『ね、ヒョン・・・俺達何でこんな恰好させられてんの!?』
スーツを纏って試着室から出てきたジェルミは、両サイドから腕を持ち上げられ服の弛みを直されながら鏡を見ていた。
隣の試着室から出てきたシヌとミナムもそれぞれ同じお仕着せのスーツ姿で、背中合わせの三人は、鏡越しに会話をしていた。
『ジェルミが安請け合いしたからだな。休日なのに仕事と変わらなくなったな・・・』
『だけど、いつもより数段高級だよね。俺達が普段着せてもらうのより桁がふたつくらい違うぜ』
『げっ・・・まっじ・・・・・・』
ミナムの声に袖口を見たジェルミは、直しているスタッフと目を合わせ、微笑み返された。
『肌触りも違うからな・・・とてつもなく高級な生地だってのだけは、解る・・・』
『なーっ、こんなの着て飯とか冗談でしょー汚したらどうなんのー!?』
周りのスタッフに遠慮してか地団太を踏み留めたジェルミは、目一杯顔を歪ませ、クスクス笑う声に振り返った。
『全部買取るから問題なしよ。それにそんなの着てなきゃ入れてくれないんだからしょうがないの』
カーテンを押しあげて入ってきたソヨンもまたイブニングドレスを纏っていた。
『っわ、わわわー・・・ヌナ・・・やっぱゴージャッス・・・あっ、俺、俺っエスコートしたいっ!』
腕を解放されたジェルミが手をあげ、顔を見合わせたシヌとミナムが忍び笑いを交わした。
『良いわよ。じゃぁ、ジアはミナムがパートナーね』
『なっんで俺っ』
服の直しを終えて離れたスタッフ達と入れ替わりにジアと見知らぬ女性が入ってきた。
『シヌには、別のパートナーを用意したわ。私の友人で、ジアの家庭教師よ』
『ふーん、ソヨンの知人だっていうから年寄を想像してたけど・・・逆ね・・・・・・若すぎるわ』
ダークブルーのワンショルダーイブニングを纏った女性が、シヌに近づき、さらりと腕を巻きつけた。
『貴方と大して変わらないわよ。でも、潰すのは、厳禁よ』
『あら、食前酒くらいは頂いても良いんでしょう!?』
クラッチバッグの下で、妖艶な笑みと流し目を作って隣を見た女性にぎょっとしたソヨンとシヌが、顔を見合わせ、息を呑みながらシヌの顔色を窺っていたソヨンは、やがて零れた忍び笑いにその肩を叩いていた。
『・・・・・・・・・っその辺は、本人と交渉して頂戴』
ジェルミの腕を取ったソヨンは、鏡を見る様に促し、僅かに背の低いジェルミが頬を染めながら照れ笑いを浮かべた。
『なぁー、ヌナーっ、ただの開店祝いなんだろう・・・どんなパーティなんだよー』
ジアと遊んでいるミナムは、その袖口を三つほど折り曲げて着崩し、タイも外したそうに襟ぐりを探っていて、それを見ていたソヨンが、トルソーからニットタイを外して近づいた。
『ただの食事会よ。ただ、プレス(印刷=新聞・出版関係者の呼び方)も大勢いるみたいだからね。五つ星
の料理食べたいって言ったのミナムよ。お望み通りごちそうしてあげるんだから文句を言うなっ』
ミナムのネクタイと第一釦が外され、代わりのタイが掛けられた。
『ヌナのおごりが良いって言っただけじゃねーかよー』
『ジアは置いて行くつもりだったんだけど、貴方達が一緒ならこの子も連れて行けるから私の仕事が終わるまで面倒見ててよ・・・作法は教え込まれてるから問題無し!』
タイを結び終え鎖骨の辺りを叩かれたミナムは、痛そうにそこを抑え、足を出そうとしてソヨンに綺麗に避けられた。
『チッ・・・そういうことじゃねーんだけど・・・』
『貴方達だってレセプション(歓迎)パーティに行くでしょう。それと同じよ』
『気後れしてる訳じゃねえっての・・・』
もう一度鏡を見たミナムは、それでも満足そうに頷いてジアの手を取り、ルネッタと名乗った女性の巻き付いた腕に手を添えたシヌとソヨンをエスコート出来ることに嬉しそうなジェルミと休日の思わぬ晩餐会へのスタートだった。
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