『と、いうことがあったのです』
テギョンに墓で目覚めた翌朝の出来事を話し終えたミニョは、あれがテギョンの半身だろうと聞いていた。
泉から城へ戻る道中、方向音痴のテギョンより賢い馬が、主を間違いなく誘導している。
『あそこに居るのって、間違わない為じゃぁないのですかぁ!?』
からかい口調にむっとしたテギョンは、手綱を引くと振り返ってミニョを睨んだ。
『あのなー、あそこに封じられている理由なんて解らないとさっき、説明をしただろう!』
『だって、あの人も貴方も同じファン・テギョンなら・・・私・・・どっちを好きになったら良いのか・・・』
『生きているんだから俺を愛せば良いだろう!あいつは、ずっとあのままなんだっ!化け物と一緒だろう!』
『化け物って・・・自分の事なのに・・・』
『俺は、生きてる!というか、さっき、それを証明してやっただろう!?』
ミニョをじっとり眺めるテギョンは、やがて片側の頬をあげニヤリと笑った。
『ふ、足りないんだろう・・・お前、結構好きだったからな・・・』
『なっ・・・違っ・・・』
テギョンの視線に腕を交差させて前を隠したミニョは、手綱を強く引き、慌てて馬を宥めた。
『みっみあーん』
ぽんぽんと馬の背を叩いて宥めテギョンを睨みつけている。
『ふ・・・ん・・・俺は、お前と一緒になる為に戻って来たんだ・・・』
『えっ!?』
『シヌは、もうここへは戻らない・・・あいつは、あの地を治める為に戴冠するんだ・・・』
『えっ!?えっ!?』
何が何だかわからないという顔をしたミニョに城門を潜ったテギョンは、厩の方角から走って来た兵士を見て、馬を降り、手綱を預けるとミニョの傍らにやって来て腕を伸ばした。
『俺と一緒になる気はあるのか!?』
『へっ!?』
『俺と!もう一度一緒になる気はあるのかと聞いているっ!』
もう一度も何もそれが運命ではないのか。
そう思うミニョは、テギョンが伸ばした腕に飛び込む様に馬から降りた。
『あなたに会いたいから生まれ変わっていると思うのですけど・・・』
『ふ・・・ん・・・俺に会えない時代のお前ってどう生きているんだろうな・・・』
『さぁ・・・・・・そういえば、それって思い出した事が無い様な・・・』
『俺と会えなくてもさぞ楽しい人生を送っていたんだろうな』
皮肉を込めるテギョンの腕にしがみ付いたミニョは、やきもちかと笑った。
『俺がどれだけお前を愛しているかお前には昔っから伝わらないみたいだからなっ!』
『愛してる人を捨てるのが愛なのですかぁ!?』
『危険に晒したくなかったんだ!死ぬと解っていたんだからっ!愛だろうっ!』
『そんな愛なら私は要りませんっ!死ぬなら一緒ですっ!』
きつくテギョンを睨んだミニョの迫力に押し黙ったテギョンが、息を呑んだ。
『そう言ったのに・・・・・・置いて行かれたのは、私・・・です・・・』
悲しかった。
淋しかった。
心が、体が悲鳴をあげた。
そんなに愛していたのかと。
生まれた子供の顔を見て、その子の為に生きるより一緒に死にたいと願った。
『あの子にも申し訳ないことをするのだとそう思いましたが・・・私には、貴方が大事でした・・・』
愛する人を捨てる愛。
それが存在することをミニョは、知っている。
テギョンが、そうした様に自分も子供にそれをした。
捨てた子が、何をした。
それも痛い程ミニョは知っている。
『あの絵は、私達の子供が描かせたのですよ・・・貴方を封じ込めているのは、あの子なのかも知れないですね・・・』
連れだって城内へ入ったふたりは、ジェヒョンと向き合う為に謁見の間へ向かっていたのだった。