『拗ねてるのは、ヒョンだろっ!』
『うるさいっ!お前が何とかしろと言ったんだろっ』
『そうだけど、あれじゃぁ、ヌナが悪者じゃん』
『悪者だろうっ!ミニョと一緒だなんて聞いてないっ』
『俺は聞いてたっ』
『俺がっ!聞いてないと言ってるんだっ』
全速力で搭乗ゲートに辿り着いたミナムとテギョンは、今まさにそこを潜ろうとしたミニョの肩を掴んだテギョンとミナムのふたりで縺れ、引き攣った顔のスタッフにソヨンとミニョが謝った。
『一週間だけですってば』
むっつり顔のミニョを壁際にソヨンとミナムがテギョンを囲んで、こそこそ話を始めた。
『一週間でも何でもお前は、俺達のスタッフでも何でもないんだから、一緒に行ったって役に立たないだろう!』
『役に立つか立たないかを決めるのは私なんだけど』
『たかが、一週間じゃん』
ミニョの肩を掴んでいるテギョンは、上目遣いのミニョの顔に一瞬怯んだ様子を見せたが、矢継ぎ早に口を挟むソヨンとミナムに口を閉ざして深呼吸をした。
『一週間だけです・・・』
『大体、何で、お前だよ、A.N.entertainmentのスタッフなんて他に幾らでもいるだろう』
呼吸を整えたテギョンは、左右を睨みつけた。
『ああ、もう、皇帝様は相当な偏屈だって聞いていたけど、ここまでとはね・・・・・・今から、断ろうかしら・・・』
テギョンと目のあったソヨンは、何を言っても無駄だとばかりに大きな溜息と共に携帯を取り出し、それを見たミニョは、慌ててソヨンにしがみ付いた。
『オンニ駄目ですっ!私っ頑張りますからっ!』
制止から抜け出したミニョをソヨンがしっかり抱き止めると拳を握ったテギョンは、それは出来ないと横で舌打ちをし、勝ち誇った顔のソヨンは、一呼吸置いた。
『出来ない理由は、お互いに有る様ね・・・まぁ、聞かないわ・・・』
聞かないのは、話せないと知っている、だから自分にも聞くなと匂わせたソヨンに眉を顰めたテギョンは、無言で頷いた。
『それで、何で、この娘が必要かって話だけど・・・あなたの事を知っている人が他にいないからよ、アレルギーはある、潔癖症・・・我儘・・・ガキね・・・ったく、A.N.Jellのメンバー以外で貴方の事を理解してる人って言ったら、数が限られてくるでしょう、それに今、現在、身軽で私と行動を共に出来る人っていったらミニョしかいなかったのよ』
『だから、それ・・・』
『事務所でスタッフも人選したんだけどさぁ・・・やっぱ、ヒョンの性格をいっちばん理解してる人が下見に着いて行く方が良いって』
悪態混じりの言葉に反論も出来ず、どうしてミニョなのかとミニョじゃなくても良いだろうというテギョンの言い分は、ミナムの強調された一番に阻まれ、言葉を詰まらせたテギョンは、二の句が告げずに唇を尖らせそっぽを向いた。
『ところでヒョンさぁ、ミニョがメールをしたの昨夜だけど、宿舎に戻ってないんだろ!?撮影所から直接来た訳!?』
思い出したとばかりにミナムが疑問を口にするとテギョンは、今更とばかりに憮然とした。
『ああ、ミニョの電話が繋がらなかったからな・・・今朝、宿舎に電話したらシヌが・・・』
『解った!手紙が置いてあると聞いて勘違いしたんだろっ』
何度も阻まれるテギョンは、指を突きつけたミナムの笑顔を苦痛に変えてほくそ笑み、握った指を更に倒してから離した。
『何て書いたの!?』
『痛・・・えっと、出かける事はメールをしたので、いない間の食事の事とか・・・』
痛みを訴えたミニョに怪訝な顔をしたテギョンは、指先を擦り始めたミニョの手をとった。
『ミニョちゃん俺達の家政婦さんだからねっ』
人差し指の付け根が痛いと訴えるミニョの手を擦りながら、お前が悪いとミナムを小突いたテギョンは、ミニョを胸に閉じ込め、人前だと慌てたミナムを一喝した。
『オッパが何もさせてくれないので・・・他にやることも無いし、お家の事をしているので・・・お掃除とか、お洗濯とか食事の支度とか・・・』
場所を気にして辺りを見ているミナムに構うなと言ったテギョンは、自分の立場も忘れたのかとミニョもソヨンも慌てたが、離れる気も離す気も無い態度にソヨンが口を開いた。
『呆れた・・・箱入りのお嫁さん状態ね』
『まだ嫁にはやらない』
『仕事が決まるまでお世話になっているだけです・・・』
ミナムの言葉に頷きかけたソヨンは、腕から逃れようとするミニョの態度に不満そうなテギョンを笑い、腕をあげて大げさなジェスチャーをしてみせた。
『俺と一緒に居たいと言え』
ミニョに触れて満足顔のテギョンに時計を見たソヨンが、呆れ顔で手招いた。
『ね、あなた、今からたった一週間も我慢出来ない様じゃ、来月の一か月予定の撮影どうするつもり!?』
『それはちゃんと考えてる』
テギョンに見える様に腕を曲げたミニョの時計を見たテギョンは、舌打ちをしたが、案外あっさり腕
を離し、それを見ていたミナムは、不思議な顔をした。
『まぁ、どうせ、一緒に連れて行くつもりだけど・・・やっと会えた恋人同士だから、一緒に居たい気持ちも解るけどね・・・』
ミニョの腕を引いて隣に立たせたソヨンは、テギョンに切々と語り始めたが、お客様と声を掛けられ、先程謝罪をした空港スタッフに微笑まれ、行かないのかと訊ねられた。
『っと、兎に角、時間も無いから、詳しい事はメールにしよう!折角ミナムが色々買ってくれたんだから使わない手は無い!さっ、行くわよミニョ』
『オオオオッパ!ちゃんと真っ直ぐ帰って来ますから!毎日メールしますっ!』
スーツケースとミニョを引きずったソヨンが搭乗ゲートに消えて行くのを黙って見送っていたテギョンとミナムだった。
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