『なんだよっ』
ゲートに消えたふたりを見送ったミナムは、帰るぞと言って歩き出したテギョンを追いかけ、その顔を下から覗くともっと引き止めると思っていたと吐露した。
『別に・・・俺達の仕事の為なんだろう』
『こんな所まで来た割にあっさりしてるねぇ』
歩調を緩めたテギョンは、何かを気にする素振りで後ろを振り返った。
『もっと、大騒ぎにして欲しかったか!?』
『いやいや、十分騒ぎになってるし・・・もうSNSUPされてるよなぁ』
『そうだろうな・・・で、俺達が見送ったのが、誰か・・・だな』
『ん!?どういう事!?』
『お前、何でその服のチョイスなんだ!?』
『え!?そりゃぁ、何かあったら、ミニョと俺を間違えてくれたら良いなぁと思って』
スキャンダルが終息して間もない事もあり、A.N.Jellの周りが、静かになったとはいえ、ミナムの心配は、まだまだ尽きないという事で、ミニョとお揃いの服を着たミナムは、態度や雰囲気こそ違え、
遠目には見分けがつかなかった。
『ふ、やっぱりな・・・じゃぁ、最後まで付き合え』
『最後!?』
不敵に笑った口元に感応したミナムが、後退るよりも早く腕が肩を抱いた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!』
『声を出すな・・・出したら、お前の明日のノルマは、二十倍にしてやる』
肩を抱きながらも一定の距離を保ったテギョンの手がミナムの腹に押し付けられ、まるで武器で脅されてるようなミナムは、指一本分の隙間を見下ろした。
『スタッフが独りくっ付いて行っただけだ・・・お前には暫くミニョの振りをしてもらう』
『はぁー!?無理があるだろうっ!仕事はっ』
『黙れっ!俺には俺の都合があったのに邪魔をしやがって!』
『ってか、ヒョン、嫌でしょう!?俺となんて・・・』
『ミニョだと思って我慢もしてやる・・・』
『いやいや、俺が無理っだっからー!!!!』
ずるずると肩を抱かれたミナムは、そのまま駐車場へ引っ張られ、車に押し込められ、借りて来た事務所の車を置いてけぼりにするテギョンに散々文句を言っていたのだった。
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『ああ、空港に置いてあるそうだ・・・取りに行って来てくれ』
スタッフを呼びつけて、車を取りに行くよう指示したアン社長は、ソファに座るシヌにコーヒーカップを渡して、どうかと訊ねていた。
『ええ、別に構わないですよ・・・撮影期間は、二か月ですね』
『ああ、脚本は、まだらしいが、構成だけは、出来上がってるって事で、打診があった』
『パイロットですか』
『お前の『空を渡る』を使いたいそうだ・・・シングルを出してないから、そっちの話と同時に進めたい』
最新のアルバムに組み込まれたシヌのソロ曲の評判が良いと話しながら、アン社長は、テーブルのタブレットを手にするとヒットチャートのランキングをシヌに見せた。
『この勢いなら、テギョンが唄えなくなっても、大丈夫そうだな』
『!?何か心配でも』
軽い口調ながらも曇った表情にシヌが、怪訝な顔を向け、アン社長は、大げさに笑ったが、黙り込んだシヌに頭を掻いた。
『ああ、いや、リップシンクをあいつは嫌がるからな・・・ミナムが加入したから、ツインボーカルだし、負担は減らせと言っているんだが・・・』
歯切れの悪いアン社長は、シヌの視線から逃れる様にテーブルの上を片付け始め、話しは終わりだと告げたアン社長にシヌもそれ以上は聞かず、部屋を後にしたのだった。