午前中のリハは、ギョンセが先陣を切って、チェンバーを指導しながらA.N.Jellのソロやユジンとテギョンの即興演奏、コラボレーションと計画に無い事も行われ、ミニョの膝で聴いているリンの目を輝かせていた。
「オンマー、コモ(父の姉妹)って凄ーい、泳いでるみたーい」
初めて聞くユジンの演奏に手を叩いて喜んでいる。
「そうですね!ユジンssiは、マーメイドと呼ばれていますから」
クスッと笑ったミニョに振り返るリンが、きょとんとした。
「マーメイド!?」
「ええ、音が波に乗って現れるそうですよ!音符は、お魚なのですって」
「お魚ー!?」
ますますきょとんと首を傾げるリンにミニョも笑い続けている。
「ふふ、オンマも良くは判りません・・・ユジンssiには、お魚に見えるそうですが・・・リンは何かに見えるのですか!?」
傾いていた首が上を向いた。
「うーん僕ー・・・僕はーえーと・・・」
「おたまじゃくしですか!?」
「ううんお星さまー」
天井を見上げて笑った顔が、正面を指差している。
「お星さまって・・・アッパですか!?」
「うん!アッパの顔に見えるー」
きゃははと笑うリンにミニョの首が傾いた。
「アッパの顔・・・」
「黒い音符はアッパだもん!白いのはオンマー!お月様に見えるからー」
「はぁ・・・」
曖昧にまんざらな返事をするミニョは、開きかけた口を閉じて振り向いている。
「月と星は、一対ってことですか」
ウィンクをしたユンギが、ミニョの座る椅子に手を掛け、ジュンシンが、前に回ってリンの手を取った。
「ユンギssi!おはようございます!遅かったですね・・・」
真っ直ぐステージを見つめるユンギにリンを膝から降ろしたミニョは椅子を勧めている。
「出来るなら、今日は、来たく無かったんですけどね・・・」
苦笑いを浮かべるユンギは、振り返ったリンとジュンシンを手で追い払った。
「ふふ、そんな事を仰って良いのですか!?」
「良いか悪いか決めるのは、俺じゃぁないんですよ・・・ね、残念ながら・・・」
会場を駆けるふたりは、楽器の調整をしていたユソンを呼び、ステージに駆け上がっている。
「来なかったらきっとオッパが怒り狂ってしまうのでいらっしゃってくれて良かったです」
「う・・・既に相当苛ついてるみたいですね」
「ええ、アボニムとユジンssiに挟まれて大変みたいです」
座ったユンギにクスクス笑ってステージを観たミニョは、ギョンセの指揮する背中に片頬をあげるテギョンを見つめた。
「あんな共演は、きっともう見ることが出来ないですね」
「ええ、この先出来るかどうか・・・・・・解らないですよね」
「嬉しいですか!?」
「え・・・ええ・・・」
「ファミリーコンサートですね」
「ふふ、オッパが一番嫌いなお言葉でしょうね」
思い出し笑いを堪えるミニョを見たユンギは、ステージで譜面を捲っているギョンセに駆け寄ったユジンを見ている。
「あの子に兄がいるとはね、知らなかったんですよ・・・それがファン・テギョンだとも・・・」
「え!?」
「俺があの子を紹介されたのは、大学生の時でしてね、当時の俺は、興味も感心も無くて、結婚相手の最有力候補ではありましたけど・・・恋愛対象じゃぁ無かった・・・」
突然の告白を真面目な顔で正面を見ながらしているユンギをミニョがじっと見つめた。
「リンと出会って、テギョンと再会して、ギョンセssiと会っている間にあの子がテギョンの身内だと知りました・・・ずるいですよねギョンセssi、あの子については、何も教えてくれなかった」
「ふふ、ユンギssiとの関わりをご存知なかったからじゃぁないのですか!?」
「あれは、絶対知ってましたよ・・・娘なんだから知らないって事は無いでしょう・・・まぁ、俺にとってもFグループと縁を切らない為のビジネスでしたからね・・・相手は誰でも良かったんですけど・・・まさか兄妹とは・・・」
ユンギの嘆く顔にきょとんとしたミニョは、キュィーンと鳴ったマイクの音に顔を顰めた。
「ねぇ、来たのなら参加してよ!あなたも演者なんでしょう!」
「イ・ユンギ!ミニョにちょっかいを出すな!」
テギョンのスタンドマイクを横に奪ったユジンが頭を抑えられながら叫んでいる。
「そうよそうよセオンニ(兄嫁)は、オッパしか見てないんだからっ言い寄るなら私・・・っ」
「お前が言うなっ!」
「痛ーい!オッパ、何するのよー!」
奪ったマイクをユジンの後頭部にぶつけたテギョンに弓が突きつけられた。
「うるさいっ!お前が一番面倒くさいんだっ!いちいち音にケチつけやがって!」
仰け反りながら弓を払ったテギョンは、上目で睨みつけるユジンと相対している。
「仕方ないでしょう!オッパの気持ちが入り過ぎてるのが悪いんじゃないっ!もっとさりげなく歌ってよっ!もったいぶってやり過ぎよっ!」
「俺達のコンサートだっ!主役じゃないんだから引っ込んでろっ!」
「脇役だって大事にしてよっ!食わない様に抑えてるんだからっ!」
「なんだとー」
今日、何度目かの口論が始まったステージ上に一瞬足を止めていた会場のスタッフが、呆れた表情で仕事に戻って行き、テギョンは、下を見た。
「なんだ・・・」
スラックスを引っ張っているリンが、ジュンシンとユソンを従えてニンマリ笑っている。
「僕だもん」
「は!?」
「僕のコンサートだっもーんっ」
ギョンセに駆け寄るリンは、抱き上げられて更にニンマリした。
「チッ!生意気言うなら完璧にしてから言えっ!俺が許可をしたから出れるんだっ!」
「ハラボジが完璧って言ってくれたからだもん!アッパよりハラボジの方が偉いもん!」
「そんな訳あるか!そっちは客演!俺がメインだっ!」
胸を叩くテギョンにギョンセもクスクス笑い、顔を見合わせたミナムとジェルミが、身を乗り出している。
「「「「「俺達がメインっ!」」」」」
子供達の声にジェルミ、ミナム、シヌの声も重なり、目を見開いて周りを見回したテギョンにやがて、何処からともなく大きな笑い声が立ち昇り、賑やかなステージ上で午前中のリハーサルを終えようとしていたのだった。
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