ハタと我に返ったミニョは、引き寄せていたテギョンの頭を剥がそうとしたが、胸に埋まる髪を掴むのが精一杯で、渋い顔をしていた。
『あのー、そろそろ離っ・・・ひゃっ・・・』
遠慮がちなミニョの肩が竦み、胸から低い笑いが零れている。
『ちょ、変なことしな・・・ぁ』
『クク、変な事と言われてもなぁお前も俺もこんな恰好だからなぁ・・・』
くぐもって間延びした声を出し、顔をあげるテギョンは、膨れるミニョを嬉しそうに見上げ、片膝に抱えていた体を両膝に乗せ、背中から抱き締め直した。
『えっ、あ・・・』
『それで・・・この痣、いつからだ!?』
ミニョの肩に唇を押し付け胸を覗き込むテギョンの指先が、たわわな実を摘み、包み込んだ。
『ちょ、どさくさ紛れに何をっ!』
『今更だろう!?』
口付けは、深く肩の肉を食んでいく。
薄く、然して肉付きの無いその箇所は、骨を浮かせ、その上を這う舌先に震えるミニョの鎖骨が窪みを作り、水面に落とされたテギョンの手が水を汲んで、そこを濡らしていた。
『ぁ・・・』
時が、止まった。
いや、戻された。
遥か、暗がりで交わされた情交は、遥か、体動に記憶を収めている。
身躯(しんく)の裡に延びる指先は、膝を割り、奥へ、奥へと侵入していく。
『だぁ・・・』
『最期はいつだったかなぁ・・・』
蠢く指先に遠慮は無い。
開き、侵入し、出しゃばる花芽を掠めた指先が、ミニョの体を折り、テギョンの手を止めた。
『ぁは・・・ちょ・・・』
『この体はきつすぎるな』
『っ・・・・・・莫っ迦な事を言わないでっ!しないでくださいっ!』
潤みきった目で振り返ったミニョに睨まれる顔は、少しも悪びれていない。
見つめ合い、掠めた唇に頬袋が膨らみ、上がった左手は宙で掴まれた。
『っ!ファン・テギョン!!!』
『怒鳴るなコ・ミニョ・・・聞こえてる』
『聞いてないでしょう!あなたって人は、昔から、出会えばベタベタベタベタ触りまくって!』
『お前が喜ぶからだろう』
『なっ・・・』
『喜ぶからもっと触りたくなった・・・・・・嬉しそうに笑うから・・・この手を放したくなかった・・・』
ミニョの髪を掻き揚げた手が、額を、頬を首を辿り、胸で止まった。
『こんな痕をつける事無く・・・生きた筈だったのに・・・』
掠れてけれど潤む声にミニョの眉間が寄り、落ちた肩がテギョンに近づいた。
『後悔してないんだから気にしなくても・・・』
『してないのかっ!?』
豹変する顔にぎょっとしたミニョは、体を引き、テギョンはニンマリ笑っている。
『しているのですか!?』
『いや・・・お前と会うのは、初めてじゃないけど、今回はきついなぁと思っただけだ』
『はぁ!?』
『だって、そうだろう!お前、俺に剣を振り下ろしたんだぞっ!』
『貴方が、私を襲おうとしたからでしょう!』
出会った時、着替えを終えたミニョは、木の葉と一緒に飛び降りて来たテギョンに驚き、すかさず剣を抜いていた。
名を目的を訊ねても答えない男。
それどころかミニョの剣を掻い潜り、あろうことか唇を奪われた。
そのまま押し倒されそうになったところを愛馬の嘶きに助けられ、テギョンの服を裂いて、剣を交えていた。
『今は・・・・・・大人しいんだな』
『あの時は、知らなかっただけで・・・』
知らなかった。
忘れていた。
この体にその記憶は無かった。
胸に浮かぶ傷跡の痣は、記憶を呼び覚まし、あの墓地が誰であるかを教えてくれた。
『いつ・・・気が付いた!?』
『貴方こそ・・・また、記憶を持っていたのですか!?』
僅かに噛み合わない会話に笑ったテギョンは、空を見上げ、降り注ぐ太陽に目を細めてミニョを抱いたまま水に落ちて行ったのだった。