『ありがとうございました』
『いえ、お役に立てて・・・何より、でした・・・』
求めた握手に握り返される手の先で何か言いたそうな女医の顔を怪訝に思いながらも肩に乗ったシヌの手に促されそれ以上吟味することを止めて病室に足を踏み入れた。
真新しいシーツの上に横たわる安らかな寝顔に安堵と感謝を込めて額にキスを落せば長い睫毛が頬を擽った。
『オッ・・・』
『麻酔が抜けるまで暫くかかるそうだ』
夢と現と微睡みに揺れ動く瞼を見ながら今日までを振り返り、半ば脅迫だとそんな事は誰に言われるまでもなく、それに伴う後悔もまた、無いとも言えないがと傷む胸を埋めるだけの微笑を撫で擦った。
『テ・・・ジュン・・・は・・・』
誰を探すとも空を切る手を握り、院内に居る事を告げれば気色ばむ顔が目に入ったが無視することにした。
★★★★★☆☆☆★★★★★
女医に礼を述べた傍らで、こちらを窺う瞳を目にして病室に戻る事を辞めた。
その小さな背中を追いかけて角を曲がれば、細やかな図書館とも見える部屋に行き当たり、その真ん中で本を開く手に触れた。
『・・・シ、ヌ・・・アッ・・・パ』
掠れた声の隣にしゃがみ込めば、決して子供が目にする様な物では無い事に驚かされ思わずそれを取りあげようと伸ばした手を躱された。
『テジュン・・・』
首を振り、抱きしめる腕に力を籠める小さな頭に取り上げないと諭し座る様促せば僅かに剥れながらも腰を落ち着けてくれた。
『・・・どこで・・・そんなものを手に入れたんだ!?』
灼けつくような喉の渇きに漸く搾り出した声は絶え絶えで、何度も飲み込む唾が痛みを連れて来た。
『・・・・・・・・・アッパがくれました・・・オンマは、僕やアッパを誰より何より愛してる・・・けどシヌアッパも同じだけ愛していてシヌアッパもオンマを愛してるから僕のアッパで・・・世間はこれを罪と呼ぶけど罪というものは、オンマが誰より神様を信じてるから胸を痛くするもので、アッパは、それを信じていないけど胸が痛くなる事なんだってお酒を飲んで・・・でも、僕がここにいるのもまた神様のお陰だから罪は許されるものなんだろうって泣いてた・・・それで僕、アッパに聞いたんです』
パラパラと捲られるページに目を落し、そこに並んで写るミニョと俺とテギョンの上を滑る小さな手を見つめた。
『もし僕がきょうだいが欲しいと言ったらアッパは、叶えてくれるのっ、て・・・』
真摯な瞳に見上げられて一瞬怯み、その動揺に言葉が紡げずにいるとテジュンが笑った。
『そうしたらアッパが、シヌアッパに言えって言ったんです。 オンマが僕と今あんまり会えないのは、シヌアッパが忙しいせいで、でも、もし、子供が出来れば、僕ときょうだいだからそうしたらオンマと毎日会える様にしてくれるかもって』
だから、これからは、一緒にいてくれますよねと笑ったテジュンの満足げな顔にテギョンの思惑に呑まれているかもと感じていた。
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