだからな・・・近くに湖もあっただろう!?』
まるで、見知って、行った事がある様に話すミナムにミニョが不思議顔だ。
『ヌナの写真集にその場所の四季を撮った写真があるんだ・・・俺も一度は行ってみたいなぁと思っていたんだ・・・』
『へー』
『写真集の撮影場所としては、良い所だと思うぜ!ヌナがどんなコンセプトを作ってくるかも楽しみ
だしな・・・』
パラパラとソヨンのファイルを捲っていたミナムは、中に挟まれたミニョの写真に手を止めた。
『コンセプトは、A.N.entertainmentが考えるって仰ってましたよー』
『共同でな!けどな、アートってのは、インスピレーションだ!お前が、こんな写真を撮って貰った様
に何が起きるか解らないものだろう!?』
『えっ!?』
ミナムが取り出した写真を見たミニョは、呆然と暫く眺め、目を瞬いている。
『へー、お前ってこんな顔もするんだなぁ・・・物憂げっていうか・・・周りの緑と対照的で良い写真だ
な・・・』
ひっくり返して見つめているミナムは、ニヤニヤ笑い、ボッと赤くなったミニョは、それを奪おうと伸ばした手をあっさり躱(かわ)された。
『何するんだよっ!ヌナの大事な資料だろう』
『そっ、そうですけどっ!なっ、何で私の写真っ!』
『他にもいっぱい入ってるみたいだぜ・・・試しに撮ってたんだろう!?』
アン社長が、これから見る筈の資料。
ミナムの頭には、ひとつの疑問が浮かんでいたが、その答えはすぐに見つかっていた。
『なぁ、ミニョ・・・お前、ヌナに一緒に行きたいって言った理由を話したんだろう!?』
『え・・・あ、ああ・・・はい・・・オッパも・・・』
聞いたのですねと言葉にしないミニョは、ミナムを上目で見つめて頷いた。
『お前の将来だから、俺は、何にも言わないけどさ・・・でも、お兄ちゃんとしては、お前にあんまり悩んで欲しくは無いぞぉ』
『えっ!?』
『ヒョンが、お前に歌わせたいってのは、そんなに深い意味は無いと思うんだよな・・・確かにお前の音源回収したり大変だったと聞いてるけど、お前がどうこう考える問題じゃぁないぞー・・・責任感じるならそれは、むしろ俺。お前に重荷を背負わせたのも俺なの!俺は、夢を叶える為にお前を利用したんだ!ヒョンには、ヒョンの考えも勿論あるだろうけど・・・歌って欲しいって言うなら歌ってやれば良いじゃん!録音したからってそれが、外に出るとは限らないんだしさ!ヒョンが、寝物語に聞きたいだけだろう!大体、お前、あの携帯のメッセージを聞いたろう!同じ事をしたいだけだって!』
同じこと。
ミニョに渡る筈だった携帯電話に入れられた大量の曲。
ステージの告白からアフリカに発つまでの短い期間にテギョンが作ったそれは、今、ミニョの手元にあって、寝物語に聞いてるのはミニョだ。
パンとミニョの胸にファイルを押し付けたミナムは、話を続けようとしたが、開いた扉から出て来たアン社長の顔にきょとんとして慌て、レコーディングの途中だったと、話は宿舎でと逃げる様に去って行き、見送ったミニョは、社長室へ促されていたのだった。
ミニョに渡る筈だった携帯電話に入れられた大量の曲。
ステージの告白からアフリカに発つまでの短い期間にテギョンが作ったそれは、今、ミニョの手元にあって、寝物語に聞いてるのはミニョだ。
パンとミニョの胸にファイルを押し付けたミナムは、話を続けようとしたが、開いた扉から出て来たアン社長の顔にきょとんとして慌て、レコーディングの途中だったと、話は宿舎でと逃げる様に去って行き、見送ったミニョは、社長室へ促されていたのだった。