記憶は、持っていた。
持って、生まれ落ちた。
前時代、記憶がないままミニョと出会う事も見つける事も無く、ただ、何かを求める焦燥感だけを生涯抱いて朽ちた。
その時代、今よりもっと、もっと平和な世だった。
ひとりで生き、ひとりで朽ち、ひとりも悪くなかったと死を迎えたその瞬間、目の前に現れた少女がテギョンの手を握り、涙を流して死を悼んだ。
『この人ですか!?』
『う・・・ん・・・』
ボロボロ零れる涙をテギョンの顔に落とし、出会えた瞬間が別れである事を傷んでいた。
『まだお若い・・・ですね』
『う・・・ん・・・きっとね・・・きっとミニョに会えなかったからよ・・・ミニョに会えなかったから・・・死んじゃうの・・・』
親子ほども年の違う、その少女の名を聞きながら、甦った記憶は鮮やかにでも闇に沈んだ。
指一本動かない。
朽ちるだけを感じ、朽ちる花に落ちた養分は、涙と笑顔とまた会いましょうという言葉だった。
★★★★★☆☆☆★★★★★
『墓地で、貴方の絵姿を見たのです・・・あなたの記憶と出会った・・・』
記憶は持っていなかった。
前時代、持っていた記憶で探し当てたその人は死の淵で、子供心に別れの記憶は辛すぎると人の手を借りて封じ込められた。
次の時代、封じ込めたその人が、ミニョの傍らにいたが、それが誰であるかを覚えていない。
『シヌオッパと貴方・・・』
顔をあげたミニョの頭を捉えた手が、唇を撫で、言葉を呑み込んだ。
『んっ・・・』
岸辺に横たわり、重なるふたりの上で、ミニョの愛馬が嘶き、テギョンの愛馬が、鼻を鳴らして息を切らせ前足を上げていた。
『ふ、戻って来たか・・・』
離れる体に腕を残したまま起き上ったテギョンは、ミニョの瞼に唇を落として立ち上がった。
『シヌは、俺を庇って死んだ戦友だ・・・あいつの中にその記憶があるのか無いのかそれは、俺にも解らない・・・お前も出会った事があるだろう。最初に俺を庇って死んだ男』
その記憶は、どちらの身にもあまりに凄惨だ。
目の前で己が身を犠牲にして死んだ男。
息絶えるその瞬間まで、テギョンの身を案じ続けた男。
莫迦な時代だと。
莫迦な時代を終わりにしようと。
大義を抱いた訳では無い。
ただ、そんな時代。
愛をくれた女をも犠牲にして最初の生を終えた。
『生きろと言ったのに聞かなかったのはお前だからな・・・』
『莫迦な女だと言ったのは貴方でしょう!だったら、莫迦は莫迦なりにあなたとの誓いを全うしたいだけですっ!』
『誓いは、有効か!?』
三度目のテギョンの問いにミニョの首は、しっかり頷いていたのだった。
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