『痛っ・・・』
突然、蹲ったミニョをテギョンが不思議顔で覗き込むと胸を抑えた顔が苦痛に歪んでいた。
『大丈夫かっ』
慌てたテギョンは、ミニョの両肩を乱暴に掴み、着衣を横に引っ張っている。
『え、あん、痛っ・・・』
『こ・・・れは・・・』
折角着替えた衣服を肌蹴られて剥れるミニョは、覗き込んでいるテギョンを睨むが、肌に触れた手が横に滑っていく。
『誰かが扉を開けたっ・・・・・・のか・・・』
『扉!?』
驚愕に目を開くテギョンは、ミニョの胸の痣に指を乗せ何度も撫でている。
『墓に続く通路の扉だ!あそこは、俺以外開けられる者等いない筈なのに・・・』
『扉って何ですか!?』
捲られた服を強引に合わせ、眉間を寄せるミニョは、舌打ちをして離れるテギョンにあかんべと舌を出している。
『お前・・・墓に入ったんだろう!?』
『入、りましたよ』
『それは、覚えていないのか!?』
ミニョを睨みつけたまま額を小突いたテギョンは、痛そうに抑えたミニョを笑って馬を呼んだ。
『俺と最初に会った時の事はっ!?覚えているのか!?』
『最初!?・・・・・・熱を出された時ですか・・・』
首を傾げて考え込むミニョを見つめたテギョンは、不満そうに舌打ちをした。
『違うぞ、一度目に出会った時・・・・・・ああ、いや・・・あの時も記憶が無かった・・・な』
テギョンも考え込み、尖らせた唇で首を振っている。
『ぅん・・・というか、あなたは生まれ変わる度に記憶を持っているのですか!?』
着衣の下に手を入れて、そこを擦ったミニョは、手綱を外す為に伸ばした腕をテギョンに獲られ抱き上げられた。
『俺の半分くらいは、あの絵に封じられているからな』
『えっ!?』
馬の背に乗せられたミニョは、手綱を解く頭を見下ろし、城の方角を見ているテギョンの髪に触れた。
『俺に会ったんだろう!?』
『・・・会いました・・・けど・・・』
うっとおしそうに手を払うテギョンは、ミニョを見上げて、不満そうな顔に笑い、馬を跨いで、促した。
『お前を殺した後、俺は、多分数時間は生きていた・・・死にきれなかったんだろうな。その数時間の間に何が起きたのか、死んだ後どうなったかは、俺も知らないが、気が付いた時、俺は、あの絵の中にいた・・・隣にお前もいて・・・居るのにいないお前に絶望したんだぞ!俺と一緒にいたいと言った癖にっ』
悔しそうに吐き捨てたテギョンは、木立を払い、落ちた葉が派手にミニョの頭を掠めるのを笑った。
『そっ・・・それっ、私のせいじゃ・・・』
『必ず、会いたいと会えると言ったのはお前なのに俺は、捨てられたと』
『さっ、先に捨てたのはっ貴方じゃないですかっ!そっ、それにー、私のせいじゃありませんっ神様っ!神様でしょう!』
先を行くテギョンの馬首の巡りは、迷いが無く、それを後ろから見ているミニョは、首を傾げている。
『ふ・・・ん・・・俺は未だ神なんか信じちゃいない・・・けどな願った・・・ここに、俺の隣に・・・いや、隣じゃなくても良いから俺の見える所にお前を連れて来てくれと・・・』
『叶ったのですかぁ!?』
『叶ったからお前とこうして会っているんだろうっ』
きょろきょろ周りを見ているテギョンは、首を傾げて手綱を調整し、トンと馬のお腹を蹴ったミニョが横に並んで、テギョンに首を振って見せた。
『怒らなくても・・・』
ミニョに手綱を引っ張られたテギョンは、勝ち誇って笑う顔を見て眉間を寄せたが、蹄の跡が残る地面を見て、馬の道行が正しいと納得をした様だ。
『怒ってない・・・呆れてるだけだ・・・お前、何度生まれ変わっても綺麗さっぱり俺の事を忘れて・・・俺ばかりがお前を捜しているんだぞ・・・莫迦みたいじゃないか・・・』
『私だって捜しましたよー』
『俺の死に際に現れるのが、お前の特技だろうっ!』
『今は違うのだから良いじゃないですかぁ』
違う。
そうだろうか。
同じ時代。
同じ時。
同じ様な年齢で出会うのは、何度目だ。
誰が。
誰の。
運命を決めている。
テギョンの胸を去来する想いをミニョは、知らない。
『カン・シヌって奴も何を考えているか解らない所があるからな・・・』
『オッパの親友でしょう!?』
『あ!?ああ、まぁ・・・親友には違いないんだが・・・』
シヌは、何かを知っているのか。
小さなミニョの手を引いて現れた男は間違いなくシヌだった。
俺を庇って死んだ男。
俺の恋を笑った男。
何度も巡ったミニョとの輪廻。
けれど、シヌに出会ったのは、これが二度目。
これまでシヌと出会ったこと等無い。
この時代、シヌと再び遠からぬ縁を結んだ。
しかし、それが何を意味し、テギョンとミニョの間に何を齎すのか、この時のテギョンは、まだ何も知らないのだった。