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『えっ!?それで、ヒョンてば、ここに来てるの!?』
(ああ、お前達が出て行って、すぐだ)
『うっそ・・・何でバレるかなぁ・・・』
(バレるというか・・・ミニョが俺達宛てに手紙を置いて行ったんだ)
レストルームから、携帯を耳に充てて出て来たミナムは、視線の先にどことなく円になって遠巻きにしている人々を見つけ、顔を顰めると、頭を抱えて切るねと話を終えたが、息継ぐ間も無い着信に手を滑らせた。
『うっわわっ、っ危ねっ・・・』
二度三度、宙でお手玉をし、床すれすれでキャッチしたミナムは、ミニョからのメールを開いてすぐ行くと素早く返信をして立ち上がり、深い溜息と共に悠然と歩き出した。
『失礼します・・・失礼、通してください・・・』
遠巻きのまばらな円だと思って進んでいたミナムは、ミニョ達の居るベンチから二メートル程に出来た深い山をかき分ける破目になり、辿り着いた時には、肩で息をしていた。
『ちょ、ヌッナっ、何だよ・・・これっ・・・』
『何って・・・』
『いや、ヌナじゃない・・・ヒョンだ』
まるでそこにいないかの様に小声でソヨンに訊ねた筈のミナムは、サングラス越しに瞳を動かしたテギョンに近寄ると強引に腕を絡めた。
『なっ・・・』
慌てて外そうとしたテギョンだが、ミナムの意図を瞬時に理解し、後ろを気にして口を噤んだ。
『オンニ、出発まであとどれくらいかしら!?』
『え、そうね・・・三十分位かしら・・・』
『そう、じゃぁ、場所を変えない!?もう、行った方が良いと思うの』
トーンの高い声と棒読みの女言葉に併せたソヨンの苦笑に背中を震わせるテギョンは、ロボットの様に首を動かしながら横を睨みつけ不満たっぷり顔だ。
『おっ・・・』
『オッパも見送りに来てくれるなんて、一週間なんてあっという間、あっ、これ、わたしのね』
タンブラーを見たミナムは、テギョンの胸にそれを押し付け、スーツケースを手前に引き寄せながら、ミニョに小声で耳打ちをするとスクッと立ち上がったミニョが、キャップを目深に被りソヨンをヌナと呼んだ。
『え、ああ、そうね・・・行こう・・・搭乗時間ね』
時計を気にする素振りでスーツケースを手にミニョの手を握ったソヨンも棒読みでささっと歩き出し、慌てた様子で後を着いて行こうとしたテギョンは、強引に観衆側に振り向かされ、何とかしろと耳打ちをされた。
『え、あー、えっと、皆さん申し訳ないが、そろそろ遠慮して欲しい、彼女は次のA.N.Jellの写真集のカメラマンで、今、機嫌を損ねる訳にはいかなくて・・・』
営業用スマイルと咄嗟の機転で、さも、自分に非がある風を装うテギョンは、向こうを向いたままのミナムに覚えてろと耳打ちを返し、ざわっとした観衆に更なる笑顔を向けて、深々と頭を下げた。
『本当に申し訳ない・・・皆に喜んで貰う為の写真集だから、どうしても彼女の力が必要なんだ・・・このままじゃ、彼女の機嫌が・・・』
およそテギョンからは、出てこないであろう台詞は、苦しくも人前に曝されたソヨンが観衆のせいで拗ね、嗜めている自分を擁護してくれという風に聞かせていて、事情など全く知らない人々がその言葉に絆され、どこからともなく頑張ってくださいと聞こえ始めると満面の笑顔で顔をあげたテギョンは、ありがとうと言い残して、ミナムの肩を抱き、足早にミニョを追いかけて行ったのだった。
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