「いやなの!」
「何で!?」
「オンマには判んない!」
「行ってみなければ、リンだって判らないでしょう!?」
「そんな事無い!僕、知ってるもん!」
腰に手を当て俯くミニョと腕を組んで見上げるリンが、火花でも見えそうな程、睨みあっていた。
「なんで、そんなに我儘なの!」
「我儘じゃないもん!」
小さなリンの唇が尖り、上目遣いでミニョを見上げていた顔がフンと横を向いた。
「なっ・・・なんて態度・・・」
「絶対、絶対、行かないもん!」
横柄に頑固なリンに溜息を吐いたミニョは、その場に座り込んだ。
同じ高さでリンを見ている。
その顔をチラリと横目で見ているリンは、更に横を向いた。
「お願いだから行ってちょうだい・・・」
泣きそうな顔で訴えるミニョは、リンに土下座でもしそうな勢いだ。
「い・や・だ!」
ベーっと舌を出したリンの態度に業を煮やすミニョは、頬を膨らませた。
「ふふーん・・・そうですか・・・」
諦めたと溜息を吐きながら立ち上がった。
「行けないって事は、スタジオにも行かないって事ですね!」
リンに背中を向けたミニョは、忍び笑いを零している。
驚くリンは、ミニョの後ろで動揺し、トタトタ左右に行ったり来たりし始めた。
「じゃぁ、もう、良い事にしましょう!うん!」
笑い続けるミニョは、ダイニングへ向かおうと足を出したが、ドタドタ走ってきたリンが、ミニョに追突しながら手を引っ張った。
「ダメー!オンマ!行く―!!」
「行くのですか!?」
嬉しそうに振り返ったミニョを見上げるリンは、泣きそうな顔でうんうんと何度も頷いた。
「そうですか!じゃぁ、着替えて出掛けましょうね!」
「・・・う、うん」
渋々頷くリンは、ミニョに手を掴まれてクローゼットに向かった。
「大丈夫ですよ!すぐに済みますから!」
リンの高さまで屈んだミニョは、泣きそうな顔を抱きしめて頭を撫でていた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「えっと、次は・・・ファン・リン君」
「はい!」
返事をするミニョの腕の中で、胸に顔を埋めたままのリンは、ビクリと背中を震わせ顔を擦り付けていた。
見下ろすミニョは、笑みを浮かべて、白い制服の女性の後を着いて行った。
「さぁ、どうぞ」
年配の女性が、中へ促し、リンを抱いたまま椅子に座ったミニョは、挨拶をした。
「えっと、今日は、リン君の予防注射ですね」
女医の先生が、PCを見ながら声を掛けてきた。
「はい!よろしくお願いします!」
ミニョが元気に返事をしていると胸に顔を埋めたリンは、シャツの襟を引っ張った。
「ふふ、リン君は、苦手なのかな!?」
顔を上げないリンに女医が優しく声を掛けた。
「そ・・・」
そんな事は無いと顔をあげたリンは、目の前に準備されている器材を見つめ、顔を引き攣らせた。
「すぐに終わるわよー」
優しい声と裏腹に強引に腕を捲る女医は、さっさと消毒を始めている。
「いやっ!」
注射器を持つ手に顔を背け、腕も引こうとしたリンの耳にミニョが口を寄せた。
驚いた顔でミニョを見上げるリンは、針が当たる感覚も忘れている。
「本当!?」
「終わったわよ」
「えっ!?」
腕に貼られた小さな絆創膏を見たリンは、女医の顔をまじまじと見た。
「終わりなの!?」
チクリとした感覚も判らない程の時間で注射が終わっていた。
「ええ」
微笑む女医にリンも笑い返した。
「ありがとうございました」
安堵の顔で可愛らしくお礼を言ったリンにミニョも礼を言って診察室を後にした。
下に降りたリンは、ミニョと手を繋いで病院のロビーへ向かっている。
「ね、オンマ!本当!?」
「ええ、本当ですよ」
ミニョの囁きを確認するリンは、頷いたミニョに笑顔になった。
「やったー、早く帰る―」
怯えた感じをすっかり払拭してしまったリンは、いつもの調子でミニョの腕引いて歩いている。
「ふふ、もう少しだけ、待っててね」
支払いの為にロビーの椅子に座ったミニョは、リンを隣に座らせてクスクス笑い、そこへ丁度着信を知らせる携帯が鳴った。
「アッパですね!?」
ミニョが液晶を眺めているとすかさず携帯を取り上げたリンが、通話ボタンを押した。
「アッパ!?・・・うん、うん・・・・・・あのねー、びょういーん、じゃぁねー」
テギョンと話したリンは、電話を切ってしまい、ミニョは、リンに用事は何だったのかと聞いた。
「アッパね、お迎えに来るってー」
「そうですか」
バンザイをするリンの横で、携帯を仕舞ったミニョは、待合室を見回した。
今日は、とても混んでいて、支払いをする人の列も並んでいる為、少し時間がかかりそうだ。
近くにある雑誌を手にしたミニョは、パラパラ捲り始めた。
「アッパもそんなに早くは来れないでしょうからね!お支払いしたら、どこかでおやつにしましょうか!?」
雑誌の中の料理特集を見ながらミニョがそう言うとリンの目が輝いている。
「何でも良いの!?」
「何でも良いですよ」
椅子からはみ出す足をぷらぷらさせながら場所とお菓子を呟くリンをミニョは笑って雑誌に目を落とした。
暫く雑誌を読み耽り、リンの名前を呼ばれたミニョは、顔をあげた。
「リン、行きますよ!」
椅子からぴょんと飛び降りたリンは、ミニョの手を掴んで隣に並ぶ。
「えっと、ファン・リン君ですね」
受付の女性が、金額を確かめてミニョに告げようとした、その時、ミニョの顔を素通りした視線が、後方を見つめ、何度も瞬いて固まり、隣の女性に手を伸ばして、抱き合ってしまった。
「えっ!?嘘・・・本物!?」
「えっ、まさか・・・」
前に立つ女性達の行動に首を傾げるミニョは、あのーと言いかけて、後ろから聞こえた悲鳴に近い声に声をかき消され、驚いている。
「キャー!!!」
「うっそーっ!」
「ほんものだー!!!」
渦を巻く悲鳴に嫌な予感を抱えて振り返るミニョは、肩越しに病院の自動ドアを潜るテギョンを見つけ、何だか怖い顔で辺りを見ている顔にバッとその場に蹲った。
同じ目線のリンが、きょとんとミニョを見てシャツを引っ張っている。
「オンマー!?どうしたの!?」
リンを見たミニョは、引き攣る頬を抑えながらリンに聞いた。
「リン・・・オンマとっても嫌な予感がするのですが・・・アッパに何て言われました!?」
引き攣る頬で笑いながらリンの髪を撫でた。
「どこにいるんだって言ってたよ!」
ミニョが溜息を吐いた瞬間。
「おいっ!!!」
蹲るミニョの前にテギョンが立っていた。
「アッパ!」
「大丈夫かっ!!」
ミニョの体のあちこちに触れ、片膝をついたテギョンは、顔を覗き込んだ。
それを見ている周りのギャラリーからまた悲鳴があがった。
「おいっ!ミニョ、大丈夫なのか!?何があったんだ!」
ミニョしか目に入っていないテギョンは、あちこち触りながら確認する。
ギャラリーの悲鳴は、更に大きくなり、誰とか奥さんとかそんな声も聞こえ始め、床に手を付いたミニョは、当たった予感にテギョンを見上げてボソリと呟いた。
「リンに騙されたのです」
「は!?」
「何もありません!リンの予防注射に来ただけです!」
首を傾げるテギョンにリンがにっこり微笑んでいた。
それを見るテギョンの瞳は、ギロリと動いてリンを睨むとミニョに手を差し出して立たせた。
「ふん・・・そうか」
何事も無かったのかと安堵しながらテギョンはリンを抱き上げた。
顔を覆ったミニョは、背筋を伸ばして受付に立ち、先程の女性に微笑みかけた。
「おいくらですか!?」
未だ隣の女性と抱き合ったままの女性は、リンを抱くテギョンを見て、慌てながらも金額を教えてくれた。
「お世話様でした!」
頭を下げるミニョの前で祈るポーズの女性は、こちらこそとテギョンを見つめながら言った。
その姿に首を振ったミニョは、溜息交じりに勢いよく振り返りテギョンに腕を絡めた。
「オッパ、帰ります!」
リンを抱くテギョンを引っ張って、ロビーを抜けるまで黄色い歓声を浴び続けながら急ぎ足で病院を後にした。
広い駐車場へ出て、やっと一息つくミニョは、それでもぶつぶつ文句を並べながらテギョンの先を行く。
「まったく、もう少し自覚をしていただかないと目立つのですから!!」
ズンズン歩くミニョをゆっくり追いかけているテギョンは、知れっと聞き流している。
「ふん!お前に何事も無くて良かった!」
優しく響く低音がミニョの周りを包み、立ち止まったミニョは、振り返った。
「心配・・・してくださったのですよね・・・すみませんでした」
素直な頭が下がった。
それを黙って見ていたテギョンは、ふっと笑いリンを見ている。
「お前が一番悪いぞ!」
「アッパが帰って来ないとダメなのー!」
テギョンの首を絞めるリンは、ニヤリと笑い、テギョンの目が細くなった。
「何の事だ!?」
「まだ、ないしょー」
リンに不思議な顔を向けたテギョンは、上目遣いでチラチラ見上げているミニョを見た。
「あは、ちょっと、交換条件を・・・」
困った顔で、あははと乾いた笑いを零した。
「おっ、前、また・・・」
呆れるテギョンに逃げようとしたミニョは、振り返った先に見慣れたワゴンを見つけた。
「あれ!?オッパ、仕事中ですか!?」
酷く驚いた顔で、また振り返ったミニョは、オタオタテギョンに駆け寄り、そのワゴンのドアが開く音を聞いた。
「ミーニョー!」
両手を広げたジェルミが、前に出てこようとして誰かに肩を掴まれシートに連れ戻されている。
「痛っ、痛いよーヒョン!酷いよー」
「ふっ、出ない方が好い!テギョンが睨んでるぞ」
「えっ!?わっ、嘘っ!違う違う!もうしない!」
慌てるジェルミは、一生懸命テギョンに否定の意を表し手を振っている。
「ジェルミ!シヌオッパ!・・・オッパもいるのですよね」
「ああ、いるぜ!」
手を上げたミナムが、顔も出した。
「仕事の途中ですか!?」
テギョンから離れたミニョは、3人に聞いた。
「いーや、事務所に戻る途中」
「やっぱり、ヒョンの勘違いだったんだ」
「うるさいな」
ミニョを押しやりながら車に乗せたテギョンは、自分も乗り込んで運転手に声を掛けた。
「すまなかった!事務所に戻ってくれ!」
事務所へ向かう車中、回り道で病院に駆け付けた事を聞かされるミニョは、恐縮しっ放しで、憮然としているテギョンの腕の中で、交換条件に喜び楽しそうなリンに何があったのかを聞くA.N.Jellは、賑やかな会話を続け、テギョンを揄いながら戻って行ったとある日の出来事だった。
「何で!?」
「オンマには判んない!」
「行ってみなければ、リンだって判らないでしょう!?」
「そんな事無い!僕、知ってるもん!」
腰に手を当て俯くミニョと腕を組んで見上げるリンが、火花でも見えそうな程、睨みあっていた。
「なんで、そんなに我儘なの!」
「我儘じゃないもん!」
小さなリンの唇が尖り、上目遣いでミニョを見上げていた顔がフンと横を向いた。
「なっ・・・なんて態度・・・」
「絶対、絶対、行かないもん!」
横柄に頑固なリンに溜息を吐いたミニョは、その場に座り込んだ。
同じ高さでリンを見ている。
その顔をチラリと横目で見ているリンは、更に横を向いた。
「お願いだから行ってちょうだい・・・」
泣きそうな顔で訴えるミニョは、リンに土下座でもしそうな勢いだ。
「い・や・だ!」
ベーっと舌を出したリンの態度に業を煮やすミニョは、頬を膨らませた。
「ふふーん・・・そうですか・・・」
諦めたと溜息を吐きながら立ち上がった。
「行けないって事は、スタジオにも行かないって事ですね!」
リンに背中を向けたミニョは、忍び笑いを零している。
驚くリンは、ミニョの後ろで動揺し、トタトタ左右に行ったり来たりし始めた。
「じゃぁ、もう、良い事にしましょう!うん!」
笑い続けるミニョは、ダイニングへ向かおうと足を出したが、ドタドタ走ってきたリンが、ミニョに追突しながら手を引っ張った。
「ダメー!オンマ!行く―!!」
「行くのですか!?」
嬉しそうに振り返ったミニョを見上げるリンは、泣きそうな顔でうんうんと何度も頷いた。
「そうですか!じゃぁ、着替えて出掛けましょうね!」
「・・・う、うん」
渋々頷くリンは、ミニョに手を掴まれてクローゼットに向かった。
「大丈夫ですよ!すぐに済みますから!」
リンの高さまで屈んだミニョは、泣きそうな顔を抱きしめて頭を撫でていた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「えっと、次は・・・ファン・リン君」
「はい!」
返事をするミニョの腕の中で、胸に顔を埋めたままのリンは、ビクリと背中を震わせ顔を擦り付けていた。
見下ろすミニョは、笑みを浮かべて、白い制服の女性の後を着いて行った。
「さぁ、どうぞ」
年配の女性が、中へ促し、リンを抱いたまま椅子に座ったミニョは、挨拶をした。
「えっと、今日は、リン君の予防注射ですね」
女医の先生が、PCを見ながら声を掛けてきた。
「はい!よろしくお願いします!」
ミニョが元気に返事をしていると胸に顔を埋めたリンは、シャツの襟を引っ張った。
「ふふ、リン君は、苦手なのかな!?」
顔を上げないリンに女医が優しく声を掛けた。
「そ・・・」
そんな事は無いと顔をあげたリンは、目の前に準備されている器材を見つめ、顔を引き攣らせた。
「すぐに終わるわよー」
優しい声と裏腹に強引に腕を捲る女医は、さっさと消毒を始めている。
「いやっ!」
注射器を持つ手に顔を背け、腕も引こうとしたリンの耳にミニョが口を寄せた。
驚いた顔でミニョを見上げるリンは、針が当たる感覚も忘れている。
「本当!?」
「終わったわよ」
「えっ!?」
腕に貼られた小さな絆創膏を見たリンは、女医の顔をまじまじと見た。
「終わりなの!?」
チクリとした感覚も判らない程の時間で注射が終わっていた。
「ええ」
微笑む女医にリンも笑い返した。
「ありがとうございました」
安堵の顔で可愛らしくお礼を言ったリンにミニョも礼を言って診察室を後にした。
下に降りたリンは、ミニョと手を繋いで病院のロビーへ向かっている。
「ね、オンマ!本当!?」
「ええ、本当ですよ」
ミニョの囁きを確認するリンは、頷いたミニョに笑顔になった。
「やったー、早く帰る―」
怯えた感じをすっかり払拭してしまったリンは、いつもの調子でミニョの腕引いて歩いている。
「ふふ、もう少しだけ、待っててね」
支払いの為にロビーの椅子に座ったミニョは、リンを隣に座らせてクスクス笑い、そこへ丁度着信を知らせる携帯が鳴った。
「アッパですね!?」
ミニョが液晶を眺めているとすかさず携帯を取り上げたリンが、通話ボタンを押した。
「アッパ!?・・・うん、うん・・・・・・あのねー、びょういーん、じゃぁねー」
テギョンと話したリンは、電話を切ってしまい、ミニョは、リンに用事は何だったのかと聞いた。
「アッパね、お迎えに来るってー」
「そうですか」
バンザイをするリンの横で、携帯を仕舞ったミニョは、待合室を見回した。
今日は、とても混んでいて、支払いをする人の列も並んでいる為、少し時間がかかりそうだ。
近くにある雑誌を手にしたミニョは、パラパラ捲り始めた。
「アッパもそんなに早くは来れないでしょうからね!お支払いしたら、どこかでおやつにしましょうか!?」
雑誌の中の料理特集を見ながらミニョがそう言うとリンの目が輝いている。
「何でも良いの!?」
「何でも良いですよ」
椅子からはみ出す足をぷらぷらさせながら場所とお菓子を呟くリンをミニョは笑って雑誌に目を落とした。
暫く雑誌を読み耽り、リンの名前を呼ばれたミニョは、顔をあげた。
「リン、行きますよ!」
椅子からぴょんと飛び降りたリンは、ミニョの手を掴んで隣に並ぶ。
「えっと、ファン・リン君ですね」
受付の女性が、金額を確かめてミニョに告げようとした、その時、ミニョの顔を素通りした視線が、後方を見つめ、何度も瞬いて固まり、隣の女性に手を伸ばして、抱き合ってしまった。
「えっ!?嘘・・・本物!?」
「えっ、まさか・・・」
前に立つ女性達の行動に首を傾げるミニョは、あのーと言いかけて、後ろから聞こえた悲鳴に近い声に声をかき消され、驚いている。
「キャー!!!」
「うっそーっ!」
「ほんものだー!!!」
渦を巻く悲鳴に嫌な予感を抱えて振り返るミニョは、肩越しに病院の自動ドアを潜るテギョンを見つけ、何だか怖い顔で辺りを見ている顔にバッとその場に蹲った。
同じ目線のリンが、きょとんとミニョを見てシャツを引っ張っている。
「オンマー!?どうしたの!?」
リンを見たミニョは、引き攣る頬を抑えながらリンに聞いた。
「リン・・・オンマとっても嫌な予感がするのですが・・・アッパに何て言われました!?」
引き攣る頬で笑いながらリンの髪を撫でた。
「どこにいるんだって言ってたよ!」
ミニョが溜息を吐いた瞬間。
「おいっ!!!」
蹲るミニョの前にテギョンが立っていた。
「アッパ!」
「大丈夫かっ!!」
ミニョの体のあちこちに触れ、片膝をついたテギョンは、顔を覗き込んだ。
それを見ている周りのギャラリーからまた悲鳴があがった。
「おいっ!ミニョ、大丈夫なのか!?何があったんだ!」
ミニョしか目に入っていないテギョンは、あちこち触りながら確認する。
ギャラリーの悲鳴は、更に大きくなり、誰とか奥さんとかそんな声も聞こえ始め、床に手を付いたミニョは、当たった予感にテギョンを見上げてボソリと呟いた。
「リンに騙されたのです」
「は!?」
「何もありません!リンの予防注射に来ただけです!」
首を傾げるテギョンにリンがにっこり微笑んでいた。
それを見るテギョンの瞳は、ギロリと動いてリンを睨むとミニョに手を差し出して立たせた。
「ふん・・・そうか」
何事も無かったのかと安堵しながらテギョンはリンを抱き上げた。
顔を覆ったミニョは、背筋を伸ばして受付に立ち、先程の女性に微笑みかけた。
「おいくらですか!?」
未だ隣の女性と抱き合ったままの女性は、リンを抱くテギョンを見て、慌てながらも金額を教えてくれた。
「お世話様でした!」
頭を下げるミニョの前で祈るポーズの女性は、こちらこそとテギョンを見つめながら言った。
その姿に首を振ったミニョは、溜息交じりに勢いよく振り返りテギョンに腕を絡めた。
「オッパ、帰ります!」
リンを抱くテギョンを引っ張って、ロビーを抜けるまで黄色い歓声を浴び続けながら急ぎ足で病院を後にした。
広い駐車場へ出て、やっと一息つくミニョは、それでもぶつぶつ文句を並べながらテギョンの先を行く。
「まったく、もう少し自覚をしていただかないと目立つのですから!!」
ズンズン歩くミニョをゆっくり追いかけているテギョンは、知れっと聞き流している。
「ふん!お前に何事も無くて良かった!」
優しく響く低音がミニョの周りを包み、立ち止まったミニョは、振り返った。
「心配・・・してくださったのですよね・・・すみませんでした」
素直な頭が下がった。
それを黙って見ていたテギョンは、ふっと笑いリンを見ている。
「お前が一番悪いぞ!」
「アッパが帰って来ないとダメなのー!」
テギョンの首を絞めるリンは、ニヤリと笑い、テギョンの目が細くなった。
「何の事だ!?」
「まだ、ないしょー」
リンに不思議な顔を向けたテギョンは、上目遣いでチラチラ見上げているミニョを見た。
「あは、ちょっと、交換条件を・・・」
困った顔で、あははと乾いた笑いを零した。
「おっ、前、また・・・」
呆れるテギョンに逃げようとしたミニョは、振り返った先に見慣れたワゴンを見つけた。
「あれ!?オッパ、仕事中ですか!?」
酷く驚いた顔で、また振り返ったミニョは、オタオタテギョンに駆け寄り、そのワゴンのドアが開く音を聞いた。
「ミーニョー!」
両手を広げたジェルミが、前に出てこようとして誰かに肩を掴まれシートに連れ戻されている。
「痛っ、痛いよーヒョン!酷いよー」
「ふっ、出ない方が好い!テギョンが睨んでるぞ」
「えっ!?わっ、嘘っ!違う違う!もうしない!」
慌てるジェルミは、一生懸命テギョンに否定の意を表し手を振っている。
「ジェルミ!シヌオッパ!・・・オッパもいるのですよね」
「ああ、いるぜ!」
手を上げたミナムが、顔も出した。
「仕事の途中ですか!?」
テギョンから離れたミニョは、3人に聞いた。
「いーや、事務所に戻る途中」
「やっぱり、ヒョンの勘違いだったんだ」
「うるさいな」
ミニョを押しやりながら車に乗せたテギョンは、自分も乗り込んで運転手に声を掛けた。
「すまなかった!事務所に戻ってくれ!」
事務所へ向かう車中、回り道で病院に駆け付けた事を聞かされるミニョは、恐縮しっ放しで、憮然としているテギョンの腕の中で、交換条件に喜び楽しそうなリンに何があったのかを聞くA.N.Jellは、賑やかな会話を続け、テギョンを揄いながら戻って行ったとある日の出来事だった。