背中を向けて食事をしているミニョを眺めながら、スプーンを口に運んでいるテギョンは、むすっとしていたが空港で見送る前の話を始め、黙って聞いていたミニョが、申し訳なさそうに向きを変えた。
『ミナムオッパが、ヒョンには話をしてあると言ったので・・・』
『視察の話は聞いたっ!けどなっお前が行くなんてこれっぽっちも聞いて無かった』
『アン社長もお給料を前金で下さったんです・・・』
断れなかったと口を濁すミニョにテギョンが黙り込んだ。
ミニョが仕事を探すのもそれを遂行するのも大人なのだから至極当たり前の事なのだが、納得がいかない顔は、次の言葉を探して口を動かし、話を聞いていた。
『いつまでもここに居る訳に行かないですし・・・中山聖堂に戻って院長様にも相談しようかと・・・』
『あんな田舎で何が出来るんだ』
田舎で仕事をすると決めつけたテギョンの言葉にミニョが僅かに戸惑った。
『ポユグォン(保育院=児童養護施設・孤児院・保育園)で、子供達の面倒を見ながらアジョシ(近所のおじさん)のお手伝いとかが出来ます。これでもバイクの運転も出来るので、何でも出来ますっ』
自信満々のミニョの頷きに根拠がないと呆れ顔のテギョンが、向きを変えた。
『あのなー、お前、もっとこう・・・向上心みたいなものは無いのか!?ミナムの身代わりやってたん
だから芸能人になりたい・・・とか』
果てしてそれは、テギョンの願望か、頭を過ぎった契約書の断片をそのまま言葉として現した。
『それって向上心なのですかぁ!?』
『あん!?ああ、いや、まぁ・・・そういう訳じゃ・・・』
まだ、ミニョとは何も話せていない。
視察旅行がなければミニョを連れて行く筈だった場所には身代わりで良いとミナムを連れて行き、
ミニョに紹介をしてからミナムに同意を得ようとテギョンが合意直前まで内容を詰めた契約書は、今、ミナムの手元にある。
いずれ、ミナムのサインを貰うつもりではあったが、未成年ではない以上、ミニョの意志ひとつだ。
他愛ない会話の中にミニョの芸能という仕事への意欲をテギョンは、探していた。
『向上心はありますよーボランティアは、続けたいです!写真集の撮影が終わったらソヨンオンニがまたアフリカへ行かれるそうなっ・・・の・・・で・・・』
全部を聞かない内に立ち上がったテギョンがミニョを見下ろした。
あげた手を所在なさげにゆっくり下ろし座り直したテギョンは、落ち着かせるように溜息を吐いた。
『まさかまた着いて行くとか言わないよな!?』
『言いませんよー、やっと帰って来れたのです・・・ヒョンの傍に居たい・・・です・・・』
『その割には、お前、ここを出て行くと言ってるじゃないか』
『出て行ったってヒョンには会えるじゃないですかぁ、あ、でも今みたいに会うのは難しいですよね』
『っていうかなぁ!お前、ここを出て行きたいのかっ!俺と一緒に居たくないのか!?』
『一緒には居たいですよぉ・・・でも、お仕事も探さなきゃいけないし・・・キョ・・・あ、いえ、何でも・・・』
口籠った言葉を推測した頭でニヤリと笑ったテギョンは、口元を歪め得意気にミニョを見た。
『俺と付き合ってる自覚はあるんだ』
『えっ!?ええと・・・恋、人・・・で・・・す・・・よ・・・ね・・・』
『じゃぁ、俺が今すぐ結婚しろと言ったらするか!?』
『へっ!?』
赤らめた頬を抑えたミニョの顔を柔らかい目元がじっと見つめ、それを見つめ返す顔の間に暫しの
沈黙が降りていた。
しかし、大きな笑い声と共に一瞬の静寂は一気に破られていったのだった。
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