昨年の要素あっちこっち引っ張ってるお話(-"-;Aなので続きます。
楽器練習という意味です。
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事務所の廊下を考え事をしながら歩いていたテギョンは、チョコチョコと柱の陰を横切っていく小さな見慣れた影に足を止めて、小さく首を傾げていた。
「なんで!?いるんだ!?」
不思議に思いながらも階段を一生懸命昇って行くその姿に笑みが零れ、いつもの様にすれ違うスタッフに頭を下げている姿にクスッと声を出して笑っている。
「スタジオか・・・」
向かっている先がスタジオであることを確信して、ゆったりした足取りでその後姿を追っていく。
小さな影は、走りながら一足先に角を曲がり、幾つ目かの角を曲がった所で、ドアに入った事を確認したテギョンは、やっぱりなと呟いた。
口角をあげて笑みを作ると襟を正すように首筋を撫で上げ、軽い足取りで歩き始める。
少し重めの防音扉を押し開くと、大きなガラスの向こう側で、シヌとリンが、微笑みあい、ケースからギターを取り出していた。
その光景に更に笑みが零れていく。
リンのギターは、いつの間にかその指先から紡がれる音もメロディーをしっかり刻めるようになっていて、小さな指で届かないコードの押さえ方もシヌがしっかり調整して教えている様だった。
「!?しかし、俺に教えろと言わないよな」
ふと、テギョンの頭に疑問が浮かぶ。
「あいつの中ではシヌの方が上なのか!?」
テクニックという部分では、確かにシヌのギターは、自分よりも勝っていると理解しているテギョンだが、ピアノに関してもあまり、リンから質問を受け無いなと思ったようだ。
「作曲もしてるのにな・・・」
リンが、A.N.Jellの新曲発表前にリビングで弾いている事は良くある事で、家の玄関を開けた途端にそれが聞こえてきてテギョンは何度も驚かされていた。
しかし、それをミニョの前では弾くのにテギョンの前では滅多に弾かない。
姿を確認した途端に過去のヒット曲のメドレーやクラッシク曲へと変更する。
「あいつの中に何か線引きがあるのか!?」
腕を組んだテギョンは、首を傾げ、唇を尖らせたが、まぁ良いかと呟くと、中扉に手を掛けた。
取っ手を掴んでそれを僅かに開けるとシヌとリンの声が漏れてきた。
「・・・ね、だから」
「そうなのか!?」
ギと僅かにドアの軋む音がして、リンが振り向いた。
「アッパ!!」
振り返った顔が、僅かに動揺して驚いた表情をしていた事にテギョンの顔もスッと無表情になっていく。
「アッパー!おはよう!!」
リンの明るい声に小さく首を曲げるテギョンは、今ほどの表情が気になっている様だが、くっついて来たリンの頭を撫でた。
「お前一人か!?ミニョはどうした!?」
リンに聞いても答えないだろうと判断したらしいテギョンは、キョロッと周りを見て言った。
「オンマもいるよー!アン社長に会いに行ってるー!」
「社長に」
テギョンの目が細められ怪訝な顔をするとしまったと言って指を立て、即座にくるっと踵を返した。
「おいっ!!テギョン!!」
「アッパー!?」
リンとシヌは、きょとんと顔を見合わせていた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
ツカツカと廊下を早足で歩き始めたテギョンは、チッと舌打ちしながらまるで走りそうな勢いで歩いて行く。
「ミニョの奴、俺に断りもなく!!何考えてるんだ!」
ぶつぶつ言いながら社長室に向かっている様で、怒りを露にして歩いて行く。
社長室の前まで来るとそれでも、ハーッと一息ついたテギョンは、ノックもそこそこにドアを開けた。
ソファに対峙して笑いあっているアン社長とミニョをギロッと睨むとその傍らまでやってきた。
「社長!聞きたい事がある!!」
「OH!テギョン!待っていたぞ!」
待ってたという社長の明るい声にテギョンの怒りは、スッと消え首が曲がっていく。
「待ってたってどういうことだ!?」
「オッパ!座ってください!」
ミニョが、ソファをずれて横に手を翳している。
「ちょっと、コレを見てくれ!」
テギョンが座るのを待って、社長は、前に置かれたPCを開き、映し出された数枚の写真にテギョンの首は益々傾けられた。
「なんだ!?」
「リンの写真です!」
「リンの!?」
PCを引き寄せたテギョンは、それをクリックしながら数枚の写真を確認した。
「オーディションのやつか!?」
「そうです!」
ミニョが嬉しそうにテギョンを見ている。
「こんな写真いつの間に撮ったんだ!?」
それは、リンが帽子を被って上向き加減に写し出されている写真で、帽子に手を当ててにっこり笑っている顔などまるでミニョそのものの笑顔を浮かべて撮られている。
「可愛いですよね!!」
ミニョが、テギョンに体を向けてにっこり笑っているが、そちらをチラッと確認だけしたテギョンは、相変わらずの無表情で、アン社長に聞いた。
「それで、何をするんだ!?」
「ああ、これをお前達のサイトに載せようと思ってるんだ」
「俺達の!?」
「ああ、A.N.Jellのコピーバンドとしてイベント参加させようと思ってる」
「そんな話聞いてないぞ」
「今、してるだろ」
不機嫌そうに低い声を発したテギョンだが、アン社長は怯む事は無かった。
「こっちの子供は、どうなんだ!?」
数枚の写真の中にオーデイションの勝ち組ふたりの写真も載っていて、テギョンは、初めてふたりの顔をはっきり確認していた。
どちらもリンよりは、少し年上で、元気そうなやんちゃ坊主と利発そうな子供だった。
「ああ、ユンギが、今日連れてくる事になってる」
「今日!?」
それで、お前もいるのかという顔をミニョに向けたテギョンは、PCをアン社長に返すとそれでと腕を組んだ。
「俺に何をさせるつもりだ!?」
睨む様に視線を向けたテギョンは、唇に指を当て撫で上げた。
「話が早くて助かるな」
立ち上がって後ろのデスクから、ファイルを持ち上げたアン社長は、それをバサッとテーブルに置いた。
「早く言ってくれ」
「ああ、実力は申し分ないんだが、一応A.N.Jell楽曲演奏だからなお前にも確かめてもらいたい」
その言葉にテギョンが揚げ足を取るように聞いた。
「俺が、納得しなかったら辞めるのか!?」
「うん!?うーん・・・それは・・・」
「ミナムを入れた時みたいにもう決定事項なんだろ!」
上目遣いで、僅かに唇を突き出したテギョンは、左右に動かしている。
「あっはは、まぁ、そうだ」
アン社長は、笑顔で頷きながらテギョンに返した。
「ふん!それならそれで、それなりに出来るようにしてやるさ」
テギョンは、社長が取り出したファイルを手元に引き寄せると黙ってそこに座っているミニョを見ている。
「なんですか!?」
ミニョが首を傾げながらテギョンを見た。
「お前、リンを連れて来ただけか!?」
「えっ!?」
テギョンがここへ急いで来た理由。
ミニョの仕事に関する事だと思い込んでいたのだが、蓋を開けてみればリンの事であったのが、腑に落ちないようだ。
「ああ、わたしの事もありますよ」
「おお、そうだ、ミニョssiのサイトも更新するぞ」
立ち上がってデスクを背にスケジュール帳を確認していたアン社長が言った。
「なんだと!!」
ギッとテギョンがアン社長を睨んでいる。
「不満か!?」
アン社長は、面白そうな顔をしてテギョンを見た。
「俺を通せと言ってあるはずだ」
「お前の意見は、前に聞いたぞ」
アン社長が、問題無いと口にした。
「オッパ!PVの写真です!」
ミニョがテギョンの袖を引くように腕を掴んでいる。
「PV!?」
「ええ、後姿だけの」
「あれは前に載せただろ!?」
そのせいでテギョンも知らなかったサイトのアクセスが増えて心配が増えたと舌打ちをしている。
「ええ、でもあれって他のカットがあって・・・」
ミニョが言い難そうにテギョンに伝えた。
「他のカット~!?」
「ああ、ボツにしたカットがあったんだが、仕事復帰するならその中から使える物を厳選し直して載せる事にした」
ミニョの言葉を引き継いだアン社長が、そこに載ってるだろとPCを指し示している。
テギョンは横を見て、ミニョの仕事の事だと思って、ここへ駆け込むようにやってきた自分の考えが当たっていた事に僅かに眉を顰めたが、すぐにPCを操作し始めた。
「お前にはPV写真を選ぶ時に全部見せたぞ」
ペンを口に当てたアン社長がそう言った。
見つめる画面の中には、確かにミニョの後姿だけの写真があり、以前使用できるものを厳選した時に使っても良いと選んだものばかりで、その中からPV用に最終決定をしたのもテギョンだ。
「コレ全部載せるのか!?」
数十枚に及ぶ写真のファイルを見ていたテギョンは、もう一度聞いた。
「いや、さっき、ミニョssiと確認した!最初の3枚だけだ」
アン社長がスケジュール帳を閉じてテーブルに戻って来た。
テギョンは、最初の3枚を確認すると唇を尖らせたが、納得したようで、ああ、と言った。
「コレなら問題ない」
テギョンがそう言ったので、ミニョもほっとしたのか息を吐き出している。
「お前にしては懸命な選択だな!」
ニヤッとミニョを見て、きょとんとしたミニョは、すぐにテギョンの言いたい事を汲み頬を膨らませている。
「オッパが嫌がると思ったからです!」
不満そうに前に向き直ってそう口にしている。
「ふっ!この写真は、全て問題ないんだけどな」
ファイルの写真は、どれもミニョの顔は、見えていない為、それが、コ・ミニョであると確認出来るものは無かったが、事務所のサイトに載せるとなるとそれはミニョを紹介するものであり、以前のA.N.JellのPVに使った写真と同じものは、一部のファンだけでなく、A.N.Jellのファンやメディアにもそれがコ・ミニョであったと教える事になる。
復帰を騒がれるだろうなとテギョンは、ひとり苦い事を考えていた。
「お前のOKがとれたから問題ないな!来週UPするぞ」
「ああ、解った」
アン社長と合意したテギョンは、笑顔で頷いている。
「それじゃ・・・」
アン社長が腕時計を確認すると、あと一時間だなと言った。
「ユンギが来るのか!?」
「ああ、子供とその両親を連れてくるそうだ」
「そうか・・・俺達も一緒の方が良いな」
立ち上がって腕を伸ばしたテギョンはその手をミニョが取るのを待っている。
「ああ、ホールで会うから頼む」
アン社長は、踵を返すとデスクに座って眼鏡を持ち上げた。
「解った!それじゃ、俺達はスタジオにいるからな」
ミニョの腰に腕を回したテギョンはドアに促すとそう言いながら、扉を開けた。
「ああ、時間になったら来てくれ」
眼鏡をかけたアン社長は、デスクに向き直ってPCを開き、それを聞きながらテギョン達は社長室を後にしたのだった。