『チェ・ソヨンとお前は・・・』
突然、ソヨンの名前を出したテギョンにミナムは、首を傾げていた。
何と無言でテギョンを見つめ、テギョンも口に出したは良いが次の言葉を捜している。
『何か聞きたいことでもあんの!?』
『いや、ああ・・・大したことじゃないんだが・・・』
チェ・ソヨンという人物を仕事の上で大事にしろと言ったのは、他でも無いユジンの祖父だった。
この先もファン・テギョンとして、A.N.Jellとして、この業界で仕事をしたいのであれば、そのパイプを切る事は、得策では無いと仮に切りたいと思うのであれば、今回の調査費用を請求すると言われていた。
それは、脅しではないのかと問い返すと不敵に笑った老人は、ビジネスライクだと言い除けた。
孫を誰より可愛がっている老人は、それが弱点である反面、ビジネスには手抜きが無い。
だからこそ、常に指折り数えられるほどのトップに立ち続け、今回、その恩恵を望んだテギョンは、
例え手の平で転がされていようと自分もビジネスだと割り切っていた。
しかし、殊、ミニョが絡むと何故と疑問が湧いてくる。
仕事が増える事は有難い。
有難いが、何故そこで、チェ・ソヨンだと思ったのが始まりだった。
ヨーロッパでは、それなりに地位があるカメラマン。
ミニョの恩人であり、ミニョに言わせるとミナムがソヨンの恩人で、助けてくれたのだと聞いていた。
が、老人との関係が見えない。
A.N.entertainmentに仕事を持ち込んだのは老人で、カメラマンも撮影場所もほぼ指定されていた。
事務所のスタッフが決めた物事に従うなんてそんな事は、日常茶飯事だが、ミニョが、帰って来た事とソヨンが、自分達に関わって来ることの関係性がテギョンには全く掴めなかった。
『何だよ。ヒョンが、他人に興味を持つなんて珍しいな』
考え込んでいるテギョンにミナムが声を掛けた。
難しい顔をしていたテギョンは、ハッとして短い返事をすると意を決した様にミナムに何者かと聞いた。
『何者って・・・ヌナが化け物かなんかみたいだなぁ』
『ユジンの祖父ってのは、この国を牛耳れる程の資産家だぞ・・・その人が、あの女を気にかけるって事は、普通の人間じゃぁないだろう・・・』
お道化るミナムをテギョンが横目で睨んだ。
ぶつかった視線が数秒、受け止めたミナムは、ゆっくり逸らしてウィンドウを開け外気を取り込んで靡いた髪を掻き揚げた。
『唯者じゃないバックを持っているのは、ヒョンだけじゃ無いって事だろう』
『俺のは偶々(たまたま)だ』
『ヌナだって偶々さ。偶々、輿(こし)に乗れる程の恋をしただけだ。俺だって乗れるものなら一度は乗ってみたいものだねぇ。とはいえ、俺ってA.N.Jellに入れる程の運の持ち主だった訳で、努力もしたけど、これもある意味玉の輿だよな』
さらりとミナム特有の道化話が、話をすり替えていった。
それに気づきながら眉をあげたテギョンもだが何も言わず、それきり車中の会話は止まり、テギョンの運転する車は、事務所に滑り込んでいったのだった。