「さーて、そろそろ、俺達も始めるか」
「腕鳴らしー」
子供達の演奏を見ていた大人達が、それぞれの楽器の調整を始め、入れ替わりにステージを降りて来た3人は、テギョンの前に立っていた。
「ソンセンニム(先生)」
「アッパー、どうだったぁ!?」
見上げるリンの目と顔にいつもの元気は無くて、しゃがみこんだテギョンは、じっと見つめた。
「・・・・・・アッパぁ・・・」
黙って見ているだけのテギョンにリンが、口を窄めている。
「なんて言って欲しいんだ!?」
「えっ!?ええと・・・それは・・・」
子供同士顔を見合わせ、ミニョを振り返ったリンは、泣き出しそうな顔をした。
「オッパ!意地悪をしないでください!上出来でしょう!?」
リンの傍らでミニョもしゃがみこみ、その頭を撫でている。
「アッパが何も言わないのは、十分だからです!このまま本番も出来ると思っているからですよ!」
「ほんとー!!」
「まじっ!」
「大丈夫なんですねっ!」
「ええ」
ミニョに駆け寄ったジュンシンとユソンの頭を撫でるミニョの前で、テギョンが立ち上がった。
「ふ、思ってた以上だ!観客はいないとはいえ、このステージでそれだけの演奏が出来るなら本番も大丈夫だろう!とりあえずお前達は、着替えて来い!どう見えるかは判った!後は、細かい音のチェックをさせてもらうから、それは、午後からもう一度だ」
「わーい」
「やったー」
手を繋ぎ駆けて行こうとした3人をテギョンが、呼び止めている。
「遊んでいても良いが、練習もどこかでしてろ!さぼって良い訳じゃ無いからな」
「「「はーい」」」
元気な返事をした三人の後ろ姿を見送ったミニョが、肩を掴まれた。
「さ、て・・・ガキ共は、あれでも良いとして・・・」
振り返るミニョの顔を座ったままのユンギが、不思議そうに見ている。
「えええと・・・オッパ・・・」
「コ・ミニョssi・・・判っていると思うが・・・」
「え、えええと・・・何のこ、と・・・」
ひくひく引き攣り笑いのミニョは、テギョンの顔は見ず、手元を見た。
「お前!トレーニングをサボっていただろう!俺は知っているんだぞ!腹から声を出さなかったら承知しないからな!」
「そそそそそんな事無いですよー!リンと一緒に腹筋もしてましたー!!!」
ギロンと睨むテギョンの瞳に焦るミニョは、お腹を抑えるテギョンの手を剥がそうとしている。
「ふん!これからそれを見せてもらうからな!おいっ!ユンギ!」
ミニョの肩を抱いたままユンギを振り返ったテギョンは、ステージを見た。
「お前、いつでもスタンバイ出来るだろう!とりあえず弾いてくれ」
「構わないけど、テギョンも弾くんだろう!?」
「いや、そのつもりだったんだが、シヌに任せた」
「え!?」
立ち上がったユンギの横で、ステージを向いて答えたテギョンは、ミニョを見ている。
「こいつと踊る」
「は!?」
「お前の曲で、こいつと踊ることにしたんだよ!リンも入れてな!」
恥ずかしそうに俯いているミニョを見たユンギがきょとんとした。
「はぁ!?どいうこと!?」
「リンの願いだからな!三人で同じステージに立ちたい!それを叶える為だ」
ニヤリと笑うテギョンを見上げたミニョが、その腰に腕を回している。
「あっ、ああ、そういうこと」
「それと、アボジもバックを演りたいそうだ!爺の願いなんかどうでも良いが、まぁ、そういうことだ」
「りょーかーい、じゃぁ、シヌと合わせるかー」
ギター片手にステージに上がっていったユンギを尻目にミニョに向き直るテギョンは、その首に両手を添えた。
「リンの願いね・・・それに引きずられてここまで来たな」
「そうですね・・・でも、オッパも嬉しいでしょう!?」
「さぁ、それは、なんとも言えない・・・お前の復帰もあったし、初コンサートだ」
「A.N.Jellも久しぶりの復帰ですね」
「そうだな!新しい俺達を見せられる様に頑張るさ」
「ふふ、わたしも頑張りますよー」
ミニョの手がテギョンの腰に回って、近づいたふたりに声が飛んで来た。
「おーい、おふたりさーん!そういうのは家でやれよー!」
「見せつけてないで仕事しろー!」
「あれは違う、チャンスが今しかないんだ」
「そうなの!?リンに邪魔されるから!?」
「ああ、あんなの見てたら飛んでくるぞ」
「へぇー」
好き勝手な事を言うA.N.Jellとユンギの視線が楽屋口に逸れ、苦々しくステージを睨んだテギョンが、文句を言おうと口を開きかけた時、その足元で、いつの間にか戻って来ていたリンが、テギョンのスラックスを引っ張って、ミニョとの間に割り込んでいたのだった。
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