数時間に及ぶ通しのリハーサルを終え、OKを出したテギョンにどこからともなく拍手が送られていた。
「本番はまだだっ!早いっ!」
賞賛に苦言を呈すテギョンは、マイクを通して会場にいるスタッフを労い、正面で、総監督と握手を交わしているアン社長に合図を送っている。
「納得か・・・」
「オーケーオーケーエークセレントッ!流石だーテギョーン!」
拍手と大きなジェスチャーと近づいて来たアン社長は、ステージ下で睨まれた。
「何て言った!?」
「ファミリーコンサートだ!嫌がってた割にサイコーの出来だぞーテギョン!これなら・・・」
にこにこ見上げる社長にギッと射殺しそうな睨みを送るテギョンは舌打ちをしている。
「・・・二度と言・う・なっ!!!!!」
マイクスタンドを引きちぎりそうな程引っ張ったテギョンは、ハウリング(キーン音)に顔を顰め、すかさずユジンが、テギョンの前にしかめっ面を覗かせた。
「オッパ!ファミリーコンサートでしょう!アッパも私も入るんだし!セオンニもリン君もいるのよー!A.N.Jellだけが家族とか言わないでよねっ!」
「うるさいっ!素性隠してるお前が言うなっ!そもそもお前が来ると俺は聞いてないっ!アボジのコンサートにいなかった癖に出演しようなんて図々しっ・・・はっっぐ」
「あは、ははははは・・・ユジンssiミアネー、オッパってば、ちょっと気がたってましてー・・・」
「オンニ」
袖から駆けて来たミニョに口を塞がれたテギョンは、半身で振り返るミニョの二の腕を掴み顎をあげている。
「ぷぁっ!コ・ミニョ!お前は、俺を殺す気かっ!」
「鼻は塞いでないですよー、口だけです・・・」
「口答えするなっ!」
わらわらとステージに集まって来る出演者と主だったスタッフが、ステージ下と上で会話と握手を交わす中、アン社長がテギョンにマイクを渡された。
「前夜祭やるんだろう!?」
「ああ、お前は!?来ないつもりか!?」
「ああ、リンがいるからな・・・終わったらいくら騒いでも良いが、ガキの興奮は、抑えないと明日に響く」
「良い父親だな」
「ふっん・・・ほどほどにしろよ!あんただって若くないんだ」
ニヤリと笑うテギョンに苦笑いのアン社長は、マイクを握ってスタッフに声をかけ、ギョンセと話し込んでいるミニョに近づいたテギョンは、その肩を引き寄せている。
「家に来ませんか!?」
「「えっ!?」」
誘い文句に驚いたのはミニョとユジンで、凝視されるテギョンは笑っているギョンセとユンギを見た。
「彼も来ないと話は出来ないだろう!?」
「ええ、あいつに洗いざらい喋って貰います・・・どうせ帰り道だ・・・」
視線に気が付いたユンギが、ジュンシンとリンを連れて近づいてくる。
「ユジンも覚悟が必要だね」
「何々!?何の事!?」
ギョンセに抱き付いて見上げるユジンは、きょとんとし、呆れ顔のテギョンは、ミニョを抱き寄せた。
「おっ前なぁ、もっと自分の立場を知れっ!」
「なんのことよぉー」
頭ごなしの怒号に小さくなるユジンは、ギョンセをきつく抱いている。
「コンサートが終わった途端にお前とイ・ユンギの結婚が発表されるんだろうっ!」
「えー、知らなーい・・・結婚するとは言ったけどお爺様に任せてあるものっ」
「チッ!コ・ミニョより数段メンドクサイっ!だから、会いたくないんだっ」
「だから、俺が相手に選ばれたんだよ」
リンの背中を押しながらユンギがテギョンの隣に立った。
「音楽しか知らないお嬢様だ・・・失礼だがギョンセssiはその才覚も興味も無いと聞いていた・・・というよりギョンセssiが婿だと誰も教えてくれなかった・・・・・・会長、曲者だからなぁ」
「お前が言うなっ!それより・・・本当に結婚するのか!?」
「ああ、でもさ、実は俺も今、すごーく困ってるんだよね」
顔を見合わせるテギョンとユンギに訳知り顔のギョンセは笑うが、ミニョもユジンもきょとんとしている。
「大体さぁ、テギョンが俺を巻き込まなければ、こんな大事にならなかったよー」
「お前がこいつと知り合いだとも知らなかったんだ!知ってたら、宣伝なんかしなかった!」
「あれ、失敗だったよなぁ・・・Fグループ巻き込んだ言い訳どうするよー」
「爺は、きっと喜んでるぞ!ユジンの素性が明らかになれば、株も上がるだろうからな・・・」
「オンマー」
スカートを引っ張ったリンは両腕を伸ばし、抱き上げたミニョは、ステージの端に歩いて行った。
「明日が本番ですよー」
「うん!頑張るー」
「ふふ、オンマもリンとアッパと沢山楽しみますよー!楽しませてくれますかぁ!?」
笑いあって頬を寄せたリンとミニョにテギョンが、後ろから声をかけている。
「チッ!とにかく帰るぞ!ファン・ユジンとイ・ユンギの結婚なんて勝手にすれば良いが、ユジンがこちら側である以上、対策が必要だ」
「なーんの対策よぉ!」
伸ばされた手を握ったミニョは、歩き出したテギョンに従い、片づけをしているギョンセは、ユジンに引っ張られ、ユンギもジュンシンを抱き上げた。
「ふ、ん・・・コ・ミニョ・・・・・・お前・・・もし、リンがいなくなったらどうする!?」
「へっ!?」
後ろを気にしながら、恐ろしいことをさらりと言うテギョンにリンをぎゅっと抱きしめたミニョが、泣きそうな顔で横を見ている。
「なっ、何っ・・・」
2階の客席を指差したテギョンは、見慣れないスーツ姿の10人程の集団を見つめてミニョの耳に口を寄せた。
「あれな・・・ユジンとアボジの関係者だ・・・」
「は、ぁ・・・」
意図不明なテギョンにボケッと上を見たミニョは、帰り支度をしている集団に首を傾げた。
「半分はアボジの招待者だが、ユジンが来たせいで、数が増えた」
「それが!?」
「ユンギと同類な連中ばかりで・・・青田買いが趣味だ」
「は!?」
「才能のある子供を見つけて、育てる・・・金は有り余ってる連中だからな・・・要は、人買いだ」
「なっ・・・」
ぎょっとしたミニョは、リンを更にきつく抱きしめ、後ろを見ていたリンがきょとんと前を向いている。
「リッ、リンはどこにもやりませんよー」
「ああ、俺もそういうのは嫌だ・・・リンが自分で見つける将来なら良いが、人に決められるのは絶対許さない・・・ってお前っ、何、手を振ってるんだっ!」
前を向いた途端、2階に向かって手を振ったリンにテギョンが驚いて、手を下ろさせた。
「ハラボジのお友達がいたー」
「会ったことあるのか!?」
「あるよー、にゅーよーくで会った」
両手をあげて手を振り始めたリンに顔を見合わせたテギョンもミニョも冊子を丸めて振っている初老の男性に軽い会釈をした。
「目を付けられてると思っていた方が良いぞ」
「うぅーん・・・解りました・・・けど・・・ね、オッパ、ご飯どうするのですかぁ!?家で食べるのでしょう!?」
楽屋口の通路でリンをテギョンに渡したミニョは、振り返ってまだ、ステージにいるジェルミ、ミナム、シヌに手を振り、テギョンの腕に絡まっている。
「ああ、適当で良い、どうせ普段外食ばかりの連中だ家庭料理で十分だ」
「・・・オッパはそれで良いかも知れないですけどぉ・・・」
「何だよ」
「私にも嫁としてのプレイドというものが・・・」
咳き込み、縺れた言葉を訂正しようとしたミニョは、テギョンに笑われた。
「クク、プライドね・・・必要ない!お前はお前で良い!それにお前の手料理食いたいって言ったのアボジだからな!いつも通りで良い」
「うっ、家・・・3人のつもりだったから何も無いのですけどぉ・・・」
「買い物して帰れば良いだろう!まだ、夕方だぞ」
すかさず食べたいものをリクエストしたリンにテギョンもリクエストをあげ、どんどん増えていく夕食メニューに眉間を寄せながら、どうでも良くないと膨れているミニョだった。
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