最上階のスイートルームへ呼び出されたミニョは、鍵を開けてくれたベルボーイからカードキーを受け取って部屋へ入って行った。
テギョンが定宿としているホテル。
最近は、以前ほど使用することも無くなっていたが、それでも仕事の状況次第で、泊まることもあるからと変わらず契約を続けていた。
ここ数日も家に帰れていないテギョンは、ここを使っている筈だ。
けれど、最上階は、特別な何かがなければ、滅多に足を踏み入れる場所ではない。
「リンを置いて来いって・・・モノじゃないんですけどね」
カードキーを玩ぶミニョは、広い室内を見渡しながら窓辺へ歩み寄った。
「昨日の内に言ってくれれば好いのに・・・」
ソウルの街並みを一望出来るようなそんな窓辺で、まだ明るい外を見下ろした。
昼間、突然掛かってきたテギョンの電話は、どこか屋外での撮影らしく、向こう側から車の音とそれを止めている人の声が混じって聞こえ、次に行きますという人の声に言いたいことだけ言ったテギョンは、ミニョの返事を聞く間も無く、早々に電話を切ってしまった。
携帯を握り締めて茫然と見つめたミニョは、首を傾げるしかなくて、かといって無視しても後で何を言われるだろうと考えた頭が即座に行動を起こしていた。
唯でさえ疲れているのに更に不機嫌になるのは目に見えたので、慌ててリンを預ける為の通話ボタンを押していた。
リンを連れて預けに行った先で、アレコレ聞かれたけれど、訳が解っていないミニョに答えられる筈も無く、呆れ顔をされた。
「リンを連れて来るなってどういう事よ!?」
「解りません・・・オッパに聞く前に切られてしまって・・・」
「ばかねー、折り返せば良いじゃない」
「それは・・・」
仕事中だと口籠るミニョにリンを抱いたヘイは、床に下ろして奥に行く様促した。
「テギョンの仕事の邪魔になるとかって思ってんでしょう!?」
「はぁ・・・」
「あんたの悪い癖よ、それ!だから、あいつが好い気になるんじゃないの!」
「はぁ・・・」
「まぁ、良いわ!家は、リンが来てくれると助かるのよ!チビ達の相手してくれるし!あの子がいると寝つきも良いのよね!」
「ありがとうございます!じゃぁ、よろしくお願いします!」
そんな会話をしてヘイの処にリンを預けてきた。
「はぁあ、本当に思い当たらない・・・何があるのかしら!?」
ミニョは、この部屋に呼び出される理由を考えているが、一向に思い当たることが無かった。
「特別な事!?何でしょうか!?」
溜息を吐きながら考えるミニョは、出窓に座って膝を抱えた。
暫くそうやって、考え事をしていたミニョは、通りを見下ろしながら、部屋に響いた来客を告げるベルに顔をあげた。
「!?オッパでは・・・ないですよね・・・」
テギョンの電話の感じと場所の関係からそんなに早く来れる筈が無いと判断していたミニョは、ドアヘ向かい、小さな窓から廊下を確認した。
ホテルの制服を着た男性が立っていて、ドアを開けたミニョに頭を下げてくる。
「コ・ミニョssiですね」
「はい・・・」
「お届け物をお預かりいたしましたので、お受取りください」
ベルボーイは、幾つかの箱と袋を持っていた。
「私にですか!?」
「はい」
「誰から!?」
伝票を取り出したベルボーイが名前を読み上げた。
「コ・ミナムssi、カン・シヌssi、ジェルミssiとなっております」
「えっ!?」
驚くミニョは、口をポカンと開けたが、すぐに気を取り直してボーイを部屋に促した。
「あっ、すみません!中に入れてください!」
「畏まりました!」
ベルボーイから荷物を受け取ったミニョは、テーブルに並べて腕を組みまた考え込んだ。
「オッパ達から!?何でしょうか!?開けても・・・良いですよね・・・」
ひとつひとつ包みを開ける。
一番大きな箱を開けると中から白い紙に包まれリボンのついたピンクの服が出てきた。
「うわーっ!かわいい!!」
箱から持ち上げ、顔の前に翳すと間からひらひら白い物が落ちた。
「うん!?何でしょう!?」
ピンクのワンピースを箱に戻したミニョは、紙を拾い上げた。
────『ミニョへ これを受け取っているという事は、俺達の考えが当たっていると思う!
この数日、テギョンは、全く家に帰れていないだろう!?』────
シヌからの手紙だ。
────『それが原因かどうかは解らないけど、ヒョン、何となく元気が無いんだ!』────
「はぁ!?どういうことですか!?」
────『だから、ヒョンの事元気にして欲しくて、俺達からミニョへのプレゼント!』────
「元気そうでしたけど」
────『ちょっと小耳に挟んだだけだから、本当に決行するのかは、俺達にも解らないけど、これを受け取ったって事は、やると思うから!!』────
「やるって何を!?」
────『深いこと考えなくて良いから!これ着てヒョンを待ってろよ!』────
3人の寄せ書きをその辺のメモに書いたようで、最後の数行は、ミナムの字だ。
「オッパが、何かするって事ですよね!?」
腕を組むミニョは、首を捻って唸っていたが、テーブに手紙を置いた。
「なんだか良く判りませんが、これは、貰っても良いって事ですね!」
もう一度ピンクのワンピースを持ち上げて微笑んだ。
「とても可愛いです!誰が選んでくれたのでしょう!?」
暫く眺めて、袋の中の小さな箱を取り出した。
「こっちは!?」
蓋を開けるとワンピースとコーディネイトされたピンクの靴が入っていた。
「わっ、こっちも可愛い!」
じゃぁ、これと次々箱を開け、袋を横倒しにしたミニョは、複数のアクセサリーを手に取った。
「わぁ、星の形もある!私の好きな物ばかり!」
ミニョの好みは、イコールテギョンの趣味に合うものだ。
3人でテギョンに合わせて選んだとしか考えられない小物が沢山入っていた。
自然、口角をあげてニヤけているミニョは、一通り中身を確認して口元を覆った。
「着替えて待ってろって書いてありましたし・・・着替えようかなぁ」
にんまり笑って箱を持ってバスルームへ向かった。
新しい物を身に着ける為に体も綺麗にと思ったミニョは、服を取り去ってしまうとはしゃぐ様にシャワーの下に駈け込んでいた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「チッ、少し、遅くなったか・・・」
腕時計を見ながら、エレベーターを待っているテギョンは、早くしろとイライラしていた。
やっと来たエレベーターに乗り込み、ガラス張りの箱の中から外を見下ろす。
すっかり、暗くなった通りを流れる車のライトが作る光の洪水を見つめていた。
僅かな時間で、最上階に到着したテギョンは、深呼吸をしてツカツカ歩き出した。
ポケットからフロントで受け取ったカードキーを取り出し、スイートルームの前に立った。
少し離れた廊下の端には、テギョンの到着を待っていたかの様にウェイターが、夕食を乗せたワゴンを押して頭を下げていた。
キーを翳したテギョンは、ドアを開け放し、ウェイターを招き入れた。
「オッパ!」
短い返事をして振り返ったテギョンは、ミニョを2度見して、一瞬固まり、けれどウェイターの言葉に
そちらを優先した。
「ああ、テーブルに置いてくれ」
「畏まりました」
テーブルセッティングをするウェイターを見ながら、横に立ったミニョをチラッと見たテギョンは、戸惑っていた。
「では、失礼いたします」
礼を言ってウェイターを送り出し、扉が閉まるのを待ったテギョンは、ミニョに向き直った。
「なっんで、そんな格好なんだ!?」
テギョンの前に立つミニョは、おかしいかと聞いている。
「あ・・・いや・・・そうじゃなくてだな・・・」
「オッパ達に頂いたのです!」
嬉しそうに答えるミニョに戸惑い続けているテギョンは、首を傾げた。
「ミナム達!?」
「はい!何か・・・オッパの元気がないと言ってましたけど・・・」
そんな風には見えないとミニョも首を傾げた。
「チッ!あいつら、余計な事を・・・」
唇を尖らせたテギョンは、むにむに動かして目尻も細くした。
「あのー、オッパ!?今日って何かありましたか!?」
ずーっと考え続けている疑問をミニョが、口にした。
「いいや、何も無いぞ」
「えっ!だったら、何でリンを置いて来いなんて!」
むっとするミニョをチラッと見たテギョンは、視線を逸らした。
「オッパ!何故ですか!?」
逸らされた視線に益々むっとしたミニョは、テギョンの視線を追いかけて前に立った。
「いっ、良いだろう!ヘイが預かってくれたんだろう!」
「そうですけど」
「あいつも遊び相手がいて、こっちより楽しいだろう」
「それは、確かに喜んでいましたけど・・・」
「そうだろう!だったら気にするな!」
「そういう事ではなくてですね!」
納得できないとばかりにテギョンに詰め寄るミニョに押されて、ジリジリ下がるテギョンは、壁際まで追い詰められた。
にこっと笑ったミニョは、テギョンの両手を掴んでいる。
「逃げ場がありませんね!オッパ!」
にこにこ勝ち誇った顔で見上げるミニョを面白くなさそうに見下ろしたテギョンは、しかし次の瞬間ニヤリと笑って、ミニョの手を掴み捻る様に捻じ曲げながら引っ張り体制を入れ替えた。
壁に押し付けられる格好になったミニョは、オドオドしながらテギョンを見上げた。
「オッ・・・オッパ・・・」
「よくもやってくれたな!」
ニヤニヤ笑うテギョンは、ミニョの顔を覗きながらジリジリ壁に追い込んでいく。
「ま・・・まだ!何もしてません!!」
焦るミニョは、踵を上げ、爪先立ちで両手を壁に付け目一杯体を細めている。
テギョンの爪先とミニョの爪先と触れ合った瞬間俯いたミニョは、鼻で笑ったテギョンの頬に触れた唇に慌てて顔をあげた。
「オ・・・ッパ!?」
優しい風を起こしたテギョンが、ミニョの両腕を掴み、背中を向けた。
「あー、もう!お前とふたりが良かったんだよ!」
向こうを向いているテギョンに首を曲げるミニョは、きょとんとした。
「へっ!?」
間抜けな声を出したミニョは、またテギョンに覗かれている。
「リンがいたら、お前は、あいつの世話で俺の事二の次だろう!?」
不満そうなテギョンは、壁に手をついてミニョの顔を至近距離で見つめまた背中を向けた。
「家に帰ってもな!あいつがいるんじゃお前といても落ち着かない!」
「えっ、えーと・・・あー・・・」
上目遣いでテギョンの背中を見ているミニョは、口元を隠して笑いを堪え、肩を震わせた。
「だから、ここにしたんじゃないか!」
不機嫌を表すテギョンは、尖らせた唇を動かした。
「久しぶりのOFFをもぎ取れたのにあいつに邪魔されるなら、家じゃダメなんだよ!」
「ふーん!そうなのですかぁ!」
いつの間にかテギョンに近づいていたミニョは、腰に回した腕をキュッと締めた。
肩越しに振り返るテギョンは、ミニョの頭を見つめている。
「ふふ、それって、私に会いたかったって事ですね!?」
テギョンの背中にくっつくミニョは、ぎゅーっと腰を締め付け、前を向いたテギョンは、天井を見上げながら口角をあげて、目元を緩めた。
「ああ、そうだ!」
にやにやにこにこ、ふふふと背中で笑うミニョに肩を竦めたテギョンは、腰に回る腕を解きながら向きを変えた。
「そんなにわたしの事が好きですか!?」
にこっと笑ったミニョが、テギョンを見上げた。
「生意気だぞ!」
「ん、リンより子供っぽいと思いますけど!?」
「何だと!」
「ふふ、そんな所も大好きですよ」
ふっと緩み傾くテギョンの顔にミニョが瞼を閉じた。
開いた瞳に赤くなるテギョンは、プイと横を向いてしまった。
「そんなの解りきっている事だ!」
いつもの余裕が少し崩れているテギョンは、ミニョの肩を抱いた。
「あは、まぁ、リンの事は、解りました!それより・・・」
テーブルに並ぶ料理を見回したミニョは、両手を併せて美味しそうだとテギョンを見た。
「ふん・・・どっちが子供だ!」
ミニョのご機嫌な様子に目を細めるテギョンは、椅子を引いてミニョを座らせた。
ふわりとしたスカートの裾を持ち上げミニョが腰を下ろす。
「じゃぁ、食うか」
「はい!」
向かいに座るテギョンは、ワインの蓋を開けながら、改めてミニョを見ている。
「何で、そんな物をくれたんだ!?」
「さぁ、オッパが元気になる様にって事らしいですけど・・・」
ミニョは、早速ナイフとフォークを持ち上げて料理を口に運んでいる。
「あいつらって、本当に何を考えるか解らないんだよな・・・」
「オッパのお仕事が上手くいって無かったんじゃないですか!?」
ワインを注ぎながら考えるテギョンは、思い当たった顔をした。
「アレのことか・・・」
「アレ!?」
「一曲どうしてもラストを決められない曲があってな」
「珍しいですね」
「ああ、だけど、それが、俺が書いたんじゃなくてリンのだったんだ」
「は!?」
驚くミニョだが、しっかり口は動き、テギョンは、ワインを口に運んだ。
「リンが、俺の譜面の中に自分のを混ぜていたんだ」
「えっ!?」
「いや、何となく違和感はあった・・・けど、いつ書いたのか解らない曲もたまにはあるからな」
テギョンは、クスクス笑った。
「やっぱり、俺の子だよな!」
嬉しそうに笑うテギョンは、水の入ったグラスを手に取った。
「そうですね!きっと今もオッパの家でピアノを弾いてる頃ですね!」
「そうだな」
ふたりきりの時間を楽しむ筈のテギョンの計画。
けれど話題の中心は、やっぱり、ファン・リンで、食事をしながらテギョンがそれに気づくのは、もう少し後のお話。
テギョンが定宿としているホテル。
最近は、以前ほど使用することも無くなっていたが、それでも仕事の状況次第で、泊まることもあるからと変わらず契約を続けていた。
ここ数日も家に帰れていないテギョンは、ここを使っている筈だ。
けれど、最上階は、特別な何かがなければ、滅多に足を踏み入れる場所ではない。
「リンを置いて来いって・・・モノじゃないんですけどね」
カードキーを玩ぶミニョは、広い室内を見渡しながら窓辺へ歩み寄った。
「昨日の内に言ってくれれば好いのに・・・」
ソウルの街並みを一望出来るようなそんな窓辺で、まだ明るい外を見下ろした。
昼間、突然掛かってきたテギョンの電話は、どこか屋外での撮影らしく、向こう側から車の音とそれを止めている人の声が混じって聞こえ、次に行きますという人の声に言いたいことだけ言ったテギョンは、ミニョの返事を聞く間も無く、早々に電話を切ってしまった。
携帯を握り締めて茫然と見つめたミニョは、首を傾げるしかなくて、かといって無視しても後で何を言われるだろうと考えた頭が即座に行動を起こしていた。
唯でさえ疲れているのに更に不機嫌になるのは目に見えたので、慌ててリンを預ける為の通話ボタンを押していた。
リンを連れて預けに行った先で、アレコレ聞かれたけれど、訳が解っていないミニョに答えられる筈も無く、呆れ顔をされた。
「リンを連れて来るなってどういう事よ!?」
「解りません・・・オッパに聞く前に切られてしまって・・・」
「ばかねー、折り返せば良いじゃない」
「それは・・・」
仕事中だと口籠るミニョにリンを抱いたヘイは、床に下ろして奥に行く様促した。
「テギョンの仕事の邪魔になるとかって思ってんでしょう!?」
「はぁ・・・」
「あんたの悪い癖よ、それ!だから、あいつが好い気になるんじゃないの!」
「はぁ・・・」
「まぁ、良いわ!家は、リンが来てくれると助かるのよ!チビ達の相手してくれるし!あの子がいると寝つきも良いのよね!」
「ありがとうございます!じゃぁ、よろしくお願いします!」
そんな会話をしてヘイの処にリンを預けてきた。
「はぁあ、本当に思い当たらない・・・何があるのかしら!?」
ミニョは、この部屋に呼び出される理由を考えているが、一向に思い当たることが無かった。
「特別な事!?何でしょうか!?」
溜息を吐きながら考えるミニョは、出窓に座って膝を抱えた。
暫くそうやって、考え事をしていたミニョは、通りを見下ろしながら、部屋に響いた来客を告げるベルに顔をあげた。
「!?オッパでは・・・ないですよね・・・」
テギョンの電話の感じと場所の関係からそんなに早く来れる筈が無いと判断していたミニョは、ドアヘ向かい、小さな窓から廊下を確認した。
ホテルの制服を着た男性が立っていて、ドアを開けたミニョに頭を下げてくる。
「コ・ミニョssiですね」
「はい・・・」
「お届け物をお預かりいたしましたので、お受取りください」
ベルボーイは、幾つかの箱と袋を持っていた。
「私にですか!?」
「はい」
「誰から!?」
伝票を取り出したベルボーイが名前を読み上げた。
「コ・ミナムssi、カン・シヌssi、ジェルミssiとなっております」
「えっ!?」
驚くミニョは、口をポカンと開けたが、すぐに気を取り直してボーイを部屋に促した。
「あっ、すみません!中に入れてください!」
「畏まりました!」
ベルボーイから荷物を受け取ったミニョは、テーブルに並べて腕を組みまた考え込んだ。
「オッパ達から!?何でしょうか!?開けても・・・良いですよね・・・」
ひとつひとつ包みを開ける。
一番大きな箱を開けると中から白い紙に包まれリボンのついたピンクの服が出てきた。
「うわーっ!かわいい!!」
箱から持ち上げ、顔の前に翳すと間からひらひら白い物が落ちた。
「うん!?何でしょう!?」
ピンクのワンピースを箱に戻したミニョは、紙を拾い上げた。
────『ミニョへ これを受け取っているという事は、俺達の考えが当たっていると思う!
この数日、テギョンは、全く家に帰れていないだろう!?』────
シヌからの手紙だ。
────『それが原因かどうかは解らないけど、ヒョン、何となく元気が無いんだ!』────
「はぁ!?どういうことですか!?」
────『だから、ヒョンの事元気にして欲しくて、俺達からミニョへのプレゼント!』────
「元気そうでしたけど」
────『ちょっと小耳に挟んだだけだから、本当に決行するのかは、俺達にも解らないけど、これを受け取ったって事は、やると思うから!!』────
「やるって何を!?」
────『深いこと考えなくて良いから!これ着てヒョンを待ってろよ!』────
3人の寄せ書きをその辺のメモに書いたようで、最後の数行は、ミナムの字だ。
「オッパが、何かするって事ですよね!?」
腕を組むミニョは、首を捻って唸っていたが、テーブに手紙を置いた。
「なんだか良く判りませんが、これは、貰っても良いって事ですね!」
もう一度ピンクのワンピースを持ち上げて微笑んだ。
「とても可愛いです!誰が選んでくれたのでしょう!?」
暫く眺めて、袋の中の小さな箱を取り出した。
「こっちは!?」
蓋を開けるとワンピースとコーディネイトされたピンクの靴が入っていた。
「わっ、こっちも可愛い!」
じゃぁ、これと次々箱を開け、袋を横倒しにしたミニョは、複数のアクセサリーを手に取った。
「わぁ、星の形もある!私の好きな物ばかり!」
ミニョの好みは、イコールテギョンの趣味に合うものだ。
3人でテギョンに合わせて選んだとしか考えられない小物が沢山入っていた。
自然、口角をあげてニヤけているミニョは、一通り中身を確認して口元を覆った。
「着替えて待ってろって書いてありましたし・・・着替えようかなぁ」
にんまり笑って箱を持ってバスルームへ向かった。
新しい物を身に着ける為に体も綺麗にと思ったミニョは、服を取り去ってしまうとはしゃぐ様にシャワーの下に駈け込んでいた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「チッ、少し、遅くなったか・・・」
腕時計を見ながら、エレベーターを待っているテギョンは、早くしろとイライラしていた。
やっと来たエレベーターに乗り込み、ガラス張りの箱の中から外を見下ろす。
すっかり、暗くなった通りを流れる車のライトが作る光の洪水を見つめていた。
僅かな時間で、最上階に到着したテギョンは、深呼吸をしてツカツカ歩き出した。
ポケットからフロントで受け取ったカードキーを取り出し、スイートルームの前に立った。
少し離れた廊下の端には、テギョンの到着を待っていたかの様にウェイターが、夕食を乗せたワゴンを押して頭を下げていた。
キーを翳したテギョンは、ドアを開け放し、ウェイターを招き入れた。
「オッパ!」
短い返事をして振り返ったテギョンは、ミニョを2度見して、一瞬固まり、けれどウェイターの言葉に
そちらを優先した。
「ああ、テーブルに置いてくれ」
「畏まりました」
テーブルセッティングをするウェイターを見ながら、横に立ったミニョをチラッと見たテギョンは、戸惑っていた。
「では、失礼いたします」
礼を言ってウェイターを送り出し、扉が閉まるのを待ったテギョンは、ミニョに向き直った。
「なっんで、そんな格好なんだ!?」
テギョンの前に立つミニョは、おかしいかと聞いている。
「あ・・・いや・・・そうじゃなくてだな・・・」
「オッパ達に頂いたのです!」
嬉しそうに答えるミニョに戸惑い続けているテギョンは、首を傾げた。
「ミナム達!?」
「はい!何か・・・オッパの元気がないと言ってましたけど・・・」
そんな風には見えないとミニョも首を傾げた。
「チッ!あいつら、余計な事を・・・」
唇を尖らせたテギョンは、むにむに動かして目尻も細くした。
「あのー、オッパ!?今日って何かありましたか!?」
ずーっと考え続けている疑問をミニョが、口にした。
「いいや、何も無いぞ」
「えっ!だったら、何でリンを置いて来いなんて!」
むっとするミニョをチラッと見たテギョンは、視線を逸らした。
「オッパ!何故ですか!?」
逸らされた視線に益々むっとしたミニョは、テギョンの視線を追いかけて前に立った。
「いっ、良いだろう!ヘイが預かってくれたんだろう!」
「そうですけど」
「あいつも遊び相手がいて、こっちより楽しいだろう」
「それは、確かに喜んでいましたけど・・・」
「そうだろう!だったら気にするな!」
「そういう事ではなくてですね!」
納得できないとばかりにテギョンに詰め寄るミニョに押されて、ジリジリ下がるテギョンは、壁際まで追い詰められた。
にこっと笑ったミニョは、テギョンの両手を掴んでいる。
「逃げ場がありませんね!オッパ!」
にこにこ勝ち誇った顔で見上げるミニョを面白くなさそうに見下ろしたテギョンは、しかし次の瞬間ニヤリと笑って、ミニョの手を掴み捻る様に捻じ曲げながら引っ張り体制を入れ替えた。
壁に押し付けられる格好になったミニョは、オドオドしながらテギョンを見上げた。
「オッ・・・オッパ・・・」
「よくもやってくれたな!」
ニヤニヤ笑うテギョンは、ミニョの顔を覗きながらジリジリ壁に追い込んでいく。
「ま・・・まだ!何もしてません!!」
焦るミニョは、踵を上げ、爪先立ちで両手を壁に付け目一杯体を細めている。
テギョンの爪先とミニョの爪先と触れ合った瞬間俯いたミニョは、鼻で笑ったテギョンの頬に触れた唇に慌てて顔をあげた。
「オ・・・ッパ!?」
優しい風を起こしたテギョンが、ミニョの両腕を掴み、背中を向けた。
「あー、もう!お前とふたりが良かったんだよ!」
向こうを向いているテギョンに首を曲げるミニョは、きょとんとした。
「へっ!?」
間抜けな声を出したミニョは、またテギョンに覗かれている。
「リンがいたら、お前は、あいつの世話で俺の事二の次だろう!?」
不満そうなテギョンは、壁に手をついてミニョの顔を至近距離で見つめまた背中を向けた。
「家に帰ってもな!あいつがいるんじゃお前といても落ち着かない!」
「えっ、えーと・・・あー・・・」
上目遣いでテギョンの背中を見ているミニョは、口元を隠して笑いを堪え、肩を震わせた。
「だから、ここにしたんじゃないか!」
不機嫌を表すテギョンは、尖らせた唇を動かした。
「久しぶりのOFFをもぎ取れたのにあいつに邪魔されるなら、家じゃダメなんだよ!」
「ふーん!そうなのですかぁ!」
いつの間にかテギョンに近づいていたミニョは、腰に回した腕をキュッと締めた。
肩越しに振り返るテギョンは、ミニョの頭を見つめている。
「ふふ、それって、私に会いたかったって事ですね!?」
テギョンの背中にくっつくミニョは、ぎゅーっと腰を締め付け、前を向いたテギョンは、天井を見上げながら口角をあげて、目元を緩めた。
「ああ、そうだ!」
にやにやにこにこ、ふふふと背中で笑うミニョに肩を竦めたテギョンは、腰に回る腕を解きながら向きを変えた。
「そんなにわたしの事が好きですか!?」
にこっと笑ったミニョが、テギョンを見上げた。
「生意気だぞ!」
「ん、リンより子供っぽいと思いますけど!?」
「何だと!」
「ふふ、そんな所も大好きですよ」
ふっと緩み傾くテギョンの顔にミニョが瞼を閉じた。
開いた瞳に赤くなるテギョンは、プイと横を向いてしまった。
「そんなの解りきっている事だ!」
いつもの余裕が少し崩れているテギョンは、ミニョの肩を抱いた。
「あは、まぁ、リンの事は、解りました!それより・・・」
テーブルに並ぶ料理を見回したミニョは、両手を併せて美味しそうだとテギョンを見た。
「ふん・・・どっちが子供だ!」
ミニョのご機嫌な様子に目を細めるテギョンは、椅子を引いてミニョを座らせた。
ふわりとしたスカートの裾を持ち上げミニョが腰を下ろす。
「じゃぁ、食うか」
「はい!」
向かいに座るテギョンは、ワインの蓋を開けながら、改めてミニョを見ている。
「何で、そんな物をくれたんだ!?」
「さぁ、オッパが元気になる様にって事らしいですけど・・・」
ミニョは、早速ナイフとフォークを持ち上げて料理を口に運んでいる。
「あいつらって、本当に何を考えるか解らないんだよな・・・」
「オッパのお仕事が上手くいって無かったんじゃないですか!?」
ワインを注ぎながら考えるテギョンは、思い当たった顔をした。
「アレのことか・・・」
「アレ!?」
「一曲どうしてもラストを決められない曲があってな」
「珍しいですね」
「ああ、だけど、それが、俺が書いたんじゃなくてリンのだったんだ」
「は!?」
驚くミニョだが、しっかり口は動き、テギョンは、ワインを口に運んだ。
「リンが、俺の譜面の中に自分のを混ぜていたんだ」
「えっ!?」
「いや、何となく違和感はあった・・・けど、いつ書いたのか解らない曲もたまにはあるからな」
テギョンは、クスクス笑った。
「やっぱり、俺の子だよな!」
嬉しそうに笑うテギョンは、水の入ったグラスを手に取った。
「そうですね!きっと今もオッパの家でピアノを弾いてる頃ですね!」
「そうだな」
ふたりきりの時間を楽しむ筈のテギョンの計画。
けれど話題の中心は、やっぱり、ファン・リンで、食事をしながらテギョンがそれに気づくのは、もう少し後のお話。