『ヒョン・・・』
ミニョを抱き上げたテギョンは、ミナムをというより背中のジェルミを一瞥した。
酔っぱらってるジェルミは、ミニョと同様に眠そうな顔をして焦点の合わない目で周りを見渡しては、ミナムの背中で欠伸をしている。
『連れてくぞ』
抱き上げたミニョを連れたテギョンは、階段を昇り始め、ミナムが呼び止めた。
『なんだ!?』
『いやー、そのさ・・・ミニョにはミニョなりの事情もあるんだから・・・』
『解ってる・・・けど俺の話を聞かない内から悩んで貰ってもな・・・』
言いながら階段を上がっていくテギョンは、擦り寄って来たミニョに微笑んだ。
『いや、それはさ・・・ミニョの悩みってそういうことじゃないっ!んだ・・・けど・・・』
ミナムが全部を言い終わらない内に階段を昇りきってしまったテギョンは、もう見えなくなっていた。
天上を見上げながら溜息を吐いたミナムは、嘔吐(えず)いたジェルミにぎょっとすると慌てて階段を降り始め、ジェルミの部屋に駈け込んでバスルームのドアを蹴り開けた。
『ったく、飲み過ぎだって!何なんだよっ!ったく、なーんで俺がお前の介護なんかっ!』
毒づきながらジェルミの世話をするミナムは、バスタブに放り込んだジェルミの頭にお湯をかけた。
ひゃっと肩を竦ませたジェルミは、ミナムが手にしたシャワーホースを見止め、濡れそぼった顔を拭って髪を掻き揚げるとミナムに抗議の目を向けた。
『ちょっとーミナム!何するんだよっ!』
『うるさい・・・目は覚めたか!?』
『あー、あー、目は・・・覚めてるよ・・・ずっと・・・』
『あぁん!?』
『目は覚めてたんだよっ!というか俺、酔っぱらってないし・・・』
『はぁ!?それって演技ってことか!?なんでそんなっ・・・』
バスタブの淵に頭をつけたジェルミの顔をまじまじと覗き込んだミナムは、突如その頭を叩いていた。
『って、痛いなーミナムっ!何するんだよー』
『いや、まぁ、なんとなく・・・』
叩いた手を見つめてお湯を止めたミナムは、膝を抱えて座り込んだ。
何となくではない。
ジェルミの懸念を感じ取ったから叩いたのだ。
ミニョと三人で食事をしながら話していた事。
とりとめのない会話からいつの間にか恋愛相談になっていた。
そういえば、こいつも。
そんなことを考えているミナムにぼーっと項垂れていたジェルミが話しかけていた。
『ねー、ミナムー、ミニョはさぁ、ここを出て行きたいのー』
やっぱり。
そう思うミナムは、大きな溜息を吐いて、壁に寄りかかると頭の後ろで手を組んだ。
『いや、行くとこが無いのは知ってるだろう・・・身内は俺しかいないんだ・・・コモニム(叔母)の世話になるのもなぁ・・・あの人も正直フラフラしてるし・・・まぁ、俺が部屋を借りてやれば良いだけの話なんだけど・・・』
『ヒョンはきっと出て行くなって言うよねー』
『まぁ・・・そうだろうな・・・』
ミニョが悩んでいる事。
仕事だったり、住む場所だったり、テギョンの元に戻って来てから数か月、何もしなくて良いからゆっくり考えろと言ったのはテギョンだったが、ミニョを連れて仕事に出かける事もある。
黙って送り出すミナムも終わればデートだろうと見ているだけだ。
ふと、あの契約書がミナムの頭を過ぎっていた。
『いっそ、ミニョも俺達と同じ仕事をしてくれれば好いんだけどなぁ』
ぼそりと呟きながら嘔吐いたジェルミにやっぱり酔ってるなと再び蛇口を捻ったミナムは、シャワーを握らせて立ち上がった。
『ったく、回んない頭で色々考えてんなっ!ミニョがどうしたいかは本人次第なのっ!』
面倒を見てやることは、今のミナムには容易くなっている。
ミニョと別々に暮らす事等ミナムにとっては何でも無い事だ。
ただ、問題は、ファン・テギョンよりあの爺さんだよなぁと考えるミナムは、ミニョの今後を慮りながら、部屋に戻っていったのだった。
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