『ぅ・・・ん・・・え・・・あっ・・・』
魘(うな)されて目覚めるのは何度目か、あの日から、ミニョの睡眠は、度々闇に襲われ、その中を手探りで歩いては、伸ばされた腕を取ろうとして取れない絶望感で目が覚めていた。
『あっ・・・・・・』
何かを掴もうと伸びた腕に茫然としながら起き上ったミニョは、風にそよぐ布地を見つめ布団を捲って足を下ろした。
『誰・・・だろう・・・!?』
目覚めると決まって視界が霞んでいる。
熱い目頭が乾いた筋をまた濡らす。
そして、胸が、熱く傷む。
『なんか・・・前より赤くなってる!?』
胸元を見下ろして月明かりに肌を晒すミニョは、バルコニーへ歩き出した。
『うーん・・・誰かに呼ばれてる様な気もするけど・・・』
誰かは解らない。
涙の訳も。
胸のほてりも。
解らないことだらけの数日は、けれど、昼間のミニョには、問題外で、代わり映えのしない日々を森で過ごし、戻って来た夕方には、ひとつふたつは傷も増やしていた。
『ぁん・・・もう!シヌオッパがいないとつまらないっ!』
テギョンに伴われたシヌは、稽古をほどほどにしろとミニョに釘を差し、セロムを呼んで見比べ、もっと女性らしくなっていてくださいと旅立ってしまった。
『むー、むー、わたしはこれでも十分女性ですっ!』
隣で笑っていたテギョンには、とうとう仕返しを出来なかった事も悔しくて、子供っぽく膨れたミニョに姫ってのはとまた持論を展開されそうになって、柄(つか)に掛けた手を抑えつけられた。
『あー!もうっ!やっぱり、むかつきますっ!ファン・テギョン!戻ってきたら許さないっ!』
戻ってくるのか、来ないのか、見送りに出て来たジェヒョンとジェルミの表情は、どこか翳りがあり、憂う感情で何を考えそれが何であるのかこの時のミニョには、知る由も無い事だ。
『戻って・・・来るのですよね・・・』
誰が。
誰を。
胸を抑えたミニョは、蹲った。
『痛っ・・・』
★★★★★☆☆☆★★★★★
「賢すぎる女は、可愛げがないぞ!強すぎる女もだ」
「ならば、来なければ良いではないですかっ・・・暇なのですか!?」
「忙しいが、通り道だからな」
★★★★★☆☆☆★★★★★
「莫迦な女・・・だった・・・だな・・・莫迦で弱・・・い女だった・・・」
「来るなと言われ・・・ても素・・・直に聞ける女で・・・ないだけで・・・」
「ああ、だが、これで忙しさから解放される・・・お前とだけ過ごせ・・・るな・・・」
★★★★★☆☆☆★★★★★
傷み痛む胸を抑えるミニョは、バルコニーに落ちる月光が樹木に隠されるのを眺めていたのだった。