写真集の撮影といっても日々同じ作業を繰り返し、移り変わっていくのは、場所とその衣装に合わせて誰かが思い描いたコンセプトへの感性作業で、正解というものは存在しない。
切り取られた一瞬は、須らく偶然であり必然でもあって、たまたま起きた事なのか、調和を意識して、意図を持ったものなのか等、人の目では測り得ない。
ただ、その一瞬に働く想像力というものが、心という目をどれだけ開けるかで一枚の価値は決定づけられるのだ。
数日前、ソヨンとシヌが交わしていた自然という言葉にたまたまが無いのは、自然界に現れる美は、少なからず植物に種の保存願望がある故に必然で、シヌは、その名を借りてファィンダー越しに作られた清々しい笑みを浮かべる様になり、手元のカメラを覗き込んでいたソヨンは、不思議顔のミニョに見つめられていた。
『何が可笑しいのですか、オンニ!?』
テーブルに並べたファイルを捲っていたミニョは、衣装替えを終えたシヌとミナムに目を向けた。
『ふふ、そう、ね、面白いのは、あそこにファン・テギョンがいない事かな』
向きを変えたソヨンと同様にミニョも肩越しに屋敷を振り返った。
『今日って、ヒョンとジェルミの出番は、終わりじゃぁないのですか!?』
『ええ、撮影の出番はもう無いわ・・・でも、あそこで演奏をしてる姿は、絵になるでしょうね』
あそこと二階のベランダを指差したソヨンは、聞こえて来るピアノの音に耳を澄ませ、ミニョもまたそれに倣っていた。
『作曲をされているのでしょうか!?』
窓が開いてるらしく途切れ途切れの音が、メロディーを紡いでは、止まるを繰り返し、庭にささやかなBGMを届けていた。
『さぁ、でも彼には丁度良い暇潰しね・・・ところでミニョ!?決まったの!?』
ミニョの捲っていたファイルを奪い取ったソヨンは、開かれたページを確認して頷いた。
『ふぅん・・裏庭にある岩かぁ・・・確かにあそこは、面白いかも・・・』
場所を記したファイルを見たソヨンは、スタッフを呼びつけて指示を出した。
『裏庭に場所を移すわ。機材を向こうにセッティングして頂戴。天気も良いし、月も出てるから良い画が撮れそう』
ミニョにファイルを返し、一台を首に残して他のカメラを片付けたソヨンは、パソコンを抱えた。
『ああ、ミニョ、あなたも今日の仕事は、終わりで良いわ。明日から二日間は、完全なオフだから、今のうちにデートプランでも相談しておきなさい』
『へ!?』
ソヨンに付いて行こうとしたミニョは、来なくて良いと手を振られていた。
首に掛けたカメラを構えながら二階へ向かって大声を出したソヨンは、暫くして、身を乗り出したテギョンに向かってシャッターを押した。
『ミニョを返すわ。オフの契約は、あなたが守らせてね!車が必要ならモッタ夫人に言って頂戴』
そう言って笑って裏庭へ向かって行くソヨンをテギョンもミニョもきょとんと見送り、やがて、見合わせた顔を恥ずかしそうに逸らしていたのだった。
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