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『契約・・・』
黒表紙の冊子は、丁重な装飾が施され、それがどれだけ正式なものであるかをありありと伝えていた。
開いた一枚目には、誰もが知っている大企業の名がコ・ミニョの名前と一緒に綴られ、サインをするだけのスペースが綺麗な線によって示されていた。
『チッ!ヒョンは賛成な訳ね・・・』
ミナムは、契約書にサインをしていない。
次の契約は、自分で書くであろうが、一枚目の契約書は、ミニョの手によってサインをされた。
不可抗力ではあったが、それもこれも全てミナムが身代わりを願ったからだ。
『俺のせいだもんなぁ・・・』
ミニョの夢は、シスターになる事だった。
ローマに行き、神学を修め、シスターとして贖(あがな)いを伝え、そうやって修道院という狭い世界で生きていくのだとそれがミニョの幸せだとそう思っていた。
が、しかし、今となっては、それは良く解らない。
きっとミニョにも解らない事だろう。
一か月。
人が恋を覚えた時間はあまりに短くて、人の交わりなんて理屈じゃどうにもならないとそうは思っても身代わりの妹を泣かせ続けるテギョンは許せなくて、けれどそれもこれも自分のせいだと結論付けて、妹が笑っているからこれで良いと納得させて、今またテギョンのせいで、ミナムの頭は混乱を極めている。
『ったく、ヒョンってば一体何を考えてる訳!?スキャンダル片付けたばかりだってのに・・・』
革張りの表紙に刻まれるデザインを辿っていた指先が、携帯を手にした。
『っとに!もう!ヌナの心配が当たってるって事かよっ!ミニョの奴、今度はヒョンに何された!?』
すっかりテギョンを敵とみなしているミナムは、契約書に突っ伏して、長いコールに耳を寄せていたのだった。
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