『ここは、俺の場所だぞー!どっか行けよー』
グスングスンと鼻を啜りながらやって来た少年に抱えた膝を蹴られたソヨンは、真っ赤に腫らした目で睨みつけていた。
『うるさいっ、あんたこそっどこかに行きなっ!泣いてる女は見せもんじゃないっ』
『やだっ!ここは、俺の場所だっ!お前がどっか行けっ!』
ボロボロ涙を零している癖に粋がる少年は、きつい眼差しでソヨンを睨み返し、やがて泣いている少年に同情したソヨンが、腕を引いて隣に座らせていた。
『泣いてる割に強気ねあんた』
『泣いてるところを見せなきゃ良いんだっ!でも涙は零れるっ!止まんないからここで泣くんだっ』
ポロポロボロボロ大きな瞳から零れる涙は、顔をグジャグジャにしていた。
『あんた何処の子よ』
『お前こそどこの奴だよ』
『随分生意気な口をきく・・・』
『生意気で良いんだっ!俺が頑張らないとミニョが泣く!』
『ミニョって誰よ!?』
『俺の妹だ!俺が唯一の家族だっ!』
『親は!?』
『いないっ!いや、いるっ!いるけど・・・』
うっと詰まった声にまたすすり泣きを始めた少年をソヨンは黙って見つめていた。
親がいないならば、自分と同じかと思い、それなら、施設の子供かと思って見ていた。
『教会で暮らしているのね』
『う、ん・・・ヌナは!?』
『わたしもそうよ・・・生まれた時からここにいるわ・・・ここは、私が5歳の頃から隠れていた場所よ』
『えっ!?そうなのか!?だったら、俺の方が後!?』
『あんたと私の年齢差を考えたらそうでしょうね』
『うっ、そうなのか・・・じゃぁ、俺がどっか、他を探した方が良いのか・・・』
あげた顔でソヨンをじっと見た少年は、狼狽えた表情だ。
『適当な場所が無かったんでしょう!?清卓の下とかマリア様の後ろとか、施設の中じゃ、すーぐシスターに見つかっちゃうんでしょう』
『ヌナっ、良く知ってんなー』
『わたしもね・・・最初はそういう所に隠れてたのよ!でも、ここを見つけてから、時間が潰せるようになったの』
『ふーん・・・ヌナも隠れて泣いてるんだ』
奇妙な親近感を寄せたのはソヨンだけでは無かった。
少年もまた、ソヨンに親近感を覚えたのか、暫くそうやって互いの身の上話をした。
少年は、コ・ミナムだと胸を張り、アッパは音楽家だと名乗った。
『どうやってここに来たのかは、良く覚えてないんだ・・・でも、迎えに来るからって言われたのは覚えてる・・・オンマは、気が付いたらいなかったんだけど、アッパも病気で一緒に暮らせないから暫くここに居ろって連れてこられた』
そういう子供は、周りに大勢いた。
けれど、2年3年待ってもアッパは迎えに来なくて、そのうち捨てられたと教会に奉仕に来ている同じ学校に通う子供達にからかわれ始めた。
『俺は、虐められても良いんだっ!でも、ミニョを虐める奴は許せないっ!』
『良いお兄ちゃんなのね』
『だって、俺しかいないんだぜ!ミニョを守れるやつ・・・』
泣き止んで笑ったミナムは、ソヨンがここにいる理由を訊ねた。
『わたしも似たようなものよ・・・親がいないのは仕方が無いけど・・・だからって莫迦にされるのは、悔しいの・・・悔しいから頑張った・・・頑張って学年トップになったのに・・・』
ソヨンの悔しさの原因は、語学留学を兼ねた試験でトップを獲ったにも関わらず、それに難癖を付けられた事だった。
親がいないというだけで蔑まされる事は、既にあまり気にはならなくなっていたが、自分を否定されるのは我慢が出来ない。
出来ないから相手を叩いてしまった。
叩いた結果、留学が帳消しになった。
『自分を守ってくれる親がいて・・・それがどれだけ幸せか知らないのよねあいつら・・・帳消しにした癖に謝りに来たのよ・・・子供はそれを知らなくて・・・わたしの留学が無くなった事をまたあれこれ言ってたわ・・・』
ソヨンの話は、話して聞かせるというよりも独り言できょとんとしたミナムは、暫く考え込んで肩を叩いた。
『ヌナっ!あんまり気にすんなっ!元気出せっ!』
にっこり笑っているミナムに今度は、ソヨンがきょとんとしていたのだった。
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