『ミナムッてば、本当に生意気なガキだったわー。学校帰りにわたしの高校までひとりでやって来て俺の女だと言ったのよ』
『へっ!?』
『あの時は、本当っ驚いたっ!わたしの友達も皆、絶句していたけど・・・ふふ、わたしの腰くらいしかない頭で精一杯背伸びして大きく見せようとしてさ』
伸ばした手で高さを表現して懐かしいと笑ったソヨンは、ミニョの手から一枚の写真を持ち上げた。
『こいつが、私の旦那よ・・・砂漠の王様・・・に・・・なる筈だった・・・』
ソヨンの指先に頭から白い布をすっぽり被った男性が写っていた。
少し斜に構え、腕を組んでこちらを見つめている口元が挑発する様に笑っていて、写真の隅に写る小さな手がそれを窘めている様に見えている。
『なれなかったのは私のせい・・・私と出会わなければ、もっと堂々としてたのにねー』
ソファに沈むソヨンを見るミニョは、そうは見えないと首を傾げ、空のポットを振ったポッタ夫人が呆れ顔で立ち上がりながらソヨンを笑った。
『ほほ、十分立派でしょう。その方は、ルールを重んじて、まだそこにいる。何より貴方の息子は、次の王様でしょう!?』
『そうなのよー、なーんで息子を産んだかなぁ・・・せめて娘だったらなぁ・・・それに男の子なんて他にもいるのよぉ・・・なーんで私の息子よー!あの子じゃなかったら別れなかったわぁ!!』
目元を隠したソヨンの泣き言をクスクス笑い乍らキッチンで聞いているモッタ夫人は、勢いよく水を流し、その音を聞きながら写真を見続けていたミニョは、起き上ったソヨンを見た。
『なーにが言いたいかって言うとねーミニョちゃん』
テーブルに所狭しと拡げられる写真をかき混ぜる様に見つめながらソヨンもミニョを見た。
『王様も皇帝も肩書よー。確かに家柄とか出自とかね・・・そういうものを重んじる人がいるのも事実。こっちが気後れする事もあるわ。でもね、そんなもの考えたって仕方無い。男なんてねー追いかけてくれる位が丁度良いの!貴方の男はちゃんと追いかけて来たんだから私に言わせれば好い男の部類に入るわ・・・あなたを大事に思ってる。それは、前にも確認したんだけどさ・・・』
ふと、手を止めたソヨンは、1枚の写真を手にすると裏返ったそれをミニョの顔に突きつけ、それを何気なく見たミニョは、首を傾げ、じっくうり見つめ始めた。
『なーにが気に入らない訳!?』
『きっ、気に入らない訳じゃ・・・』
他の写真と同じ民族衣装に身を包んだ男性。
その姿は、どこか見覚えがあって、しかし、ミニョがもう一度良く見ようと瞬きをしている間にソヨンは、それを背中に隠してしまった。
『じゃぁ、寂しいんだ』
背中でごそごそ手を動かしたソヨンは、再び写真を出した。
が、それは、先程の民族衣装では無く、見慣れたテギョンの写真で、不思議な顔をしながら受け取ったミニョは、手の中で笑うテギョンを不満そうに見つめた。
『たった一か月、毎日一緒にいて、訳の解らない感情が恋だって知って、散々悩んだでしょう!?迎えにも来てくれた。なーにが不満なの!?』
『ふ、不満なんてありませんっ!』
背中を向けたミニョは、後ろをちらちら気にして、前に立って笑っているモッタ夫人も気にして、泳いで定まらない視線を俯かせて笑っているテギョンに向けた。
『うっ・・・その・・・ただ、ちょっと・・・』
『連れてってくださいって言ったのミニョよ。ミナムを使って言い訳までさせてさ』
『だっ、だってー・・・』
『だって何!?』
聞いてやるという態度のソヨンに小さくなってしまったミニョは、あぐあぐ困り顔だ。
本当は、事務所のスタッフが、ソヨンに同行をする筈だった。
テギョンの手前、空港であーだ、こーだと言い訳を並べてみたが、それもこれもミニョが、ソヨンと食事をしていた時に一緒に行きたいなとボソリと呟いたのがきっかけだ。
すぐに否定されたその言葉とその顔にポカンとしたソヨンは、理由は後で訪ねようとさっさとミナムに電話を入れ、当然事務所にも手を廻して打ち合わせ、ミナムからミニョに言い含めさせていた。
理由を聞く権利があるとミニョに近づくソヨンは、その肩を掴み、モッタ夫人の呼び声に返事を返していたのだった。
にほんブログ村