「どーん!」
廊下を歩いていたミニョの背中に引っ付いたリンが、振り返った顔にニンマリしていた。
「もーリンっ!はしゃぎすぎですっ」
驚いた表情を張り付けたまま見ているミニョは、リンの手を握っている。
「だぁってー楽しいんだもんっ!オンマはぁ!?」
「そりゃぁオンマだって・・・」
手を繋いで歩き始めたミニョとリンは、控室に戻った。
「お帰りなさい」
「お疲れ様です」
スタッフの労いにミニョが頭を下げ、リンは、モニターに噛り付いている。
「ねー、アッパってば、いつもよりピリピリしてるー!?」
「ぇぅん、そう見えますかぁ!?」
「うん!いつものアッパとちょっと違う」
「どこが!?」
化粧を直しているミニョが、目を閉じたままリンに聞き、道具を並べ終えたジョンアが片目を閉じて振り返った。
「うふ、よく見てるわね」
「ジョンアssi」
肌に当てられた筆に目を開けたミニョは、手際よく粉を落としていくジョンアの指示でまた目を閉じている。
「違うのは、周りを気にし過ぎてるからね・・・多分いつも以上に段取りに気を使ってるのよ」
「そうなのー!?」
ソファに置かれたミニョ宛のプレゼントの山から飛び出したぬいぐるみを見つけて破顔したリンは、腕を伸ばした。
「ええ、テギョンssiって完璧主義でしょう!けどね・・・今回、周りが遊び人ばかりだから」
派手な音と共に崩れ落ちたプレゼントをミニョが、振り返っている。
「A.N.Jellは、そんな事ないと思うのですけどぉ・・・」
片目を閉じて額を抑えたミニョは、スタッフが拾っている横で、ぬいぐるみを抱きしめて笑ったリンを軽く睨みつけた。
「ふふ、そうでもないみたいですね、シヌssiに頼まれてますよ」
ジョンアが、リンの頭を撫でながらテーブルに置かれた紙をミニョに渡している。
「えっ!?こ・・・れ・・・」
「踊れるからって・・・練習もされていたでしょう!?」
「え・・・ええ・・・一応バレエの練習プログラムに入ってました・・・けど・・・」
「そのプログラムも作ったのは、シヌssiらしいですよ」
「へ!?」
「テギョンssiが、子供達にかかりっきりだったので他の練習と全体的なプログラムは、シヌssiが考えていたそうです」
ミニョに倣って譜面を覗いたジョンアが、書き込みを指し示した。
「すみませーん、ミニョソンベいらっしゃいますかぁ」
「ヒョン」
楽屋のドアをノックした青年に驚いた顔を向け駆け寄ったリンが抱き上げられている。
「よぉーリン!練習してるかぁ」
「してるよー、僕もこの後踊るもん」
親しげにリンにキスをする青年をミニョとジョンアがきょとんと見つめ、顔を見合わせた。
「はは、その前に俺が、お前のオンマと踊らせてもらうんだ」
「へっ!?」
驚くミニョを見た青年は、リンを下ろして同じ仕種で首を傾げている。
「テギョンssiのソロのイントロのバックです・・・て、あれ!?聞いてませんか!?」
照れくさそうな青年は、困り顔で後頭部を撫でた。
「え・・・ええと・・・い、ま・・・聞・・・きました!?」
「あれ!?シヌヒョンから伝えてあるって聞いて来たんだけどな・・・ま、いっか・・・俺の事、覚えてますよね」
「え、ええ・・・バレエスタジオの・・・」
「ああ、あれ、バイトなんですよ・・・本業は、アイドル目指してる練習生です」
敬礼のポーズをした青年はリンを見下ろし、同じポーズを作っているリンを笑っている。
「はぇぃ!?」
「シヌヒョンのプロデュースで冬にデビューしますっ!ヨロシクお願いしますっ!」
「えっ!?あ・・・は・・・い」
深々と頭を下げて去って行った青年をぼーっと見送ったミニョは、ジョンアを振り仰ぎ、首を傾げた。
「ああ、えと、彼・・・何でもヨーロッパの大きなバレエコンクールで賞を獲って留学出来るのにそれを蹴った子らしいです・・・シヌssiが連れて来た変わり者ですよ」
ミニョの顔を見たジョンアが苦笑いで応えている。
「へっ!?」
「それ以外にもね、アメリカのコンクールとか、あちこちで賞を獲った事のある子らしいですけどね」
背を向け衣装ラックに腕を伸ばしたジョンアを見たミニョも立ち上がった。
「そんな子がアイドルですか!?」
「まぁ、本人の夢ですから・・・経緯(いきさつ)迄は知らないですけどね」
ジョンアが差し出した衣装を受け取ったミニョは、感心顔で頷いている。
「オンマが有名な歌手なんだよー、でも、踊りじゃ認めてくれないから歌手になるんだってー」
廊下に向かって手を振っていたリンが、大きな音でドアを閉めた。
「ふぇ!?」
耳を塞ぐミニョを笑ったリンは、またモニターに駆け寄っている。
「リン君は、彼に聞いたの!?」
唇を突き出しつつ、カーテンを引いたミニョは、ドレッシングルームで着替えを始め、舌を出したリンは、ジョンアに手を差し出した。
「うん!テレビならオンマとどっかで共演出来るんだって、舞台じゃ来て貰わなきゃいけないんだけど断られてばっかりだって言ってたよー」
「あ・・・は・・・はは、どっかで聞いた様な話・・・」
ポケットを探り、棒付きの飴とチョコレートを取り出したジョンアににっぱり笑ったリンは、大きな飴を選択している。
「ミニョssi、踊りの方、大丈夫ですかぁ」
「あ、ええ、それの練習は、めちゃくちゃしていたんです!実は、オッパが唯一歌ってくれない曲だったので・・・メロディだけしか知らないのですけど・・・」
「え、ああ、そういうことですか・・・ごちそうさまです」
テーブルに戻されていた紙を持ち上げたジョンアは、重なっている二枚目を上に持ち変えた。
「ホンマっ何か食べたのー!僕にも頂戴ー」
カーテンを開けたミニョを振り返るリンが、飴を咥えて両手を差し出し、その顔にぎょっとしたミニョは、クスリと笑ってリンの手を叩いている。
「リンお菓子ばかり食べてると動けなくなっちゃいますからねー」
叩かれた両手を見つめたリンが頬を膨らませた。
「だーじょうぶだもん!ハラボジがお腹に良いってくれたもん」
ポケットから携帯用の非常食を取り出してミニョに見せつけていたリンの大きな夢時間が迫るひと時の休憩だった。
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