ステージでは、マイクを直したテギョンが、用意された椅子に座り、マイクをスタンドから外したシヌが、会場に向かってセレモニーを始めていた。
「ヨロブン(皆さん)楽しんでる!?」
メンバーの近況を織り交ぜ、進行をしていくシヌの一声に歓声は、大きくなり、お道化たジェルミが、シンバルを叩いている。
「はは、ジェルミも太って大変だったよな!ダイエットの為にダンスレッスンしたんだろう!?ドラムの練習より頑張ってたんじゃないか」
シヌの気安い冗談に笑いに包まれる会場からまた歓声が上がった。
「今日のコンサート、実は、俺達にとっても初めての事が多くて、客演を呼ぶのも初めてだし、それも伝説と呼ばれるキム・ヒジュンソンベが出演すると聞いて流石のファン・テギョンも震えあがったんだ」
「(なっ・・・)」
「おまけにコ・ミニョは、復帰会見後本格的なコンサートだろう!昔は俺達のステージでよく歌ってくれてたけど・・・彼女は、俺達にとってもかけがえのない仲間で・・・ミニョがいなかったら出来なかったA.N.Jellの曲もあったな」
会場への語り掛けは、一種の口撃で、笑って続けながら横を見たシヌを睨みつけていたテギョンは、そっと立ち上がってミナムに歩み寄っている。
「夫婦共演って実は俺、かなり羨ましいんだけど、皆は、どう!?羨ましい!?」
「(・・・カン・シーヌー・・・何を言う気だぁぁ・・・)」
「皆も知っての通り、今回のアルバムは、「さよなら」がテーマだ・・・聞いてくれたよねっ」
「(ヒョーン顔っ!顔、かなーり怖いぜー笑顔笑顔っ)」
足元の水を飲みながら、ニっと口角を指で引っ張っりあげたミナムを更に睨みつけたテギョンは、増々目を細めた。
「(何なんだっこのMCっお前の入れ知恵かっ)」
「(んな訳ないじゃんっ構成決めたのヒョン達だろうっ俺は関係ないっ)」
「(お前じゃなければシヌかっ!あいつは、俺に恨みでもあるのかっ)」
「(そっりゃぁ、恨みは一杯あるだろう!ヒョンだけじゃなくて俺もジェルミもだけどね)」
「(あ!?)」
「(ヒョンさぁ・・・気付いてないだろう・・・俺達、ヒョンの憂さ晴らしアイテムじゃないんだぜー)」
「(俺がいつっそんな事をしたっ!)」
「(コンサート決まってからずっとしてただろう)」
「(はあぁ!?)」
「(それ以外も基本、俺達ってリンとミニョが仲良くしてるのを嫌がるヒョンの憂さ晴らしじゃん)」
「(・・・・・・っ!!)」
会場を見回し、テギョンの背中に目を止めたシヌがクスリと笑っている。
「俺達も大分好い年になってきたから・・・恋のひとつも経験していないとはやっぱり言えない・・・「さよなら」もそれなりに経験して成長もしてきた・・・皆もそれぞれ経験があるだろうし・・・」
緊張をほぐす振りで大きく手をあげたテギョンは、体を動かしながらミナムの額を叩いた。
「(シヌヒョンの経験って実は凄まじいよな・・・「1日だけの恋」とか「一時間の恋」とか・・・さ・・・)」
「(ドラマ出演が多いからだろう)」
「(ミニョも結構出演してたじゃん・・・そういうのまた受けるの!?)」
「(さぁな・・・お前の友人のジュノだっけ・・・あいつが連絡してきたらしいけどな)」
タオルを顔に当てたテギョンの前でミナムが勢いよく立ち上がっている。
「ああー、そうそう!それ!俺も聞いたー」
テギョンを真っ直ぐ見据えたミナムの声が、マイクに拾われ、一瞬の静寂から苦笑と大歓声を呼び込み、きょとんとしたシヌが肩越しに振り返った。
「何!?ミナム!?お前が踊るの!?」
「へっ!?あ・・・いや・・・なんだ・・・それ!?」
ニヤリと頬を歪めて論(あげつら)ったシヌの腕の先にミナムが眉間を寄せている。
「聞いてなかったな・・・ヨロブン!ミナムはこういう所が愛妻との喧嘩の要因らしいから今度見かけたら突っ込んでやってくれ」
シヌの手振りと同時に会場の一角をスポットライトが照らし、立ち上がったヘイが手を振った。
「なっ、なんだー、俺っ!?ヘッ、ヘイは俺だけを愛してるんだから放っておけよー」
ぎょっと目を開いたミナムは、シヌの苦笑を横目にヘイに座る様に手振りで合図を送っている。
「あら、コ・ミナムは、3番目よ知らなかった!?」
気取ったポーズを決めるヘイの手にはマイクが握られ進行上の演出であることを見破ったミナムが、シヌを睨みつけた。
『なっ!?』
「『『『『『私達が愛してあげるわーミナムー』』』』』」
「あら、私の方が上よ」
ヘイの周りにいるスタッフもミナムの見知った顔ばかりで、大きな掛け声をあげると会場の他の一角からも次々声があがっている。
「(あー・・・り得ない・・・なんなんだこの演出・・・)」
ヒクリと頬を引き攣らせたテギョンは、もう一度水を飲み、頭を抱えたミナムは、キーボードに突っ伏した。
「(うー、なー、ヒョン・・・シヌヒョンってほんっと性格悪いよな・・・)」
「(あいつは陰湿なんだっ!隠れてコソコソ楽しむのが好きだろうっ!爺共と同類だっ!)」
ヘッドホンを装着してスタッフに合図を送ったテギョンは、ギターを掛け直して椅子に座っている。
「(あーあ、だーから、妙に気が合っているのか・・・)」
振り返ったミナムは、ステージの脇でお腹を抱えるスタッフを尻目に頬を叩いた。
「さて、「さよなら」だけど・・・この「さよなら」は、テギョンのソロでお送りします・・・ここだけの話・・・俺達でも恥ずかしくなる程家族を愛してるファン・テギョンのまた違った一面を見せて貰った一曲」
シヌのMCは締めくくりを迎え、真剣な表情で話を聞いていたテギョンの後ろに座り、同時に会場の明かりが全て落ちて非常灯だけが照らす中、ギターを爪弾く音と共にステージが再び照らされていたのだった。
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