『コ・ミニョ、お前も終わりか!?だったら、そこから上がって来い』
庭にせり出したバルコニーの北側には、緩やかな扇状の階段が広がっており、テギョンはそこを指差していた。
暫く上を見つめて顎をしゃくったテギョンに従ったミニョは、ゆっくり時間をかけて階段を昇った。
『何をされていたのですか!?』
全開にされたテギョンの部屋の窓で白いカーテンがはためき、それを避け乍ら部屋に入ったミニョは、ベッドに散らばる楽譜を目に入れて聞いていた。
ピアノと向き合うテギョンは、パソコンからCDを抜きケースに仕舞いながらミニョを振り返った。
『新曲の準備だ。この撮影が終わったらシヌが、ドラマで、ミナムとジェルミは、ラジオらしいが、どちらも曲の依頼をされてる』
『へぇ、そうなのですか!ヒョンが皆さんの曲を作るのですね』
ベッドの数枚を胸に抱えたミニョは、束ねて見つめていた。
『・・・番組のイメージで作るだけだ・・・まぁマンネ共は、本人達のイメージだな・・・』
『ふぅん・・・・・・・・耳に残る曲になると良いですよね!』
軽い感想を漏らすミニョにテギョンは不満そうで、溜息を吐きながらCDをセットした。
『ったく、お前に感性の話をしようってのが間違いだったな』
『ヒョンの曲はどれも素敵ですっ!どれも好きですよ』
キーを押したテギョンの手元から音が流れ始め、耳を欹てたミニョが振り返った。
『あ、こ、れ・・・』
『コ・ジェヒョンssiの曲だ・・・お前がアフリカに行った後、オモニが送ってくれた・・・』
部屋の中を流れる音楽が、ミニョを笑顔にしていた。
それを見つめるテギョンもふっと笑ってケースの表書きを見ながらミニョに近づいていた。
『子供用の曲もあったぞ。お前達に送る筈だったんじゃないか』
ミニョの眼前にケースを翳したテギョンは、腕を引いてベッドに座らせた。
『今日は、何か疲れたな・・・少し、話相手になれよ・・・』
頷く顔を見つめながら横になったテギョンは、ぎょっとする顔を笑って膝枕を決め込み、ミニョを見上げながらその唇に触れた。
『俺も・・・男だからな、正直、そういう気持ちが無いと言えば嘘で・・・お前を大事にしたいと思ってるけど、時々、キスだけじゃ足りないと思う・・・・・・ああいうことがあれば期待もするんだ』
唐突に始まったテギョンの話の矛先がどこを向いているかといえば、それは、ふたりっきりの部屋の中で何度も起きたニアミスで、泣いてしまったミニョに対して後ろめたく思ったテギョンと不可抗力に抵抗しきれなかったミニョの心のせめぎあいは、物理的な距離を埋めるより難しい。
『お前、そういうことを知らない訳じゃないんだろう・・・ヘイが、嘘を吐いた時知らん顔してたけど知識はあるんだよな!?』
『あ、あああったとしてもそ、それをする、しないは、わっ解りませんっ』
『俺としろと言ってる訳じゃない!まぁ、他の奴となんて許さないけど』
だから、テギョンは、ひとつの結論を出していた。
知っているのか知らないのか、女だって男と同じ様な期待をするだろう。
幾らコ・ミニョが、ぼけぼけで、こちらの意図と違う事を言ったりやったりしてもその知識くらいは持っているだろう。
帰って来ると期待して、連絡がとれなくなって、絶望した日々に比べれば、今、手を握れる距離にいるのに何でも話せと言っていてもやはり、言えないこともあるだろう。
だったら、まず、自分が言えば良い。
まず、自分から、こうしたいのだとミニョに告げようと決めていた。
『あのなぁ、露骨に逃げるなと言っているんだっ俺だって傷つくんだぞ』
『・・・すっすみません・・・』
『そういうつもりが、あるって事を知っておけ・・・俺だっていつまで我慢できるか判らない・・・なるよ
うになるとも思うけど・・・正直、理性にも限界があるからな』
『・・・・・・・・・我慢する様な事なのですか!?』
『あ、のなー、今すぐでも良いならこのままでも・・・』
すかさずぶるぶる振られた頭に添えた手を引いたテギョンは、ミニョと唇を重ねていた。
いつもより深く合わさるそれは、息を殺し、滑った舌が歯列をなぞり、口腔を犯していた。
大きな目が開かれるのを眺めて、ニヤリと笑った顔が、やがて閉じられた目に満足そうに音を立てて離れた。
『ふっ、夕飯になったら起こせ・・・暫く眠る』
『え、ヒョ・・・』
ミニョの膝で目を閉じたテギョンは、あっさり寝息を立て始めていたのだった。