『もう、もう、もう!信じられないっ!許せないっ、許せませんっ!ファン・テギョンのパーボー!!』
怒り心頭のミニョが、叫ぶ声を聞くミナムは、驚いて数歩後退って、振り返ったミニョに間抜けな顔を見せ乍ら首を振っていた。
『オッパ!私、こんな屈辱初めてですっ!何なんですかっ!あの男っ!』
『なっ、何って、それ、俺が聞きたっ・・・』
ミナムに近づいて来たミニョは、襟を掴んでゆさゆさ揺すり、グェグェと間抜けな声を出すミナムは、服に首を絞められてミニョの腕を何度も叩くが、興奮してうーと唸ったミニョに突放されて漸く解放されていた。
『あー、もう!あいつは、何なのですかっ!』
拳を握っているミニョは、およそ着飾ったドレスの外側と中が噛み合って居らず、ぶつぶつひとりで並び立てる文句は、到底その姿から口に出されるのは憚られる様な言葉ばかりで、黙って聞いているミナムが、早く終われとばかりに背中に向かって祈っている。
『だからっオッパ!』
振り返ったミニョは、地面に膝を折って、祈っているミナムを見下ろし、たくし上げていた裾のバサリと落ちた音で目を開けたミナムは、ミニョを見上げた。
『何をされているのですか!?』
『何って、早く終わらないかなぁ・・・と』
胸の前で十字を切ったミナムは、膝の土を払って立ち上がった。
『って、いうかさ、お前、あの男に何かされたのか!?』
初対面である筈のテギョンの名前を連呼して些かも褒め言葉の一つも出ないミニョを不思議に思ったミナムは、ミニョの怒りの原因を探って顔を覗いていたが、暫く考え込むと肘を曲げてミニョに突き出し、腕を組めと要求してミニョを連れて庭の散策を始めた。
『初めましてだろう!?俺もさっきシヌヒョンに紹介されたばかりだぞ!?ジェルミが連れてきた』
『ええ、今日、森で会ったのです・・・ただ、何用かと聞いても答えてくれなくて、アッパもご存知の方だそうですが、どこのどんな方なのかそれもまだ・・・』
大分感情を落ち着かせたミニョは、恥ずかしそうに笑いながらミナムと歩く事を楽しんでいた。
奪われたものが何であったのかそれさえも忘れてしまうほど、いつもの様子に戻ったミニョは、ミナムの差し出すお菓子を頬張りながら、ジェヒョンとテギョンの会話をミナムに聞かせていた。
『アッパと謁見したのならどっかの王族か!?』
『素性については、教えて頂けませんでした。ただ、アッパの様子が・・・』
『シヌヒョンも、旧知みたいだったな、叔父上が昔居た国か!?』
『え、でも、そこって・・・』
『ああ、確か無くなったんだよな・・・』
顔を見合わせたミナムとミニョは、双子特有なのか同じタイミングで頷き、左右を振り向き、また振り向いて額を突き合わせた。
『『無くなった国から来た!?』』
まるで幽霊でも見た様な顔をしたふたりは、また同じタイミングで、横を向いていた。
ザザザと風が葉擦れの音をさせて強く吹き抜けた。
『な、な、無い無いそんなのある訳ないって』
『ちゃ、ちゃんと生きてましたっ』
寒そうに互いに腕を伸ばしているミナムとミニョは、横を見たままゴクリと喉を鳴らした。
『なっ、オッパ、何でここっ!』
『え、いや、何となく歩いてたら・・・』
そこは、この城の北に位置している墓地で、季節に併せた植物が植えられた表庭とは違い、寂しさを紛らわせる為か背の低い常緑樹が敷き詰める様に植えられ、正面にある大きな入り口の向こうは真っ暗闇の洞窟になっていて、子供の頃、ふたりでそこに入った事のあるミナムとミニョは、一本道なのに中で迷子になった経験があり、あまり近づかない様にしていた場所だった。
話に夢中だったふたりは、石畳の通路を何気なく歩き、いつも曲がる筈の通路を曲がらず歩いてきてしまった事に漸く気づいていた。
『場所、場所のせいですよぉー』
『そっ、そうだな、こ、こんな話をする場所じゃない・・・なっ』
慌てて、ミニョの手を引いて戻ろうとしたミナムだが、ピタリと止まると後ろを振り返った。
『なっなぁ、何か聞こえた!?』
『やっ、や、オッパ、怖い事を言わないでくださいっ、もっ、戻りましょうよー』
泣き出しそうなミニョは、吹き抜ける風を髪に受け、耳を欹てていたミナムは、やっぱり聞こえると嫌がるミニョを引っ張って入り口に近づいて行ったのだった。
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