「何でだよ!」
「わかんないよ!」
「最後まで聞いて来いよ!」
「そんな事言ったって聞けなかったんだから!しょうがないじゃないか!!」
「役立たず!」
「なんだとー!!」
ふんとお互いに目を逸らして背中を向けた。
どちらも顔を背けたのにそれでもお互いを気にしてチラチラ視線だけを動かしては、後ろを見ている。
どちらが先に折れるのか、ジリジリ動く足は、同時に向き合った。
「「あの・・・」」
やっぱり同じタイミングで頭が下がった。
「「ゴメン」」
同時に小さな頭を下げ、同時に笑い、ふたつの額がコツンとぶつかっていた。
「やっぱり、一緒に聞きに行こうよ!」
「うん!一緒なら聞けるよね!」
手を繋いでスキップしながら歩き出した。
大きな扉の前で、顔を見合わせ、お互いの空いてる手を出し、両開きのドアの取っ手を掴むとコクンと頷きあってそれを押した。
広い広い会場のまだ誰もいない客席は、階段状に拡がる座席がステージまで伸びている。
そのステージの上で、ミナムがマイクの前に立って、時折、後ろの音を確認する様に耳に手を当ててリハーサルをしていた。
「アッパ、いつもと同じだよ・・・」
「うん・・・」
顔を見合わせた双子は、階段の一番上で止まったままどうするとまた顔を見合わせた。
「どうしようか!?」
「アッパに聞いてもちゃんと答えてくれない気がする」
ウォンがスヨンを見ながらそう言った。
「うん・・・どうでも良いとか言いそう・・・」
スヨンもウォンを見つめ返している。
「「アッパだもんなぁ・・・」」
同じ顔が、同じ様に声を出し、綺麗なハーモニーを作り出していた。
「なぁ、ミニョおばちゃんに聞いたら知らないかな・・・」
ウォンが首を傾げながら言った。
「おばちゃんかぁ・・・でもさぁ・・・」
ニヤリと笑うスヨンにウォンも笑い二つの頭が向き合った。
「「ボーッとしてるよなぁ」」
お互いに人差し指を突き出して見せ合い、どちらともなく笑いあって、次の瞬間真面目な顔をした。
「本当にどうする!?」
「リンが来てなかった!?」
スヨンがリンなら問題解決してくれると閃いたが、ウォンが呼び捨てに顔を顰めた。
「怒られるぞー」
スヨンの顔を通り越して遠くを見るウォンに怯えたスヨンは、キョロキョロ辺りを見回した。
「おっ、脅かすなよー」
「ヒョンなら、控室にいたよ」
「よしっ!ヒョンに聞きに行こうぜ!おばちゃんより知ってるよ!」
少し考え込んだウォンが頷くとスヨンと手を繋いでまた、扉を出て行った。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「全く、あのガキ共は、うろちょろと・・・何やってるんだ!?」
リハーサルをしながら扉から入ってきた我が子を見ていたミナムは、歌いながらじっとふたりを観察していた。
手を繋いだままミナムを見ていたかと思うと首を振ったり、頷いたり、忙しく同じ顔を突き合わせて扉を出て行った。
「ミナム!今日、ヘイssiは来ないの!?」
ドラムの調整をしていたジェルミが聞いた。
「ああ、ちょっと用事があって・・・」
「来ないなら、スヨンもウォンもお前が一日面倒を見るのか!?」
「そうなんだよー、ふたりとも逞しくて嫌になるぜ!ほんと・・・誰に似たんだろう!?」
抜け抜けとそんな事を言うミナムにジェルミもシヌも笑っている。
「お前以外に誰に似るんだよ!」
「さっき、あそこにいただろう!?」
客席の正面一番奥の扉を見たシヌが言った。
「そうなんだよ・・・俺の事見てたみたいなんだけど・・・何か変な事考えてそうなんだよな・・・」
「なんだそれ、親父の勘か!?」
腕を組んだミナムが考え込んでいるとステージ脇から顔を出したミニョが呼んだ。
「オッパ、ちょっと、時間良いですか!?」
「ああ、何!?」
「リンが、何かお話があるのですって、控室にいるから行ってくれます!?」
譜面を抱えたミニョは、リハーサルの合間に編曲をしているテギョンを手伝っている様で、言うだけ言って、すぐにどこかへ行ってしまった。
「ああ、判った」
ミナムは、ミニョに返事をしながら、シヌとジェルミに手を上げてリハーサルを抜け出した。
★★★★★☆☆☆★★★★★
控室に入ったミナムは、そこにいたスヨンとウォンを見ると顎を撫でながらリンに聞いた。
「まーた、変な事を考えているんだろう!?」
「あったりー!!」
可笑しそうに笑うリンに不満そうな双子がミナムに向き直った。
「つまんない事だけど、ふたりにとっては、相当重要らしいね!そら、お前達!教えてくれるからミナムヒョンにはっきり聞け!」
リンに頭に手を乗せられたスヨンとウォンは、顔を見合わせ、ミナムを見上げた。
「どうせ、ヘイの事だろう!?」
双子を見下ろすミナムは、驚いて顔を見合わせた双子の前にしゃがみこんだ。
「何で判るの!?」
「アッパ、凄い!!」
溜息を吐くミナムを双子は、目を輝かせてみている。
「で、今日は、何を聞いたんだ!?」
「あのね、さよならって言ったでしょう!?」
スヨンが、ミナムの右肩に手を乗せた。
「アッパ、捨てられちゃったの!?」
ウォンが、左肩に手を乗せている。
するとリンが、ふたりの後ろで笑い始めた。
「俺が捨てられるって事は、お前達も捨てられたって事か!?」
双子の腰を抱いたミナムは、ふたりを抱いて立ち上がった。
「えっ!?」
「そうなの!?」
「お前達の理屈だとそうだろう!?」
ニヤリと笑うミナムに泣きそうに顔を見合わせた双子だったが、首を振った。
「「違う」」
ミナムの肩を掴んでいた手で、ふたりで頬を挟んで叩いた。
「オンマが言ってたさよならって何!?」
「教えてよ!アッパ!」
「ミナムおじさん!早く本当の事教えてあげた方が良いよー」
ケラケラ笑っているリンは、もう可笑しくてたまらないと腹も抱えている。
「何だよリン!こんな時ばっかりおじさん呼ばわりかよー」
おどけるミナムは、双子を床に下ろし、真面目な顔で見下ろした。
「お前達が言ってるのは、俺とヘイが駐車場で別れた時の事だろう!?」
「うん!」
スヨンが大きく頷いた。
「ヘイは、さよならって俺に言ったんじゃなくて、さよならをしに行ったんだよ!」
「オンマ泣いてたよー」
「ああ、大事な人だからな!」
「大事な人!?」
「そう、昔、お前達のオンマがとてもお世話になった人だから」
「どうして!?」
「その人が、神様に召されたからだ」
「召されるって何!?」
「天に昇るって事だ」
「空の星になるって事だよ」
リンが答え、ミナムは、双子を抱き寄せた。
「地上では、もう会えないって事だ」
「その人に会いに行ったの!?」
「ああ」
「さよならっていう為に!?」
「そうだ!お別れは、ちゃんと顔を見て言わないとダメなんだぞ」
「「アッパに言ったんじゃないんだね」」
スヨンもウォンも安心した顔で、ミナムを見た。
「ああ、大体なぁ、ヘイが俺にそんな事言うなんてある訳ないだろう!」
「ミナムおじさん言いすぎー」
「何だよ、俺達の方が別れる可能性は低いぜ!」
「オンマとアッパが別れるなんてそれこそ、ぜーったい無いよっ!」
リンとミナムが睨み合いながら別な会話を始めた横で、にっこり微笑みあった双子は、顔を見合わせている。
「よかったな!」
「うん!アッパの事じゃなかったね!!」
「アッパが、さよならって言われたと思ってた」
「オンマも一杯泣いてたもんね」
「帰ってきたら笑ってくれるかなぁ」
「大丈夫だよ!アッパがいるもん」
「そうだね!じゃぁ!遊びに行こう!!」
「うん!!」
そう言った双子は、リンとミナムを残してまたどこかへと走って行ったとある日の出来事だった。