『うるせーなー・・・何をやってるんだよ・・・ヒョンは・・・』
風呂上がりのほかほかした湯気を体に纏わりつかせたミナムは、開け放した廊下のさんざめきに耳を傾け、首にタオルを巻いただけの裸体でパソコン操作をしていた。
『っしっ、これでOK!今日も愛してるぜ!』
スナップを利かせて決定キーを押し、投げキスもしてファンサイトの更新を終えるとガシガシ頭を拭き始めた。
『ミナム、終わったー!?』
『ああ、”ジェルミとらぶバス”ってアップしといた』
短パン一枚でバスルームから頭を拭いて出てきたジェルミは、ベッドに散らばったタブレットのひとつを手にしてサイトを確認し、互いの肉体美を強調して抱き合っている姿を笑った。
『際どいねぇ・・・』
『好いんじゃんその方がペン(ファン)も喜ぶだろう!』
『俺達ふたりの小説が出来たりして!?』
『それって、どっちがどっち!?』
『そりゃー、俺の方がソンベ(先輩)なんだからー』
幾分、下品な笑いを浮かばせて顔を寄せたミナムは、小突かれた頭を抱えて舌打ちをした。
『ジェルミ相手じゃジョリーを可愛がるみたいだからなぁ』
『スケベなこと考えるなよっ!純愛で良いよっ』
『今時の女の心理知らなすぎだろっ!』
にひひと笑ったミナムは、タオルを翻してソファに放り投げて着替えを始め、落ちたタオルを暫く見ていたジェルミは、自分の服に手をかけながら神妙な声を出して振り返った。
『なぁ、ミニョってば・・・大丈夫なの・・・』
『なんだよ唐突だな』
『だってさぁ、この前ご飯食べた時言ってたじゃん・・・出て行った方が良いのかもって・・・』
『覚えてたのか!?』
『そりゃぁ、覚えてるよ・・・俺、記憶力は良い方だもん』
むっとしたジェルミを笑いながらミナムの表情も硬くなっていた。
『ヒョンは、この世界でやっていけると考えているんだろう!?』
『んあ、まぁ・・・けど、まだ本気で誘ってる訳じゃないみたいだ・・・話の流れでそういうことを言った
だけだろう・・・』
ミナムは、先日酔わせてしまったミニョの言葉を思い出していた。
「もし、もしも、ですよ!仮に私がオッパと同じことをするとして、それは・・・大変でしたけど楽しかったし・・・でも、でもれすねー、A.N.Jellじゃぁなくなるんですよー・・・コ・ミニョとしてやるって事で・・・」
「コ・ミナムは、とっても人気者なのれすよーこの前も間違われて・・・困ったの・・・あっ!そ、オッパ女装してデートしたでしょう!だ、からー、ミナムだって言われちゃうんですよー」
絡み酒だと思いながら愚痴を零すミニョの不安と不満ともうひとつ口に出さなかった事を考えていた。
『何にしたってミニョが答えを出さなきゃならないって言っただろう!相手はヒョンだぜ・・・俺達が考えたって善い様にはいかねぇよ』
着替えを終えたミナムは、ベッドの上を片付け始め、ジェルミは、それを横目で見ながら考え込んでいた。
『ぅん・・・そうだと思う・・・けどさぁ、シヌひょんの事もあるじゃん』
ベッド下の籠に機械類を放り込んでいたミナムの動きが止まった。
ゆっくり横を見たミナムは、シャツから首を出したジェルミと顔を見合わせた。
『・・・・・・お、前、何か見たの!?』
ミナムの素っ頓狂な顔つきと声にジェルミが渋い顔をした。
『そういうミナムこそ・・・』
暫く、見つめ合うふたりの間で視線だけの会話が交わされていた。
互いに見たもの聞いたものは違っても狭い宿舎の中で、それが故意にしろ偶然にしろシヌがミニョと過ごしていたとして自分達に置き換えてみれば当たり前といえば当たり前なのだが、普通に見える言動は、正に女性を口説いてるそれだ。
『んー、結構あからさまだけどなぁ・・・でも、相手ミニョだからなぁ・・・ヒョンだって気付いて無い訳じゃないだろうけど、黙ってるから俺も何も言わないんだけど・・・』
『ヒョンもミニョ次第って思ってるからだろう・・・』
シヌもそう思っているだろう。
ミニョは、テギョンが好きだと自覚しているし、シヌに感じるそれとは明らかに違うとはっきり伝えたとミナムは聞いた。
シヌも、また振られたとミナムに零し、けれど、何度振られても好きでいるのは自由で人の心は、ある程度満足するまでは、止まらないと笑ったのもシヌだ。
だからその心を満たす為、足りない部分を懸命に補う為の夜遊びなのだと。
『ヒョンは、ミニョにこの仕事をして欲しいんだよね・・・どっちかというと・・・』
黙りこくったミナムを着替えを終えたジェルミがドアの処で呼んでいた。
『テギョンヒョンもシヌひょんの事考えてる!?』
『多分な・・・俺達と同じ仕事をすれば、時間が解決してくれるなんて悠長な事は無いも同然』
だから、あの契約書には、テギョンの同意と同一の仕事のみという項目が入っているのだとミナムは考えていた。
スキャンダルの最中の隠し事は、まだ尾を引いている。
シヌが黙っていたことをテギョンがどう考えたのか。
それが、ミニョを心配しているからだけで無く、他ならぬシヌへの牽制として書かれているのだと。
脱ぎ散らかした衣装を抱えたふたりは、廊下に出て互いの耳元で話を続けた。
『かといって遠距離恋愛する気も、無いよ・・・ね』
『事故多発地帯だなんだというけど、結局ヒョンの独占欲だろう・・・・・・野放しに出来ないんだぜ』
『ミナムじゃぁないのにね』
のほほんと返したジェルミにミナムの額を筋が走った。
『どういう意味かなぁ!?ジェルミちゃーん!?』
階段を降り始めていたジェルミは、ミナムの顔を見るや否や駆け出した。
『ライブイベント参加してたの知ってるんだぜー、小遣い稼ぎしただろー』
『あれは、マ・室長に頼まれたんだよー』
『今月だけで3回も行っただろう!社長に言いつけてやるー』
可笑しそうにふざけあいながらダイニングに駆け込んだミナムとジェルミだった。